本屋さんと私

『沈みゆく大国アメリカ〈逃げ切れ! 日本の医療〉』堤未果(集英社新書)

   

 2008年に発刊された『ルポ 貧困大国アメリカ』 (岩波新書)が大きな話題を呼び、その後も行きすぎた拝金主義やマネーゲームが招く問題に警鐘を鳴らし続けられている堤未果さん。

昨年11月に『沈みゆく大国アメリカ 』(集英社新書)、今年5月には『沈みゆく大国アメリカ〈逃げ切れ! 日本の医療〉』 (同)を上梓され、「いのちの沙汰も金次第」になりつつあるアメリカと、同じ潮流に飲み込まれようとしている日本の姿を、引力のある筆致で描かれています。

 普段、それほど医療について身近に感じているわけではないのですが、この2冊を読んだとき、その現状をあまりに知らなかった自分にショックを受けるとともに、たくさんの方に読んでほしいと、強く思いました。

 日本とアメリカの医療について、政治について、そして好きな本や本屋さんについて。インタビューでは、こちらをまっすぐに見てお話しくださったのが、とても印象的でした。どうぞお楽しみください。

(構成:星野友里、構成補助・写真:大條裕志)

第150回 想像力を守る

2015.07.15更新


「おたがいさまの精神」の日本、たった一人でも始めるアメリカ

―― 二冊目のあとがきに、「失うにはあまりにも惜しい宝物が、ここ日本にはまだたくさんある」ことに気づいた、とあります。

国民皆保険というのは制度ですけれども、その根底にあるのが「おたがいさま」の精神なんです。「おたがいさまの精神」って昔はアメリカにもあったんですよ。もっと教会が中心だった時代に。でも日本でも個人主義の考えが広まるなかで、だんだん失われているんじゃないかと思っていたんですが、今回国内の取材をしながら、意外とその精神がいろいろな場所でしっかりと生きているのを実感しました。

 諏訪や京都や徳島など、「おたがいさまの精神」をベースに地域医療をやっているお医者さまや病院がたくさんある。特に地方にたくさんあって、「自分さえよければ」ではない共同体の精神を生かして支え合っているんです。医療だけでなく教育にも、中小企業にも、農村にも、そういう部分はまだ息づいているんですね。ああ、素晴らしいな。と感動の連続でした。これを失ってはいけないと改めて思わされました。

 そんなふうに、当たり前だと思って普段意識しないけれど実は素晴らしい宝物が日本にはまだまだいっぱいあって、一つ一つを本にしていたら身体がいくらあっても足りないくらいです。食も文化もそうです。それでやっぱりその根底にあるのは、拝金主義の対極にあるもの、人間の魂の深いところにある清らかなものですね。まだ失われていないんです。

―― 今回の二冊では、アメリカは、いわゆる拝金主義の象徴という形で描かれている場面が多いですが、堤さんが思うアメリカ人の良いところはどんなところですか?

拝金主義というのは最近出てきた新しい価値観なので、イコールアメリカ人ではありません。一部の財界や投資家、そこと結び付いた政府がその価値観に飲みこまれて国を引っ張ろうとしている。資本主義が数十年かけて「強欲資本主義」に進化した、といえばわかりやすいでしょう。

 アメリカの一番すごいところは、ここまでひどいところまで堕ちても、もう一度未来を作り直そうとするところなんです。アメリカはパイオニアの国で、自分たちで開拓してきたという誇りもあり、とにかく簡単にあきらめない。

 それと、たった一人でも行動を起こしますね。私たちの多くは、何かアイディアが出たときに、どうしようかなあ、誰かに話してみようかなあと考えたりするじゃないですか。
 でも私が出会ったアメリカ人たちは、「これはおかしい」「間違っている」「あってはならない」と思うと、周りがどう思おうがさっさと立ち上がって行動しちゃう。それはもう見事で、勇気をもらえますよね。未来というのは今この瞬間からでも、自分たちが決めて、選べるんだというのを、毎回取材に行く度にアメリカの人々に教えられます。

―― その精神は、いま堤さんがされているお仕事にも通じるものがある気がします。


Kindleでは想像力が使えない

―― 『ルポ 貧困大国アメリカ』のときから、取材対象が一人称で語るような、ちょっと小説的な書き方をされていて、読み手はそこでドライブされて一気に引き込まれるように思います。ご自身も小説を読むのが好きですか?

はい、大好きです。

―― 最近でいうとどんな作品、作家が好きですか?

最近、じつは『赤毛のアンシリーズ』をもう一度読み返しているんです。
 結構長いんですけれど大好きで、読んでいると本当に幸せな気持ちになります!
 アインランドやオーウェルの合間にアンシリーズを読むと、特にその素晴らしさが際立ちますね。身体全体が包みこまれるような気持ちになります。夫も一冊遅れで読んでいるので、二人で物語の中に出てくるエピソードについてあれこれ話すのも楽しいですね。

 私は講演をする頻度がかなり多いんですが、その時もできるだけ情景が浮かぶように話すことを心がけていますね。それは自分が赤毛のアンのような小説を読んだとき、最もわくわくする要素のひとつだからです。情報を入れるより、情景を描けること。前者は頭を使いますが、後者は想像力を使いますよね。後者があったほうが、メッセージは深く伝わります。

――堤さんの本を読んでいても、情景が浮かぶことが多いです。

先々週に書店員さんを対象に講演した時にも聞いたんですが、1%の強欲資本主義が、あらゆるものを「商品」にして最も効率よく儲けを出すために、一番邪魔なものって何だと思いますか?

―― うーん・・・。

『想像力』です。想像力があって自分の頭で考える市民より、情報を鵜呑みにする消費者のほうがものを売りやすいんです。本は映像と違って主体的になれる媒体です。想像力を奪わないどころか、むしろ想像力を深く大きくしてくれます。アメリカと比べると、日本にはまだ活字文化が生きていて、本を読む人がたくさんいることに私は大きな希望を感じますね。


出版や本屋さんを守ることで、教育も医療も放射状に守る

だから本屋さんは日本の大切な文化として、全国民で全力で守っていかないといけない宝物の一つだなと思います。

―― 本当にそう思います。よく行く本屋さんはありますか?

京都におもしろい本屋さんがあるんです。名前忘れちゃったんですけど、小さい本屋さんで、本がぐちゃぐちゃに並んでいるので、古本屋さんかと思って見たら新刊で(笑)。京都ってそういうおもしろい本屋さんがたくさんありますね。そのお店はすごく私の好きな本が揃っていて、ふらっと行くといつも出会いがあるんです。

―― 三月書房さんですか?

あっ、たぶんそれです!あの本屋さん大好き。
 でも本屋さんは大きくても小さくても全部好きですね。

―― 今日はたくさんのお話、本当にありがとうございました。


    

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

堤未果(つつみ・みか)

ジャーナリスト。ニューヨーク市立大学大学院で修士号取得。国連、証券会社を経て現職。

2006年『報道が教えてくれないアメリカ弱者革命』(海鳴社出版)で黒田清日本 ジャーナリスト会議新人賞を受賞。

2008年『ルポ 貧困大国アメリカ』(岩波新書)で日本エッセイスト・クラブ賞、新書大賞を受賞。

近著に『沈みゆく大国アメリカ』『沈みゆく大国 アメリカ〈逃げ切れ! 日本の医療〉』(ともに集英社新書)などがある。

バックナンバー