本屋さんと私

『空が分裂する』最果タヒ(新潮文庫nex)

 若者中心に人気の現代詩人家、最果タヒさん。最近では小説にも活躍のフィールドを広げられています。最果さんといえば、詩をつけまつげにするなど、その大胆な詩の表現方法が話題となっていますが、私(デッチ・佐久間)は、作品の中の言葉一つ一つの美しさにとても心惹かれています。
 2015年の8月に出版された『空が分裂する』は、そんな詩の言葉の美しさがイラストとともに表現されている一冊。今回は、その詩に魅了されたデッチの「ぜひお話を伺いたい」というインタビューのお願いを、最果さんが快く受けてくださったことで実現しました。
 美しい言葉と大胆な表現で詩を生み出す最果タヒさんに、詩の創作や本のこと、本屋さんについて、たくさんのお話をうかがいました。お話をうかがっていると、言葉に対する思いや、詩という表現方法への強い思いが、その言葉を通して伝わってきました。全3回のインタビュー、ぜひお楽しみください。

(聞き手、構成:佐久間楓、星野友里)

第164回 いろんなところに詩があったほうがおもしろいという感覚

2016.01.05更新

チープに見えても、おもしろければOK

ーー 詩をつけまつげなどにして表現したり、Twitter上のGIFアニメ(※)で作品を発表したりされていますね。

編集部註:1つのファイルの中に複数の画像ファイルを入れて、それを順々に流して動いているように見せる動画形式。つまり、パラパラマンガのような形式で動く動画。

最果表現する場所があるなら、いろんなところに詩があったほうがおもしろいという感覚なんです。詩を拡張していると言われることもありますが、あまり思想はなくて、ただおもしろいからやっているという感じです。

 詩の仕事をする際、紙面のど真ん中に詩を置いて、とか、見開きにして、とか、ものすごく大切に作品を扱ってもらっていて、でも私はそこまでしてくれなくてもいいよ、とか思っちゃうんです。もっと雑に、たとえば雑誌の奥付に「今週の1行詩」みたいに書かせてもらうとかでも全然いいと思うんです。その状況がおもしろければ。詩はコンパクトですし、なにより言葉なので紙とペンがあれば簡単に拡散できてしまう。日常にもっともっと混ざっていけると思うんです。そして、それぐらいのほうが、自分の作品の強度も試せるような気がする。だから遠慮なしに自分のアイディアに作品を当てはめていくということをしています。


「牛乳」はいいけど、「ホルスタイン」はだめ

ーー 詩も、日常をテーマにしたものが多いですね。

最果詩は自分の日常を描くわけではないですが、言葉単位でいえば、日常で使わない単語を作品で使うのが好きじゃないんです。

 あんまり使い慣れていない言葉や漢字というのは、読む人がぱっと見たときに理解できる速度が違っています。そして、本人たちも使っているような言葉でないと、読んだ人が言葉から呼び起こされる感情が乏しくなってしまう。言葉には、その人がそれまでその言葉に触れたり発したりしてきたときに抱いていた感情が蓄積されていると思うんです。だから、なるべく蓄積されていやすい言葉を使う方がいい。難しい非日常な言葉も、異世界の感じがしておもしろいとは思うんですが、私の使いたい言葉ではないです。身近な例だと、「牛乳」はいいけど、「ホルスタイン」はだめという感じです。

ーー なるほど(笑)

最果やはり、日常で使われる言葉が私にとっては理想で、その言葉を選んで書いていくと自然と作品も日常のことになりますね。


その人がグッとくる想像で読んでほしい

ーー 『空が分裂する』(新潮文庫nex)では、最果さんの詩と、21名の漫画家・イラストレーターによるイラストがコラボレートされていますが、女の子のイラストが多いなという印象を受けました。

最果当時の作品は「私」という一人称を使っていて、あとは詩も女の子がつぶやいているようなものが多かったので、そういうイメージ像になったのかなと思います。でも作品それぞれ違う雰囲気の女の子でおもしろかったですね。

 書いた直後は、自分で自分の詩の雰囲気をわかっていません。書いてから1〜2カ月後にわかるんですけど。だから、絵をいただくたびに自分の作品を全く別の角度から見せてもらえた気がして。「こういうふうに見えるんだ!」って描いていただいた絵を見るたびに感動していました。

 最近、私の詩を朗読してくださる人がいて、わりと人それぞれ読み方が違うんです。だから、みんな好きに読んでくださっているんだなというのは伝わってきます。感じ方はその人の住んでいる環境とか、そのときの心情によるかなと思いますね。

 だからあまり私は自分で詩を朗読したりとか、解説したりするのは好きではないです。できるかぎり、作者のイメージも出したくないと思っています。読んでいる人の都合の良いように読んでもらいたいですし。その人がグッとくる想像で読んでほしいです。それを作品で引き出したいと思っています。


反響をもらえるだけで幸せ

ーー Twitterなどでも作品を発表されていますが、読者の反応がすぐに届きやすい状況に、つらさはありませんか?

最果そういうのはまったくありません。まず、良い悪いにかかわらず、反響をもらえるだけで幸せなことです。デビューしてもう7〜8年たちますが、詩集の本ってなかなか売れなくて、そうすると感想を言われること自体が少ないんです。だから反響があるだけで、いろんな人に届いていることがわかるので、それは良いことだと思います。

 あと、私は読まれる前提で詩を書いているので、すぐに反響があったほうが自分の詩の良し悪しがわかっていいんです。自分では良いと思っていても、ただ書いた直後の達成感でいいと思っているだけというパターンがあって、そういうのも反応を見て気づくことができる。とくにTwitterとかだと、反応がすぐに返ってくるし、軌道修正もそこですぐにできるのでありがたいです。
 世の中に向けて書いているので、読者がいて反応が見えないと、なんのために書いているかわからなくなりますしね。

ーー 逆に、読者の方から言われて嬉しかったことはありますか?

最果基本的になんでもうれしいです。Twitterで「いいね」を押してくれるだけでも喜びます。「詩集読みました」といってリプライ(※)をくれる人や、個人で感想をつぶやいてくれる人もいて、一方で私のつぶやきに対して「いいね」を押してくれる人もいます。人それぞれの反応の見せ方で、私はそういうのが全部うれしいんです。

編集部註:Twitterのつぶやきに対しての返答。

 おもしろかったのは、私の詩集への感想ツイートが、普段のその人のツイートと比べてポエジーだったことです。書きたくなるのか、無意識にそうなるのかわかりませんが、「よかったです」という言葉ではなく、もっと違う言葉で書きたいと思ってくれるその気持ちが、「ハァーッ」となるくらい、とてもうれしいです。

(つづきます)

    

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最果タヒ(さいはて・たひ)

1986年生まれ。現代詩手帖賞、中原中也賞、現代詩花椿賞受賞。詩集に『グッドモーニング』『空が分裂する』『死んでしまう系のぼくらに』。小説に『星か獣になる季節』『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』などがある。

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