本屋さんと私

『人生最後のご馳走』青山ゆみこ(幻冬舎)

 

 「自分の食べるものが自分を形づくる」という、当たり前だけど、一番大切なこと。この9月に出版された青山ゆみこさんの『人生最後のご馳走』(幻冬舎)の「はじめに」には、《一般の病棟で、まるで画一的なモノのように扱われて「自分」がなくなる気がしたという患者さんもいた》とあります。
 本書で取り上げられているのは、淀川キリスト教病院ホスピス・こどもホスピス病院で行われている、患者さんが希望した料理を作る「リクエスト食」という「食」のケアの取り組みです。患者さん14名や病院スタッフへのインタビューを通して浮かび上がるのは、患者さんやその家族、そして彼らを支える病院スタッフのあたたかな物語。
 こんなに素敵なインタビュー、そして文章を書かれる青山さんはいったいどんな方なんだろう......。新人タブチが本のこと、そしてインタビューについて伺ってきました。今日から3日間でお届けします!

(聞き手・構成・写真:田渕洋二郎)

第160回 インタビューと合気道の気になる関係(青山ゆみこさん編)

2015.11.10更新



―― 『人生最後のご馳走』の取材は、これまでとは違う取材スタイルになったそうですね。

青山そうなんです。雑誌編集をしていた頃から、取材経験は数限りなくありましたが、たいていは、まず自分の「聞きたいこと」があって、それを聞き出していたような気がします。限られた時間の中で、文章にまとめるための材料を、効率良くどう引き出すかを考えて、インタビューを行うような感じ。
 でも、ホスピスの患者さんにお話を聞き始めて、自分のそういう姿勢に違和感を持ったというか、それってすごく患者さんに失礼なことだと思ったんです。
 ホスピスの患者さんには、限られた時間しかありません。そのあまりに貴重な時間を、取材という名目で、あくまで自分の都合で奪うようなことをしているのだと。その上、自分が聞きたいことだけを話してもらうって、そんな行為はどうなんだろうと、はっとさせられたような気持ちになって。

 取材の大きなテーマは「食」だけれど、そうじゃないことでも何でも、とにかく患者さんが話したいと思われることを聞かせていただこうと、やり方を切り替えたんです。これって、取材として効率は良くないし、中には10時間以上お話を聞かせていただいた患者さんもいて、でもほとんどは原稿には使えません。ただ、インタビューをきっかけに「場」と「時間」を共有することが、私だけではなく、患者さんにとっても少しは良い時間となればいいなと思って。まあ、それもこちら側のある意味勝手な願望なんですが。

―― そのインタビューの場をつくるときに、意識されたことはありますか...?

青山わたしは思想家の内田樹先生の主宰する合気道の道場に入門していて、この9月で4年目なんですが、この本の取材は、合気道をしていなかったら別のカタチになったような気がしました。
 合気道では、相手との関係性によって、自分の適切な立ち位置が決まるということがありますが、先ほど話したようにインタビューのやり方を変えたのは、つまりわたしの立ち位置を変えたということなのだと思います。
 普段のインタビューでももちろん気にしていることだけれど、ホスピスでの取材では、ちょっとした気配や気持ちの変化から、ああ、これは話したくないんだなというふうに、患者さんの気持ちをできるだけ感じるようにして、とにかくその「場」をお互いに気持ち良く共有することを大切にしたいと思ったんです。それは、合気道で大事にしていることにとても近い気がします。

 あのね、患者さんと一緒に過ごしていて、時々、とても気持ちが良くなる瞬間があったんですよ。それは、患者さんが、気持ちが良いと感じてくれているからだと思いました。楽しそうにお話しいただいたら、単純なものでこっちももっと楽しくなるでしょう。インタビューの場は、わたし一人ではつくれません。相手と一緒につくる。そのことも、合気道と通じるような気がします。
 今日もわたしはとても気分よく話をさせてもらっていて、それは田渕さんがそういう場をつくってくれているからなんですよね、きっと。インタビューって、何を聞くかよりも、そういうことがいちばん大切なんじゃないかなあ。


一人ひとりに寄り添う「リクエスト食」のように書く

―― 患者さんによって、一人語りだったり家族との対話だったりと、文章形式が異なるのはなぜですか?

青山編集者でもあるので、インタビュー集としてまとめる場合、ある程度、文章形式を統一した方が読みやすいことはわかっていました。
 ただ、今回のインタビュー状況は本当にさまざまで、ご本人がすべてお話しくださった場合もありますし、患者さんによっては、投薬の影響で眠気が強くてお話しいただくのが難しい日もあって、ご家族の方にほとんどを聞かせていただいた方もいます。それを無理に統一の文章フォーマットでまとめることに、強い違和感があったんです。

 取材時に感じた場の空気感とか、ご家族との間に流れる独特の温度とか、わたしにはとてもあたたかく感じるものが多かったので、そうした言葉にならないものも読まれる方に伝えるには、どうしたらいいだろう。そうだ、なるべく場を再現するようなカタチしていこうって。

 取材から構成から迷うことばかりでしたが、いちばん迷ったことは、どの言葉を書き残すかという選択でした。わたしが選択する言葉が、ある人の人生を決めてしまうという責任を感じて、書き手としてはこれまでにないプレッシャーでした。
 迷いに迷って、皆さんの言葉を書き起こしたものを読み返すうちに、インタビュー時にこのお話は楽しそうにしてくださったなと思い出すと、わたしまで楽しい気持ちになって、そうだ、こういう「ご本人が話したがっていた」ことをできるかぎり拾っていこうと決めました。
 結果的にこうとしか書けなかったってことなんですね。いま話しながら、改めてそう思います。


表紙に込められた意味

―― とてもシンプルな装丁ですね。意図したことはありますか?

青山「ご馳走」とタイトルにもあるくらいだから、この本は食べ物がテーマなんですけど、それだけでもないでしょう。たくさんの食にまつわるエピソードから、患者さんの人生を垣間見せていただくことになりました。付き添われるご家族や、患者さんを支える病院スタッフからもやっぱりそう。この本には、いろんな方のたくさんのメッセージがこめられています。
 お話を通して、いつも皆さんから贈り物をもらっているような気がしていたんです。そこには、わたしがいただいたものだけではなくて、患者さんからご家族への贈り物を預かったような感覚もありました。そんなふうに託されたと感じるメッセージが、今度は読んでくれる方への贈り物になればいいなと思いました。

 幻冬舎の担当編集さんが装丁を依頼した鈴木成一デザイン室から、このデザイン案が上がってきたのを目にしたとき、まさに思っていた通りの大切な贈り物を包んだようなデザインになっていて感激しました。ぱっと見て、中に何が入っているのかはわからないけど、なにか大事なものが入っているような。
 患者さんのご家族の中には、「家に置いていて嬉しくなるような本になってよかった」と言ってくださった方もおられました。それはとても嬉しかったです。

―― 本の中の、本文とは直接は関係がない病院内の写真も素敵です。

(左)『人生最後のご馳走』p.63より/(右)同書p.87より


青山ありがとうございます。写真家の福森クニヒロさんが、料理の写真に加えて、病院の空間も切り取ってくれました。
 患者さんが、ご飯を美味しいと感じて食べられるようになったのは、なによりも病院のスタッフの細やかなケアがあってこそなんですが、それはこのホスピスの空間にも表れていました。柔らかい間接照明が隅々まで届いてどこも明るくて、ゆったりと穏やかな時間が流れている。あちこちに目にも優しいぬくもりを感じるようなオブジェが飾られていたりね。そうした、患者さんが普段目にしているものを、読者の方と共有したいという気持ちもありました。

 ホスピスは抗がん治療や延命治療をしないので、一般病棟で目にするようなどこか威圧感のある医療器具を目にすることはありません。病室といっても、シンプルなホテルのようなお部屋なんですよ。病院であることを忘れてしまうような。
 消毒薬の匂いではなく、アロマのいい香りが漂っていて、私も取材でお邪魔するといつもリラックスしちゃって、なんだかいつも眠たくなってましたね(笑)。
 このホスピスでは、できるかぎりのご本人の希望を受けていて、ペットと一緒に過ごす方もおられるそうです。そうした場所で、なんというか、患者さんはみんな「穏やかに暮らしている」ような印象を受けました。治療の場ではなくて、日常を過ごしているような。

(つづきます)

   

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青山ゆみこ (あおやま・ゆみこ)

1971年神戸市生まれ。甲南女子大学文学部卒業後、アパレルで4年間デザイナー職に従事。27歳で出版業界に転職し、『ミーツ・リージョナル』誌副編集長などを経て独立。2006年よりフリーランスのライター・編集者。現在は、単行本の編集・構成、雑誌の対談やインタビューなどを中心に活動。市井の人から、芸人や研究者、職人に作家など幅広い層まで1000人超の言葉に耳を傾けてきた。

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