本屋さんと私


 これまでも、「本屋さんの遊び方」や、「本屋さん発・番外編」などにもご登場くださり、ミシマガジンではおなじみの山下賢二さん。 記事にもある通り、現在はガケ書房を改名・移転し、ホホホ座のメンバーとして活躍されています。
 そんな山下さんが、夏葉社から単著を出されたということで、メンバーもカメも(ガケ書房の亀は、今、ミシマ社の本屋さんにいるのです。詳しくはこちら!)興味津々。

 そして本書、あらゆるベストセラーをさしおいて、なんとミシマ社の本屋さんの2016年春の売上(2月〜5月)で1位に輝きました。この本の執筆時のエピソードや、本のこと、そして本屋さんのこと、山下さんに伺いました! これからミシマ社からホホホ座編集の本も出る予定ですので、どうぞお楽しみに。

(聞き手・構成:田渕洋二郎、写真:宮本陽子、構成補助:菊池まどか、宮本陽子)

第179回 誤解を増幅させる

2016.07.01更新

誤解を増幅させる

―― いろいろなアイデアはどういうときに浮かびますか?

山下ルーティンワークのときですかね。運転してるときとか歯磨いてるときか、トイレ入ってるときとか。手がふさがってて体が勝手に動いてるときって頭は退屈だから人間って色々考え始めるんです。
 でも最近はそういうときに、スマホいじるでしょ。そういう<思考を遊ばせる反復時間>をスマホをいじることに取られてしまうのはもしかしたら退化かもしれませんね。自分で操作しているから、能動的になにかやってるように見えるんですけど。実は何もしてないんじゃないかと思うんです。中毒になってる人たちの層を見ると、実はかつてのテレビような受け身のメディアなんじゃないかと。

―― ほんとそうですよね。

山下昔、大学の「自己プロデュース論」の授業のゲストに呼ばれたことがあって、そのとき僕は事前に、生徒たちのSNSのアカウントを聞いておいてほしいって先生に頼んでおいたんです。なぜかというと、要するにSNSって一番身近な自己プロデュースだと思うんですよ。何を投稿するか、何を投稿しないかっていう取捨選択は自分が人からどう見られたいか、ってことだから。

―― たしかに!

山下で、僕が意地悪なのは、そのアカウントをスクリーンに映して、これなんでアップしたん? なんでこんな言葉書いたん? なんでカフェのカップ撮ってんの? とか。それを一人一人に解説させたんです(笑)。そしたらそのうち生徒は皆、下を向いて目も合わせてくれなくなって(笑)。

―― (笑)。

山下でも、それはSNSに投稿するということを一回、客観的に考える行動なんです。投稿をただするのと、自己プロデュースの一つだと意識してやるのとでは全然違うんですよ。そこにツールがあるからやるっていうのではなくて、意識的に投稿したらSNSってすごく効果があると思うし。

―― なるほど。

山下SNSとかインターネットって誤解を増幅させられるメディアなんですよ。それは良くも悪くもね。そのいいほうの誤解の増幅をホホホ座は今、やっています。この半年で全国にたくさんの異業種のホホホ座が出来てるんですね。内情を言うとただ名前を使ってもらってるだけなんですけど、でも第三者の事情を知らない人が見たら、え、ここにも店舗があんの!? 全国展開してる企業なの!? っていういい誤解のパブリックイメージが生じて、何かと役に立ってます(笑)。


娯楽、ソフト、お土産として

―― 最近は、ホホホ座は本屋ではないということを、推してらっしゃいますよね。

山下そうです、売るための戦略として、買ってもらう動機を下げたいなって思うんです。本は、アプリとはまた違う面白さを持った「娯楽」なんだとアピールしていきたいですね。昔は本を読むことは教養でしたけど、そうやって本を読むことが偉いこと、難しいことみたいにしてしまうと、みんなますます本から遠ざかってしまう。純粋にソフトとして付き合ってほしいです。

―― うんうん。

山下あとは、お土産として買ってほしい。ネットでワンクリックで買うだけだと、ついてこない<モノにまつわる思い出>というものを、店への行き帰りだったり、店内の空気だったり、一緒に行った人との時間だったりという思い出を家の本棚に持って帰ってもらえればと思います。

―― 電子書籍などはデータ飛んだら終わりですもんね。

山下あと紙の本は、時間を止めたメディアなんです。SNSは現在進行形で時間の誤差が限りなく少ないけど、紙メディアは印刷までの工程を経た時点でいつも過去の出来事なんです。つまりこの次元への記録です。100年前の言葉が紙で残ってるってわけやからね。

山下考えてみれば本屋さんって不思議な空間なんですよ。全く違う思想がとなり通しで並んでいる。そういうのって大切やと思うんです。いろんな考え方があって、いろんな人がいるってことを空間で感じられる。



一つに染まるのが嫌い

―― 感動しました。

山下僕は、なんでも一つに染まってしまうのが嫌いで。だから電車の中とかでも、スマホ一色じゃなくて、いろいろなことをしている人がいた方が安心します。

 街とかも同じで、渋谷とか若者ばっかりの街はどこか居心地が悪いんです。

―― 昔からそうでしたか?

山下うーん、でもまあでも店をやりはじめた頃は、自分の趣味を押し付けたものばっかり並べてたんです。本当に男臭い、柔道部の部室みたいな(笑)感じの男臭さ。もうとにかくインパクトが強いもの、奇をてらった在庫。そんな感じやったんです。それが実績として、みるみる売り上げが下がって分かったので、どうしようかと思って。

―― そうですか......。

山下それで、スタッフに無理矢理入ってもらって、その子達がマイルドにしてくれたんですよ。その棚をみたときに、ああ、これでいいんや、とコロッと方向転換したんです。自分の我を出すんじゃなくて、ちゃんとお客さんと対話して、いろんな価値観に触れて、その対話のなかで生まれてくる商品を出したほうがいい。そうやって売れたときの方が嬉しいんですよね。

(つづきます)

    

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山下賢二(やました・けんじ)

1972年京都生まれ。21歳の頃、友達と写真雑誌『ハイキーン』を創刊。その後、出版社の雑誌編集部勤務、古本屋店長、新刊書店勤務などを経て、2004年に「ガケ書房」をオープン。外壁にミニ・クーペが突っ込む目立つ外観と、独特の品ぞろえで全国のファンに愛された。2015年4月1日、「ガケ書房」を移転・改名し「ホホホ座」をオープン。編著として『わたしがカフェをはじめた日。』(小学館)、『ガケ書房の頃』(夏葉社)などがある。

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