本屋さんと私

『ネットコミュニティの設計と力』近藤淳也(角川インターネット講座)

 

 近藤淳也さんといえば、「株式会社はてな」の創業者。はてなの提供する「はてなブログ」や「はてなブックマーク」「人力検索はてな」などのサービスは、知らず知らずのうちに生活に溶け込んでいます。
 そして先日、近藤さんが監修された『ネットコミュニティの設計と力』が発刊。15冊のシリーズで日本におけるインターネットのすべてを網羅しようという試みの「角川インターネット講座」の第5巻目です。
 京都オフィスから自転車で5分、ご近所のはてなの近藤さんに、ご著書のこと、本選び、そして本屋さんのこと、伺ってきました!

(聞き手・構成:田渕洋二郎)

第158回 創業物語が好き

2015.10.09更新

創業物語が好き

近藤僕の好きな会社の物語なんかも、リアルな世界の物語だと思うんですけれども、やっぱり印象に残るのは、わくわくした物語だったり、仕事を続けていくエネルギーをもらう本ですね。その人たちがやったような、ある種の成功みたいなものを、自分でもやってみたいってことで仕事に打ち込むというところもあります。

 具体的には、本田宗一郎さんとか、SONY、任天堂、ジブリなんかの創業物語が好きです。海外も面白い話が多いですよね。シリコンバレー系のGoogleの創業物語とか、フェイスブックの話は映画にもなりましたけれど。Apple、ピクサーも面白いです。
 彼らの共通点って、全部ものを作るところから始めてるんですよ。ものを作るのが大好きな人たちが作って、それがどんどん広がって大きくなっていった会社ばっかりですよね。そういうのに惹かれるんです。

 今言ったものとは違う系統もあって、例えば市場分析をして「こういうビジネスモデルならいけるだろう」と売り込んだら売れた、みたいな話は、物語としてみたときはどうもあまり興味が惹かれないんです。


「オタク」の持つ純粋な野心

近藤ピクサーの映画はすごいですよ。トイストーリーとか、カーズとかを世に出した会社ですけど、当時のアニメって元々はCGなんてなかった。ましてやそれで長編映画を作るなんて考えてもみなかった。
 ピクサーの原型はCGを作るのが楽しくってしかたなかったオタクたちです。もともとは富豪に雇われて、お抱えで作ってたんです。でもそこではあんまり大した作品にはならなかった。それで、スターウォーズのジョージ・ルーカス監督のルーカスフィルムが、特殊効果の部門としてそこの人たちを引き取った。

 でもジョージ・ルーカスが離婚をすることになって、慰謝料とか財産分割とかの問題になって、その部門を売りに出したんですよ。そうしたらAppleを追い出されたスティーブ・ジョブズが買うことになって、そこからピクサーになったわけです。最初はこの人たちも映画を作る技術はないですから、ちょっとしたCMの映像をつくったりしながら小銭を稼いで、時が来るのを待っていたんです。そのときはすごい赤字で、ジョブズが支えてきたんですよね。そうやっているうちに、トイストーリーとかの快進撃が始まった。今や、手描きのアニメよりも、CGの方が多いくらいじゃないですか。その流れは誰も信じてなかったんですよ。それが今や、ディズニーのアニメ部門も、ピクサーのトップだった人が全部見てるんですよ。面白いですよね。
 ヒット作を飛ばそうとか考えないで、ただ好きだからやってるみたいな純粋さが感じられてすごくいいです。


トレランに学ぶ「自然」と「謙虚さ」

ーー最近はどんな本を読まれていますか?

近藤最近はトレランの本とかがすごく面白いですね。家づくりや、地域づくりの本も好きです。だから最近は、「何か作って世の中変えてやる」ってよりは、身の周りのことに興味が来てるのかもしれないですね。トレランも近くの山に登りましょうという感じで身近ですし、文字通り「地に足ついた感じ」ですよね。

 トレラン関係の本で言うと、「BORN TO RUN」という本がありまして、全米でベストセラーにもなった面白い本です。内容は、人間には本来走る力が備わっていて、高機能なランニングシューズを履くほど足が弱まって故障が多くなり、むしろ裸足に近い状態で走った方が足が強くなる、と言うことが書かれているんです。その他にも、メキシコの走る民族の話などいろいろ出てくるんですが、読んでいると、「人間は走るために生まれた」というのもあながち嘘じゃないと思えてきますし、自分もどんどん走りたくなってきます。

 また現役のランナーで山本健一さんっていう方がいらっしゃるんですけど、この人の本の内容はものすごく謙虚なんですよね。やっぱり山と対峙するとそうならざるを得ない。トレランの世界だと、一番過酷なレースというのは「ウルトラトレイル」っていうんですけど、100マイルのレースが最高峰とされているんです。160㎞を2日くらいかけて走る。2日走るってことは、無茶をしたら瞬間的にやられるんですよね。皆さん何回もそういう経験をされているから、変な欲とか、自意識みたいなものをもって山に行くと、ろくなことが起きないことを肌身に染みてわかってらっしゃる。自然と調和する方法を備えた人しか、生き残れないんです。それにはやはりある種の謙虚さが必要なのですね。

 トレランは人を負かすことが重要ではないんです。山とうまく調和した人は最後までたどり着けるし、ちょっと無茶すると、すぐ脱落してしまいます。
 そこが敵を倒すスポーツとは違いますよね。そういう方の本を読んでいると、本当の強さみたいなものを感じますし、仕事にも生かせる気がします。

 僕も自転車のレースをやっていたことがあるんですけど、それともちょっと違う気がする。自転車は走るのは道路なんで最悪止まれば車は通っているからヒッチハイクもできるし、お腹が減っても、コンビニとかがあるから買い出しができる。だからまだ安全だと思うんですよ。山に入っちゃうと、降りて帰ってくるまで、歩ける体を保たなくてはいけない。それができないと命に関わることですからね。食料も自分の責任で保たなくてはいけないですし、やはり自転車よりも厳しい世界なのかもしれません。

(つづきます)

    

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

近藤淳也(こんどう・じゅんや)

1975年三重県生まれ。株式会社はてな代表取締役会長。京都大学理学部卒業。2000年に同大学院中退後カメラマンなどを経て、01年にQ&Aサービス「人力検索サイトはてな(現 人力検索はてな)」を開始し、京都で有限会社はてなを設立。04年に株式会社はてなに改組。ブログサービス「はてなブログ」「はてなダイアリー」、ソーシャルブックマークサービス「はてなブックマーク」など、独自性のあるWebサービスの創出・提供に取り組む。06年に米国シリコンバレーにて子会社「Hatena Inc.」を設立。任天堂株式会社との協業事業「うごメモシアター」「うごメモはてな」や、家庭用ゲーム機「Wii U」に内蔵されているネットワークサービス「Miiverse」の開発にも協力。著書に『「へんな会社」のつくり方』(翔泳社)がある。

バックナンバー