本屋さんと私

 『ヨレヨレ』という雑誌をご存じでしょうか? 福岡の「宅老所よりあい」という一風変わった介護施設で繰り広げられるドタバタを、ユーモラスに伝えるこれまた一風変わった雑誌です。この雑誌のおもしろいことと言ったらもう、度肝を抜かれます。読まなきゃ、人生損!
そして恐ろしいことに、この前代未聞の介護施設と雑誌の軌跡を描いた一冊が、昨年12月に本になりました。『へろへろ――雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』。雑誌では断片的にしか知ることのできなかった「よりあい」の物語と、雑誌『ヨレヨレ』をひとりでつくる鹿子裕文(かのこ・ひろふみ)さんの物語を、鹿子さんご自身が描き切った渾身の一冊です。泣きます。笑います。これも読まなきゃもったいない!

 きたる2月11日には、雑誌『ヨレヨレ』編集者の鹿子裕文さんと雑誌『ちゃぶ台』編集長の三島邦弘によるイベント開催も控えるなか、今回の「本屋さんと私」では、『へろへろ』の編集を担当された、ナナロク社の川口恵子さんにお話をうかがいました。
 いったい『へろへろ』はどのようにして生まれたのか。1回目の今日は、川口さんと鹿子さんの出会いから、お届けしていきます。

(聞き手・構成・写真:寺町六花、池畑索季)

第166回 「あなたの文章が好きなんです」(ナナロク社・川口恵子さん編)

2016.02.04更新

雑誌『ヨレヨレ』。2013年12月の創刊号から2015年12月の第4号まで。表紙のイラストは小学生画家のモンドくん。ちなみに宮﨑駿さんも渡辺直美さんも、雑誌には一切登場しない。


雑誌『ヨレヨレ』の衝撃

―― 『ヨレヨレ』って、なんでこんなにおもしろいんでしょう?

川口やっぱり鹿子さんがおもしろいからじゃないですかね。
 『ヨレヨレ』は、お手伝いに行っていた谷川俊太郎さんの家にポンと置いてあったんですよ。目が合ったというか。表紙も変じゃないですか。でも見出しに「谷川俊太郎」って書いてあるし・・・と思って読んでみたら、びっくりしたんです。読み飛ばすところが全然なくて。どういう人が作っているのかまったく知らずに読み始めたんですけど、すごく読みやすかった。文章もふざけているふうだけど、誰かがこれを読んですごく傷つくとか、何を言いたいのかわからないとか、そういうことはまったくなくて。文章がすっごくうまいなと思ったのが第一印象でした。

―― それで興味をお持ちになった。

川口はい。私この人の文章好きだな、どういう人が書いているんだろうと思ったら、ちょうどその日の午後に鹿子さんと、「宅老所よりあい」の下村さん、村瀬さん、それと職員の方が、福岡から谷川さんに会うために東京に来ていたんですよ。

―― すごい偶然ですね。

川口そうなんです。『ヨレヨレ』に出てきた人たちがぞろぞろとやって来て、谷川さんとお話をされていて。最後に「ちょっとあいさつしたら?」と谷川さんに言われてごあいさつしたのが、最初の出会いでした。

―― そのときはまだ本を出すことは考えていなかったんですよね。

川口はい、まだはっきりとは。でもね、どんな人なのかな、もっと知りたいなとは思っていたんです。そうしたらちょうど、「皆でごはん食べるから一緒に来たら?」と誘われて、そのままついて行ったんです。それが2013年の12月の終わりくらいでした。


「僕、ちょっと書いてみます」

川口それから鹿子さんとちょっとしたメールのやりとりなんかは続けていたんですが、翌年の3月くらいに村井さん(※ナナロク社の代表)と雑談をしていて、「川口さん、何かつくりたい本ないの?」と聞かれたときに、パッと最初に浮かんだのが鹿子さんだったんですね。「『ヨレヨレ』のあの人に一冊書いてもらったら絶対おもしろいと思うんだけど」と言ったら、すぐに「あ、それいいね!」と言ってくれて。ナナロク社の皆も『ヨレヨレ』は読んでいて、すごく好きだったので。

―― そこから本の企画がはじまったんですね。

川口はい。まず、鹿子さんに手紙を書きました。まあ、ラブレターみたいなもんですね(笑)。鹿子さんもびっくりしたみたいで、「そんなに長い文章を書いたことがないから、書けるかな」と最初はおっしゃったんです。でも、とりあえず会ってお話しましょうということになって、福岡のよりあいまで会いに行きました。それが2014年の6月初めのことです。
 最初にお会いしたとき、はじめは二人して畳に正座で、なんかもじもじして・・・。緊張していたんですね。お互いに「あ、足崩してください」とか言い合いながら(笑)。そこから6時間くらい鹿子さんの話を聞きました。

―― 6時間も!

川口そのときは、どういう本にするかではなくて、鹿子さんが今までどんなお仕事をされてきたのかとか、どういう本や音楽に親しんできたのかとか、こういう人が好きだとか。一見、本とは関係のない話ばかりした気がします。すごくおもしろくて、あっという間の6時間でした。

―― 本のあとがきで、鹿子さんは「『あなたの文章が好きなんです』とじっと目を見てうるうるされたら、誰だっておしっこが漏れそうになる(僕もそうだった)」と書かれていますね。

川口うるうるはしてませんけど(笑)。鹿子さんはそのときに、はっきりと「書いてみます」とおっしゃったんです。「書きます」とか「やれます」じゃなくて、「僕、ちょっと書いてみます」と。そこからいろいろと準備をしてくださったのですが、本格的に軌道に乗って書き始められたのは、『ヨレヨレ』の3号が出たあと、2015年の1月ごろからです。


編集者の目で自分の原稿に向き合う

川口実は、鹿子さんがはじめに書いてくれたものと、今の完成形はかなり違っています。鹿子さんは「書き手」であると同時に非常に優れた「読み手」でもあり、編集者でもある。だから自分の文章をジャッジする目がすごく厳しいんです。書いて書いて、相当書いて、それはそれですごくおもしろいものを、編集者の目で読み直して全部ボツにしたり。「やっぱりこの間の原稿全部やめます」ってメールが来たりとかして、何回も書き直しをされているんですね。どういう文体や語り口にするかで、しばらく試行錯誤されていました。ご自分で推敲された後に、メールではなく、毎回プリントアウトした読みやすい状態のものを送ってくださいました。

―― すごいですね。本の構成はどのように決まっていったのでしょうか?

川口全体の構成を編集から提案するのではなく、鹿子さんが一章一章、書き進めながら見つけていったという感じですね。
 私が頼んだのは、『ヨレヨレ』に書いてあったことを一冊の本として読んでみたい、もっと鹿子さんの文章が読みたいということです。『ヨレヨレ』をどうしてつくることになったのか、よりあいが何をやろうとしているのかということを、鹿子さんの視点から書いたらすごくおもしろいと思ったんです。鹿子さんはルポライターではないし、ノンフィクション作家でもないし、介護に特別に興味があるわけでもない。フリーの編集者がよりあいのことをたまたま知って、たまたま巻き込まれてその場にいる、というすごく珍しい立ち位置の方だなと思いました。だからこそ、そんな鹿子さんの視点からよりあいのことを書いたものが読みたかったんです。

―― あとは鹿子さんがひとりで書き進めていかれた。

川口はい。私はあくまでも伴走者です。鹿子さんが「書きます」と言った時点で、私の仕事は半分終わった(笑)。あとは原稿が届いたらきちんと自分の感想を伝える、ということだけ。だいたい褒めているだけなんですけど、鹿子さんはそれでも自らどんどんボツにして。すごく勇気のいることだったと思います。本当は、本に入らなかったおもしろいエピソードもたくさんあったんですが、やはり流れに合わないところは外しました。
 私は、「鹿子さんは絶対おもしろいものを書けます」とだけ言い続けていたんです。あとは本人が、抜け毛に悩んだり、できものができたりしながら(笑)、がんばって書いてくれました。本当にコツコツ、書かれていましたね。


(つづきます)

【お知らせ】鹿子裕文さん×三島邦弘イベント情報

2月11日(木・祝)京都にて、鹿子裕文さんとミシマ社代表・三島邦弘のイベントがあります。なんと2本も!

◆<対談>
『へろへろ』刊行記念トークショー 鹿子裕文×三島邦弘
「へろ戦記・京都ちゃぶ台篇」@ホホホ座

ともに「無計画」を標榜する二人が、縦横無尽に語り尽くします!

・日 時:2016年2月11日(木祝) 14時~(開場13時30分)
・場 所:下南田町集会所(ホホホ座から徒歩 3 分) 京都市左京区浄土寺下南田町 120
・参加費:1500円(ホホホ座1階全商品 500 円割引券付)
【お申し込み方法】
メール:1kai@hohohoza.com まで件名を「へろ戦記トーク」とし、「お名前・ご連絡先」を明記のうえお申し込みください。


◆<実践>
寺子屋ミシマ社 『へろへろ』鹿子裕文さん編
@ミシマ社の本屋さん

雑誌『ヨレヨレ』 と『ちゃぶ台』の意外な共通点が明らかに?!
そして新たな企画が動き出す!

・日 時:2016年2月11日(木祝) 18時30分~20時(開場18:00)
・場 所:ミシマ社の本屋さん 京都市左京区川端通丸太町下る下堤町90-1
・参加費:1500円(ミシマガサポーターの方、同日開催の「へろ戦記・京都ちゃぶ台篇」にも参加された方は1000円)
【お申し込み方法】
メール:event@mishimasha.com まで件名を「寺子屋ミシマ社0211」とし、「お名前・ご連絡先」を明記のうえお申し込みください。

【お問合せ】
TEL:075-746-3438(ミシマ社京都オフィス)


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川口恵子 (かわぐち・けいこ)

1976年生まれ。編集者。2008年よりナナロク社で書籍編集に携わり、現在に至る。編集した書籍に、『ぼくはこうやって詩を書いてきた−谷川俊太郎、詩と人生を語る』(谷川俊太郎、山田馨)、『池田修三木版画集 センチメンタルの青い旗』(藤本智士)、『おやすみ神たち』(谷川俊太郎、川島小鳥)、『バス停に立ち宇宙船を待つ』(友部正人)、『あたしとあなた』(谷川俊太郎)、『へろへろ 雑誌『ヨレヨレ』と「宅老所よりあい」の人々』(鹿子裕文)などがある。

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