本屋さんと私

『ネットコミュニティの設計と力』近藤淳也(角川インターネット講座)

 

 近藤淳也さんといえば、「株式会社はてな」の創業者。はてなの提供する「はてなブログ」や「はてなブックマーク」「人力検索はてな」などのサービスは、知らず知らずのうちに生活に溶け込んでいます。
 そして先日、近藤さんが監修された『ネットコミュニティの設計と力』が発刊。15冊のシリーズで日本におけるインターネットのすべてを網羅しようという試みの「角川インターネット講座」の第5巻目です。
 ミシマ社京都オフィスから自転車で5分、ご近所のはてなの近藤さんに、ご著書のこと、本選び、そして本屋さんのこと、伺ってきました!

(聞き手・構成:田渕洋二郎)

第157回 ネットコミュニティの設計と力 制作の裏側(近藤淳也さん編)

2015.10.08更新



ワイワイやりながら作った本

ーー この『ネットコミュニティの設計と力』では、一見ネットとは距離があるように見える霊長類学者の山極先生が執筆していたりと、構成が印象的でした。どのように決めていったのでしょうか?

近藤そもそも僕は、本の監修なんてやったことなかったですし、監修がどういう作業なのかもわからなかった。だから実は一回辞退させていただいたんですよ。でも、もう一回各方面から頼みますよと言われて、ちょうど社長をゆずったこともありまして、時間も少し余裕があったから挑戦しようかなと思って引き受けたんです。
 構成も最初からカチっと決めていたわけではなく、やりながら決まっていった感じです。だから最後までどういう構成になるかはわからなかったですね。
 だから、実は僕が最終章を書く予定はなかったんですよ。「ここ埋まらないんで近藤さん書いてください」みたいな感じで書くことになった。予定外のこともたくさんありましたけれど、ちょうどネットコミュニティの本なので、コミュニティっぽくていいかもねって感じでしたね。みんなでああでもない、こうでもないと言いながら、ワイワイ作っていきました。著者の方からこんな原稿が来たから、次はこんな感じにしようとか。そういう意味で、各章のつながりが有機的に構成できたかもしれません。


問いをそのまま著者にぶつける

近藤内容の話をすると、インターネットのコミュニティについて書かなくてはならないのですが、インターネットのサービスって全部コミュニティじゃないですか。個人のホームページとか、ブログとかSNSとか、ツイッター、フェイスブック、ラインで作っているグループだって、全部コミュニティですよね。だからそれをまとめると言われてもどこから取り組んでいけばいいかわからなかった。そのときにとりあえず、最初はこれが分かれば、なにかつかめるんじゃないかという問いをたくさん書いたんですよ。例えば「ネットコミュニティとはなにか」とか、そもそも「コミュニティとはなにか」とか。「ネットコミュニティはどんな変遷をたどってきたのか」とか、「ネットコミュニティがうまくいったり、いかなかったりするのは何によって決まるのか」とか。
 問いとして書き出して、こういう方に答えていただければいいかなあと、候補者をみんなで出しました。その方々の著作を読むなかで、ピンときた方に個別に打診をした感じですね。
 それで依頼の時も最初の問いをそのまま投げたんですよ。「こういうこと書いてください」と言えるほどの知識も経験もなかったので、「こういうことを知りたいんですけど」という形で、著者さんと問いを共有しましたね。それが逆に良かったのかもしれません。山極さんにも、「人のコミュニティってなんなんですか、教えてください」という感じでお願いしました。


おもしろそうな人についていく

近藤そして、うまくいくネットコミュニティとそうでないのがあるというのは、僕なりにもすごく考えたんですよ。この問題は各章の方々の文章を読んでいてもまだ残っている問題だったんです。コミュニティができる一番最初の0が1になるところは謎に満ちていた。それはなんなんだろうとずっと考えてたら、やっぱり「この人についていったら面白そうだな」ということなんじゃないかって思ったんです。
 これは本にも書きましたが、昔、山を登っていて分岐点があった。そのときに何者でもない自分が「こっちだ」と言って、ついてきてくれた人たちがいたんです。「この人についていくと楽しそうだ」と思ってくれたと思うんですが、このことが原体験になっていますね。


村上春樹と物語の力

『世界の終わりとハードボイルドワンダーランド』(上・下巻)村上春樹(新潮文庫)

 

ーー 本を読む上での原体験のようなものはありますでしょうか?

近藤僕はめちゃくちゃ本を読むというタイプではないんですけれど、若い頃は小説を読んでいましたね。村上春樹さんとか一時期すごいはまってました。自転車旅行に初めて行ったときがあったんですよ。高校二年生のときに20日かけて東海道を往復したんです。初めての一人旅で、大旅行だった。そのときに文庫の『世界の終わりとハードボイルド・ワンダーランド』を読んだんです。ただでさえ大旅行で現実離れしているのに、さらに現実離れした本を読んだ。だからトリップ中のトリップみたいになっちゃって(笑)。夜中読んでてここはどこ!? みたいな。そんな感覚が毎晩続いたんです。あの感覚はもう一生訪れないと思うんですけど、すごい鮮烈でした。

『村上さんのところ』村上春樹(新潮社)

 

 今年『村上さんのところ』っていう村上さんが読者からのメールに答えるという企画をちょうどはてなブログでやったので、久しぶりに村上ワールドに接する機会がありました。3万何千通来たメールを全て村上さんが読んで、3000通以上に答えたんです。何ヶ月も朝から晩まで返事し続けた。
 その中で村上さんが「なぜ小説を書くか」という話のなかで、物語の力について話しておられたのが印象的でした。村上さんはサリン事件の取材などもされておられたので、たまに、「インタビューをたくさんされてどうでしたか」みたいなことを聞かれるらしいんです。それに対して村上さんは、「信者の方の共通項として、ノストラダムスの予言を中高生の時に知った人が多かったんじゃないか」って、指摘するんですよ。1999年に世界は滅亡するという話が世間で流行って、それを感受性の高い時期に受けた人が、麻原彰晃の終末説みたいなものをすんなり受け入れてしまう。そういう影響もあるのではないか、みたいなことを指摘されてるんですよ。

  これは物語が持つ力がどれだけ強いかという話ですよね。いま挙げた例は物語が持つ力の負の側面なわけですが...。村上さんは、そういうものに対抗するような、「良い物語」というのをつくっていくというのが作家としての使命ではないかということをおっしゃっていました。物語ってすぐ役に立つというわけではないけれど、心の底の方でじわりじわりと効いてきますよね。

(つづきます)

   

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近藤淳也(こんどう・じゅんや)

1975年三重県生まれ。株式会社はてな代表取締役会長。京都大学理学部卒業。2000年に同大学院中退後カメラマンなどを経て、01年にQ&Aサービス「人力検索サイトはてな(現 人力検索はてな)」を開始し、京都で有限会社はてなを設立。04年に株式会社はてなに改組。ブログサービス「はてなブログ」「はてなダイアリー」、ソーシャルブックマークサービス「はてなブックマーク」など、独自性のあるWebサービスの創出・提供に取り組む。06年に米国シリコンバレーにて子会社「Hatena Inc.」を設立。任天堂株式会社との協業事業「うごメモシアター」「うごメモはてな」や、家庭用ゲーム機「Wii U」に内蔵されているネットワークサービス「Miiverse」の開発にも協力。著書に『「へんな会社」のつくり方』(翔泳社)がある。

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