本屋さんと私

『沈みゆく大国アメリカ〈逃げ切れ! 日本の医療〉』堤未果(集英社新書)

   

 2008年に発刊された『ルポ 貧困大国アメリカ』 (岩波新書)が大きな話題を呼び、その後も行きすぎた拝金主義やマネーゲームが招く問題に警鐘を鳴らし続けられている堤未果さん。

昨年11月に『沈みゆく大国アメリカ 』(集英社新書)、今年5月には『沈みゆく大国アメリカ〈逃げ切れ! 日本の医療〉』 (同)を上梓され、「いのちの沙汰も金次第」になりつつあるアメリカと、同じ潮流に飲み込まれようとしている日本の姿を、引力のある筆致で描かれています。

 普段、それほど医療について身近に感じているわけではないのですが、この2冊を読んだとき、その現状をあまりに知らなかった自分にショックを受けるとともに、たくさんの方に読んでほしいと、強く思いました。

 日本とアメリカの医療について、政治について、そして好きな本や本屋さんについて。インタビューでは、こちらをまっすぐに見てお話しくださったのが、とても印象的でした。どうぞお楽しみください。

(構成:星野友里、構成補助・写真:大條裕志)

第149回 国民が、自分たちの未来を選ぶ

2015.07.14更新

すべての政党が「医療への市場原理導入」の扉を開けてきた

―― 二冊目の最終章に「総理、医療を成長産業にしましょう!」というエッジの利いた小見出しがありますね。

私、この本は安倍総理にもサイン入りで渡したんですよ(笑)。総理は日本の医療を成長産業にとおっしゃっていますからね。確かにこれから、世界中で高齢化社会はたくさんの需要を生み出します。だからこそ、単にマネーゲームの市場として多国籍企業や投資家に差し出す形ではなく、国内の医療従事者や医療関連産業を守りながら、世界に幸せに年を重ねてゆける高齢社会モデルを示すチャンスとして、日本の医療を生かしてほしいのです。

 この本を読んで、堤さんは反自民ですか? 反安倍ですか? などと誤解して聞いてくる人もいますが、いのちの問題を左右するのは党派ではなく価値観と優先順位、そして私たち国民の意志です。それは歴史が教えてくれる。実はあまり知られていませんが、日本の医療は80年代からずっと、自民、民主、社会党・・・すべての政権与党の手によって市場へと扉を開かれてきているからです。

――なるほど。

なぜこの30年間こんなにあらゆる党が扉を開けてきたのか? 私たち国民もマスコミも、知らなかった、というより医療の問題にははっきりいって無関心でした。
 でも考えてみてください。時の政権というのは国民が動かさなきゃいけないんですよ。都合がいいときだけ政権批判するけれども、自分たちが持っているものや制度については無関心で、「守られるのが当たり前でしょ」では、ほんとうは通らない。

 アメリカである医師が私に、「国民の無知と無関心が企業を肥大化させ、合法的に色々なものを国民から奪わせる結果になった」と嘆いたことがあります。
 もし国民がもっとホワイトハウスで起きていることや自国の制度に関心を持って、おかしいなと思ったときに全力で引き戻そうとしていたら・・・歴史は変わっただろうと。それを聞いたとき、ああ私たちもおんなじだと感じたんです。安倍総理が今やろうとしていることを批判するばかりではなく、「日本人のいのちと老後をどうしたいのか」を私たちが自分の頭でまず考えて意志を持ち、時の政権をしっかり後押ししていく。
 日本人にはそれができると思います。


アイスランドとギリシャの分かれ目

最近の例をあげましょう。ギリシャが破たんしましたね。金融危機で困窮した国の中でも、ギリシャは金貸しIMFの言う通り緊縮財政を実行し、不況下で社会保障や医療費をどんどん切り捨てた。一方、同じように危機に陥ったアイスランドはその逆をやって今見事に立ち直っている。とてもわかりやすいコントラストですよね。2つの国の違いはたった一つで、国民が関心をもって自分たちの未来をどうしたいかを自分たちで選び、決断したかどうかです。アイスランドは政府を後押しして未来を自分たちでつくった、つまり参加したんです。その結果政府は医療費などの社会的連帯資本(ソーシャルキャピタル)を守った。ギリシャは国の借金しか見ていなかった。

 いまじつは日本はアイスランドとギリシャの間にいるんです。財政赤字が1000兆円ある。だから「社会保障を切らなきゃ」と政府・マスコミは繰り返している。
 でも本当にそうでしょうか?
 私たちは数字に簡単に騙されます。
 その数字の統計の出し方を、一度でもみたことがありますか? 
 そして、私たちの国にとって、最大の財産、守るべきものとはなんでしょうか?


「前例」に学ぶ

アイスランドやギリシャは「前例」を示しています。この「前例」というのはすごく大切で、『貧困大国アメリカ』もこのままいくと数年後の日本がこうなる一つの「前例」として出したものでした。前例があるとシミュレーションができ、未来への選択肢が増えますから。

―― そうですね。

どういう社会であってほしいのか。その代理人としての総理に何をしてもらいたくて、彼がそれをできるようにするために私たちには何ができるのか? 今回は日本の医療を守りたいという思いが強かったので、ただ問題提起するだけではなく、身近なところから変えてゆく方法をいくつも盛りこみました。そうしたら何人もの読者の方から、「堤さんの本はいつもハードコア。それもぞくぞくするが、今回は読後感がとても明るくてよかったです」と言われました(笑)。

―― それはたしかに感じました(笑)。


<つづきます>

    

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

堤未果(つつみ・みか)

ジャーナリスト。ニューヨーク市立大学大学院で修士号取得。国連、証券会社を経て現職。

2006年『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』(海鳴社出版)で黒田清日本 ジャーナリスト会議新人賞を受賞。

2008年『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)で日本エッセイスト・クラブ賞、新書大賞を受賞。

近著に『沈みゆく大国アメリカ』『沈みゆく大国 アメリカ〈逃げ切れ! 日本の医療〉』(ともに集英社新書)などがある。

バックナンバー