本屋さんと私

『空が分裂する』最果タヒ(新潮文庫nex)

 若者中心に人気の現代詩人家、最果タヒさん。最近では小説にも活躍のフィールドを広げられています。最果さんといえば、詩をつけまつげにするなど、その大胆な詩の表現方法が話題となっていますが、私(デッチ・佐久間)は、作品の中の言葉一つ一つの美しさにとても心惹かれています。
 2015年の8月に出版された『空が分裂する』は、そんな詩の言葉の美しさがイラストとともに表現されている一冊。今回は、その詩に魅了されたデッチの「ぜひお話を伺いたい」というインタビューのお願いを、最果さんが快く受けてくださったことで実現しました。
 美しい言葉と大胆な表現で詩を生み出す最果タヒさんに、詩の創作や本のこと、本屋さんについて、たくさんのお話をうかがいました。お話をうかがっていると、言葉に対する思いや、詩という表現方法への強い思いが、その言葉を通して伝わってきました。全3回のインタビュー、ぜひお楽しみください。

(聞き手、構成:佐久間楓、星野友里)

第165回 意味ありきよりは音重視で言葉を選ぶ

2016.01.06更新

自分の詩が、一冊の本の中でポップになっていった

最果それまで現代詩という枠組みで詩をつくっていましたが、『空が分裂する』は、連載する場所も漫画雑誌で、漫画家さんが詩を見てイラストを描いてくださるということもあって、見る人という存在をすごく意識するきっかけになりました。『空が分裂する』の本の中でもその変化が表れている感じがあって。

 最初はごりっとした難しめな詩も多かったんですが、だんだんと読む人に近づいていこうとする、そういう詩に変わっていきました。あまり意識して書いていなかったんですけど、たぶん読み手を意識するようになって自動的に変わっていったと思うんです。どんどん読まれることへの意識が高まって詩自体がポップになっていっている。でも、当時はそれがいいことなのかまだわからずにいました。

 でも、『空が分裂する』を出して数年が経ってから、対談させていただいた高橋源一郎さんが、この詩集をすごく褒めてくださいました。「現代詩っぽくしようとする意識がなくなっていていい」と言ってくださって。そのときやっと、それが良いことなんだと初めて認識できたんです。その帰り道に、また次の本を出してみようと思えました。

 だから、『空が分裂する』は、自分の詩がポップになっていく、そのターニングポイント的な存在です。自分の作品はたくさんの人に読まれるようなタイプの詩ではないとずっと思っていたんです。でもそれはどうやら違うらしい、といろんな感想をいただいてやっと気づいたのがこの頃でした。


音先行で言葉を書くという癖は絵本を読んでついた

―― 今まで読んだ本で影響を受けた本はありますか?

(左)『わたしのワンピース』にしまきかやこ(こぐま社)/(右)『しろくまちゃんのほっとけーき』わかやまけん(こぐま社)

最果絵本はすごく読んでいたんです。お母さんが毎日、絵本を読み聞かせてくれたので、私の言語は絵本でできています。絵本って語感が大事ですよね。『わたしのワンピース』という本の語感がすごいんです。きっとかなり影響を受けていると思います。

 『しろくまちゃんのほっとけーき』のホットケーキを作る過程も好きで。ある程度、音としておもしろいのが好きなんです。あんまり意味を考えずに言葉を読むことを好んでいるので、そうなると絵本なんですよね。詩を書くときも、意味ありきよりは音重視で言葉を選びます。反射神経で書いていくという感じが強いです。絵本みたいに書きたいと思ったことはありませんが、音先行で言葉を書くという癖は絵本を読んでついたと思います。

 だから、音感だけで言葉を入力して変換してみたら「あ、こういう意味だったな」なんて気づくことも結構あります。私のペンネームはもともと、10年ぐらい前に「たひ」という語感がかわいくていいなと思っていて、それに合う苗字として「さいはて」って語感が合いそうだなと思って決めたんです。そのあと「さいはて」を変換したら、「最果」なんていうなかなか派手な字面になって「うわ、意味深」って後悔したのを覚えています。で、あまりに派手な字面だから「たひ」をカタカナにして中和させたつもりが、数年後にそれがネットスラングになっていて。ここまでくるとなんだか逆におもしろいなと今は思います。
 わりと言葉に対してスキだらけなんです。「タヒ」がタヒチに似てるとか、「ゆうひ」と読めるとか、「死」に似てるとか、そういうことも活動して数年してから指摘されたのですが、それまで一度も気づいていなかった。言葉に最も触れていたのが絵本なので、あまり字面や意味を考えるくせがないのかな、と思います。


本屋さんが届けてくれた詩集

―― よく本屋さんに、サイン本やポップを書きに行かれている印象があります。

『死んでしまう系のぼくらに』最果タヒ(リトル・モア)

最果書かせていただけるだけでありがたいことですね。『死んでしまう系のぼくらに』を書店さんがとても応援してくれて。書店さんでの展開をきっかけにこの本を手にとりました、という人がすごく多かったんです。そういう本屋さんに、お礼になるかわかりませんが、ポップなどでお客さんがきてくれるきっかけになってもらえればな、と思ってやっています。

 本屋さんには本当に支えられています。『空が分裂する』の後に出した『死んでしまう系のぼくらに』は、「届く詩集を作りたい」と思って作っていました。でも結果的に、届く詩集というよりは、本屋さんが届けてくれた詩集になりました。「こんなとこに置いちゃだめです」というほど大々的に取り上げてくださったり、本当に「届けてもらった」という思いが強いです。もう足を向けて寝れないんですけど、本屋さんが多すぎてどこに向けばよいかわからなくなりますね(笑)

―― 普段は本屋さんにはよく行かれますか?

最果行きます。本屋さんは待ち合わせにいいですよね。なんか、用がないのに行っちゃう感じ。それで用がなくても行っていいという感じが素敵ですね。服屋さんとか服を買わずに出て行くのに抵抗があるじゃないですか。すみませんという感じで(笑)

 私はあまり本を読まないのですが、家族が読書家なため、小さい頃から本に囲まれていました。だから本というモチーフが好きです。そのモチーフに対しての萌えみたいな感情があるので、本がいっぱいある場所にはよく行きます。本をそこまでたくさんは読まないのに本が詩の中に出てくるのは、本という存在がポエジーだと思うからですね。

―― 今まで行った中でイチオシの本屋さんはありますか?

最果待ち合わせのときにはここが良くて、おしゃれな本を買うならここが良くてとかいろいろあるので選べないですね。それぞれの本屋さんで違うじゃないですか。東京はとくに、本屋さんごとに毛色が違うというか。でも、私の本を置いていただけるお店は神ですね(笑)

―― 今日は本当にありがとうございました。


   

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最果タヒ(さいはて・たひ)

1986年生まれ。現代詩手帖賞、中原中也賞、現代詩花椿賞受賞。詩集に『グッドモーニング』『空が分裂する』『死んでしまう系のぼくらに』。小説に『星か獣になる季節』『かわいいだけじゃない私たちの、かわいいだけの平凡。』などがある。

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