本屋さんと私

『手紙にそえる季節の言葉365日』山下景子(朝日新聞出版)

 

 日々働いていると、たとえば著者さんにお手紙を書いたり、なにかを送るときに一筆添えたり、なにかしら「書く」ことが多いです。これは出版社特有のことかもしれませんが、手紙は書かずとも、働く人はみな、メールは毎日打っているはず。
 けれどそんなメールの文面も、「お世話になります」「お身体ご自愛ください」の繰り返しだったり......添える一言、ほかに何かないのか!と思わず自分にツッコミを入れたくなってしまうボキャブラリーのなさに嘆いていたところ、一冊の本に出会いました。
 『美人の日本語』(幻冬舎)、『二十四節気と七十二候の季節手帖』(成美堂出版)など、美しい日本語にまつわるご著書を多く出されている山下景子さんの最新刊『手紙にそえる季節の言葉365日』(朝日新聞出版)です。手紙やメールに添えるのにちょうどいい季節の言葉が、例文とともに1年365日分紹介されているこの本。こんな本を待っていた...!と感動するとともに、ああ、日本語ってこんなに美しいんだと、改めてその楽しさを教えてくれる一冊なんです(PC横の必須本!)。
 今回の「本屋さんと私」では、著者である山下景子さんにインタビュー。本の話、日本語の話、たくさん伺ってきました。

(聞き手:新居未希、友成響子、構成:友成響子、写真:新居未希)

第143回 情報はなるべく原典に

2015.04.28更新

初の著書が26万部超のベストセラーに

―― 以前は音楽講師をされていたそうですが、どういうきっかけで本を出されたのですか?

山下もともとは作詞作曲をしていて、いろいろな賞もいただいていたのですが、音楽教室の仕事のほうが楽しくなって、作詞作曲からはしばらく離れていたんです。当時、西宮市で一人暮らしをしていましたが、阪神淡路大震災のときに住んでいたアパートが全壊しました。全壊したがれきのなかから持ち帰れた荷物に、たまたま作詞作曲のためにきれいな言葉、好きな言葉を書き溜めた昔のノートがあったんです。
 たくさん書き溜めていたので、なんとかできないかなと考えたなかで、ノートの中身を毎日一語ずつ、折々の季節に応じで言葉を選び、私自身のメッセージも添えてメールマガジンで配信するという形を思いつきました。スタートしたのは、2004年の5月のことです。

―― 毎日、配信されていたのですか。

山下はい。土日だけ休んで、平日は毎日。あのころはとにかく蓄積がありましたし、一語一語、自分自身のなかでずっといろんなドラマを描いていた言葉ばかりだったので、メッセージを考えるのもすごくラクだったんです。
 音楽講師の仕事もしながらだったので、20時まで仕事をして、帰宅してから文章をまとめ、日付が変わって毎日0時10分に配信していました。さらに、メールマガジンの補足として、写真とこぼれ話を載せるブログも同時に更新していたんです。

―― ブログまで、毎日!?

山下よくできていたなあと、自分でも思います(笑)。体力もいまよりずっとありましたね。
 最初は、作詞などをされる創作関係の方が読んでくれるのかなと思っていたら、実際には一般の方が多く読んでくれて、普通のOLさんや主婦の方などから反響があったんです。お便りをいただいたりもして、びっくりしながら続けていました。
 そして同じ年の8月には、メールマガジンの読者だった幻冬舎の編集者から「本にしませんか」という連絡をいただいたんですよ。

―― 5月にスタートされて、わずか3カ月後のことだったんですね。

山下スタートして間がないのに......と驚きましたが、一年分の言葉を書き下ろしてくださいというお話で、その年の年末には一冊を書き上げていました。『美人の日本語』という書名で発行されたのは、翌年、2005年の3月です。ちょうど10年前のことになりますね。

―― 単行本のみで26万部、2008年に出た文庫版と合わせて30万部超(2015年3月時点)だそうですが、初の著書がベストセラーとなったわけですね。『美人の日本語』というタイトルは、山下さんがつけられたのですか?

山下いえ、編集者です。原稿を書いているあいだはずっと、『ことのはカレンダー』という仮タイトルで進んでいたんです。でも、「もっと簡潔なほうがよいと思います。たとえば『美人の日本語』とか......」というメールをいただいて(笑)。最終的には、なかば編集者に押し切られたような形で、このタイトルに決まっていました。

―― インパクトが大きいタイトルだと思います。

山下でも「美人」というのも、気恥ずかしいというか......、内容にもあっていないんじゃないかと、当初は思っていたんです。実際、読者のなかには男性もいて、「買うのにすごく勇気がいった」とメールをいただいたこともあります。


執筆時は古文書を紐解いて資料に

―― 『美人の日本語』以降も、次々に著作を出されていますが、歳時記や古典、和歌、歴史......と幅広い教養が詰まった内容です。執筆のためには、どのように情報収集をされているのですか? 

山下主に書物からですが、心がけているのはなるべく原典にあたるということです。最近はインターネットなどでだれかがチラリと「こうじゃないか」と言ったことが広まって、あたかも正しい知識のように扱われてしまうことがあります。そういうのがすごく怖いなと思っていて......。いったい何が正しいかわからないので、なるべく原典を調べるようにしています。
 
 信頼がおけると思っていたバイブル的な書物でも、やはり間違いはあるんです。どの本にも同じことが書いてあって、皆が言っているんだから大丈夫だろうと思っても、原本を調べてみたらじつは間違いだった、ということもありました。参考文献を見たら皆が同じバイブル的な文献を挙げていたので、一様に間違っていたわけですね。
 歴史にしても、考えてみたら自分が学校で勉強した時代から時間もたっているし、常識と思っていたことが変わっていたりもしますよね。
 だからとにかく自分の目で原典を確かめなければと思うようになり、そのために変体仮名の勉強もして......。最近、ようやく読めるようになってきたところです。

―― 変体仮名の勉強まで......! そういった古文書などは、どういうところで見られるのですか?

山下いまは国会図書館や国立公文書館、大学関係の図書館でも、インターネットで古文書を公開してくれているんです。すごくいい時代ですよね。古文書なので見づらいところはダウンロードして印刷もできるし、依頼したらコピーも送ってもらえます。

 それからいま、京都にある日文研(国際日本文化研究センター)という研究機関で、平安時代の公家の日記を研究している先生に付いて、古記録の勉強をしています。
 じつは原本といっても、本当に一字一句正しいかどうかはわからないのです。そこまで突き詰めて探求し始めると本当にきりがないのですが、おもしろいですよ、とても。


<つづきます>

   

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山下景子(やました・けいこ)

兵庫県神戸市生まれ。 現在、神戸市在住。
武庫川女子短期大学国文科卒業後、作詞家を目指し、「北海道・北の讃歌コンクール」「愛知・名古屋マイソング」で最優秀曲など、数々の賞を受賞する。
作詞のために集めた美しい言葉の切れ端を、メールマガジン「センスを磨き、幸せを呼ぶ~夢の言の葉~」で発行中。
初めての著書『美人の日本語』(幻冬舎)は、26万部を超えるベストセラーに。
その他の著書に『花の日本語』『ほめことば練習帳』 『現存12天守閣』『美人の日常語』(以上、幻冬舎)、 『しあわせの言の葉』(宝島社)、 『日本人の心を伝える思いやりの日本語』(青春出版社) 、『美人の古典』『イケメン☆平家物語』(PHP研究所)、 『暦を楽しむ美人のことば』(角川ソフィア文庫)、『オトメの和歌』(明治書院)、『二十四節気と七十二候の季節手帖』(成美堂出版)、『大切な人に使いたい美しい日本語』(大和書房)、『手紙にそえる季節の言葉365日』(朝日新聞出版)等がある。

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