本屋さんと私

『手紙にそえる季節の言葉365日』山下景子(朝日新聞出版)

 

 日々働いていると、たとえば著者さんにお手紙を書いたり、なにかを送るときに一筆添えたり、なにかしら「書く」ことが多いです。これは出版社特有のことかもしれませんが、手紙は書かずとも、働く人はみな、メールは毎日打っているはず。
 けれどそんなメールの文面も、「お世話になります」「お身体ご自愛ください」の繰り返しだったり......添える一言、ほかに何かないのか!と思わず自分にツッコミを入れたくなってしまうボキャブラリーのなさに嘆いていたところ、一冊の本に出会いました。
 『美人の日本語』(幻冬舎)、『二十四節気と七十二候の季節手帖』(成美堂出版)など、美しい日本語にまつわるご著書を多く出されている山下景子さんの最新刊『手紙にそえる季節の言葉365日』(朝日新聞出版)です。手紙やメールに添えるのにちょうどいい季節の言葉が、例文とともに1年365日分紹介されているこの本。こんな本を待っていた...!と感動するとともに、ああ、日本語ってこんなに美しいんだと、改めてその楽しさを教えてくれる一冊なんです(PC横の必須本!)。
 今回の「本屋さんと私」では、著者である山下景子さんにインタビュー。本の話、日本語の話、たくさん伺ってきました。

(聞き手:新居未希、友成響子、構成:友成響子、写真:新居未希)

第144回 本で言葉の楽しさを再認識

2015.04.29更新

花の名前に比べてきれいな名前が少ない鳥

―― 山下さんは鳥の愛好家でもあり、「日本野鳥の会」の会員でいらっしゃるそうですね。

山下鳥の習性って、おもしろいんですよ。知れば知るほど興味がわきます。本当かどうかまだはっきりしていないそうですが、オオヨシキリは一夫多妻制で、オスは正妻の巣作りだけ手伝って、愛人の巣作りは手伝わない......なんて話も聞きます(笑)。
 聞き做し(ききなし)も覚えていると、季節の移り変わりを知れるのでいいですよ。「土喰って虫喰って口渋い(つちくって むしくって くちしぶい)」というツバメの聞き做しを知っているだけで、鳴き声に気づけるようになって、「今年もツバメがきたな」とわかります。
 でも鳥はけっこう見分けるのがむずかしいんですよ。幼鳥と成鳥で姿が変わる鳥や、オスとメスで異なるものも多いですし。見つけたら何の鳥かすぐにわかるようになりたいので、うちには鳥の図鑑もたくさんありますよ。

―― 著書にも、鳥はよく登場していますね。

山下はい。ただ、花の名前に比べて鳥はきれいな名前が少なくて、ずいぶん直接的なんです。目白(メジロ)なんかもそうですね。鳥は好きなのですが、美しい言葉として選ぶのは、なかなか難しいことも多いです。鷽(ウソ)などは琴弾鳥(ことひきどり)というきれいな別名がありますけれど。


「書簡集」で日本語の愉しさを再認識

―― ふだんはどんな本を読まれることが多いですか?

山下仕事関係の本が中心になってしまうので、最近は意識して、仕事とはぜんぜん違う分野の小説なども読むようにしています。いまは落語好きの主人の影響で、落語の本を読んでいます。落語の笑いって、ほのぼのした感じがしてすごく好きです(笑)。

―― 好きな作家さんはいらっしゃいますか?

山下どの人もいいところがあるので、この人、とは決めきれないところですが......。いま手元に、昨年出た『大切な人に使いたい美しい日本語』(大和書房)があるので、この本の関連書を挙げてしまうのですが、『九条武子夫人書簡集』(佐々木信綱編/実業之日本社)は印象深い本でしたね。何気ない口語調の言葉で綴られているのですが、とてもきれいな文章でした。
 『田辺元・野上弥生子往復書簡』(岩波書店)も素敵な本でしたよ。野上弥生子が、恋人の田辺元という哲学者と交わした手紙なのですが、核心に触れるかと思うと、匂わせては避け......という感じで、お互いにすごく気を使い合っていて......。一語一語が、本当に完璧でした。
 あとは......、20代のころは司馬遼太郎さんとかの、歴史小説が好きでたくさん読みましたね。

―― ふだん本屋さんには行かれますか?

山下最近は近所の本屋がどんどん減ってしまったこともあって、図書館のほうがよく行っているかもしれません。神戸駅と新開地駅を結ぶ地下道に古本屋がずらりと並んでいるのですが、そこは通りがてら、掘り出し物がないかとのぞくこともありますね。
 むかし、一人暮らしをしていたころによく行っていたのは、西宮北口にあった街の本屋さんです。もうなくなってしまいましたけど、あのころはまだ街の本屋さんがいっぱいありましたから、待ち合わせにもよく使っていました。



伝記がきっかけで7歳で作詞作曲

―― 大学では国文学を学ばれたということですが、子どものころから本がお好きだったのですか?

山下本と音楽が好きでした。国文に進むか音楽に進むか、どちらかにしようと思っていましたね。小さいころから誕生日や成績が良かったりしたときなどには、いつも本かレコードを買ってもらっていました。

―― たとえば、どんな本を......?

山下とくに伝記が好きでしたね。作曲を始めたきっかけも、モーツァルトの伝記なんです。本を読んで、モーツァルトが6歳で初めて作曲をしたと書いてあったから、当時私は7歳だったんですけど、「それじゃ、早くつくらなくっちゃ!」と思って、初めて作曲をしたんです。

―― 7歳で作曲を!?

山下「あさがお」という曲で、メロディーと詞を同時につくったんです。ところが、それをピアノの先生に見せてみたところ、直されてしまったんですよ。先生は標準語のイントネーションに合わせたほうがいいと思ったみたいで、そういうふうに直されて......。私のつくった曲は、関西弁のイントネーションだったんですね(笑)。でも、そのメロディーが子ども心に嫌いで......、「もう先生には見せない!」と思ってしまって、それきりずっと自己流で作詞作曲を続けていました。

―― それは残念な体験でしたね。でも伝記が大きなきっかけとなったのですね。


字を読む前から絵本を丸暗記した幼少時代

山下その後も、伝記はいろいろと読んでいました。印象に残っているのは、ベートーベンなど大物の作曲家ばかりですけど、読むたびにレコードも買ってもらって曲を聴いていましたね。
 うちは両親が商売をしていて忙しく、本も読まなければ、レコードも聴かなかったような家なんです。でも祖母がとても本好きな人で、幼いころは寝るまえによく絵本を読んでくれていました。それで、私も本が好きになったんだと思います。お気に入りは『さるかに合戦』でした。
 いつも祖母が絵本を読んでくれる姿がかっこいいなあと思っていて、私も祖母を真似て、近所の子に読み聞かせまでしていたんです。まだ字が読めるようになる前だったので、絵本を耳で覚えて丸暗記して......。近所の大人にびっくりされるのも嬉しかったんだと思います。
 そのために、毎晩、祖母にくりかえし同じ絵本を読んでもらっていました。丸暗記だと途中で止めると分からなくなるので、祖母が少しでも間違うと「もういっかいさいしょから!」「もういっかいよんで!」とせがんでいたそうです。

―― 当時のことを、覚えてらっしゃいますか?

山下いえ、それがじつは、まったく覚えていないんです(笑)。祖母がよく思い出話をしていたので、あとから知りました。
 明治の生まれの祖母の時代、女性が勉強をするのがむずかしく、若いころはいつも隠れて本を読んでいたそうです。奉公先でも夜になったらこっそり本を読んで、見つかっては怒られ......というそんな時代で。よく「景子ちゃんは好きなだけ勉強できていいなあ、好きなだけ本を読めていいなあ」と言っていましたよ。だからしつこい私の要求にも、根気強く付き合ってくれていたのかもしれません。祖母にはとても感謝しています。
 大人になって作詞コンクールで入賞したときには、大喜びしてくれましたね。『美人の日本語』の出版には間に合わなかったので、仏壇に本を供えましたけれど。  

―― きっと天国で、いまのご活躍を喜んでいらっしゃることでしょうね。今日は素敵なお話、本当にありがとうございました。


   

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山下景子(やました・けいこ)

兵庫県神戸市生まれ。 現在、神戸市在住。
武庫川女子短期大学国文科卒業後、作詞家を目指し、「北海道・北の讃歌コンクール」「愛知・名古屋マイソング」で最優秀曲など、数々の賞を受賞する。
作詞のために集めた美しい言葉の切れ端を、メールマガジン「センスを磨き、幸せを呼ぶ~夢の言の葉~」で発行中。
初めての著書『美人の日本語』(幻冬舎)は、26万部を超えるベストセラーに。
その他の著書に『花の日本語』『ほめことば練習帳』 『現存12天守閣』『美人の日常語』(以上、幻冬舎)、 『しあわせの言の葉』(宝島社)、 『日本人の心を伝える思いやりの日本語』(青春出版社) 、『美人の古典』『イケメン☆平家物語』(PHP研究所)、 『暦を楽しむ美人のことば』(角川ソフィア文庫)、『オトメの和歌』(明治書院)、『二十四節気と七十二候の季節手帖』(成美堂出版)、『大切な人に使いたい美しい日本語』(大和書房)、『手紙にそえる季節の言葉365日』(朝日新聞出版)等がある。

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