本屋さんと私


 これまでも、「本屋さんの遊び方」や、「本屋さん発・番外編」などにもご登場くださり、ミシマガジンではおなじみの山下賢二さん。 記事にもある通り、現在はガケ書房を改名・移転し、ホホホ座のメンバーとして活躍されています。
 そんな山下さんが、夏葉社から単著を出されたということで、メンバーもカメも(ガケ書房の亀は、今、ミシマ社の本屋さんにいるのです。詳しくはこちら!)興味津々。

 そして本書、あらゆるベストセラーをさしおいて、なんとミシマ社の本屋さんの2016年春の売上(2月〜5月)で1位に輝きました。この本の執筆時のエピソードや、本のこと、そして本屋さんのこと、山下さんに伺いました! これからミシマ社からホホホ座編集の本も出る予定ですので、どうぞお楽しみに。

(聞き手・構成:田渕洋二郎、写真:宮本陽子、構成補助:菊池まどか、宮本陽子)

第180回 血だらけの猪木がかっこ良くて...

2016.07.02更新

血だらけの猪木がかっこ良くて...


―― 小さいころに読んでいて印象に残った本などはありますか?

山下大百科シリーズですね。全怪獣怪人大百科とか。あとは学研のひみつシリーズ。なんかね、優等生的なのは好きじゃなかったんです。親から偉人の伝記モノも押し付けられたんですけど、好きじゃなかった。優れた児童書とか子供に選択肢として導くのはいいと思うけど、この価値観だけがいいんだとあてがうのはよくないと思いますよ。それは英才教育ではないと思う。
 中学校くらいからは、普通の本はあまり読まなくなったんですよね。プロレスにはまってしまって(笑)。そこから将来の夢はもうプロレスラーって決めて、毎日トレーニングとかしてたんです。

―― おお!

山下中学校2年でブリッジとかしてたんです。プロレス雑誌が毎週2冊出るんですよ。だからそれを毎週買って、隅から隅まで読んでました。

―― プロレスにはまったのはどんなきっかけがあったのですか?

山下友達の家に行ったら、壁に猪木が頭血だらけでマイクもってるポスターがあったんです。それ見た瞬間、わあ、かっこいいと思って。そこから一気にプロレスに興味がわいてきたんです。
 あと僕の時代はタイガーマスクやアントニオ猪木とかが全盛期で、金曜夜8時はプロレスみたいな。ちなみに僕はテレビとかで放送されて盛り上がる前から好きだったんですけどね。これは言っときたいです。ブームに乗ったんじゃないぞ! って(笑)。どうでもいいこだわり。

―― なるほど(笑)

山下で、高校になると興味の対象が音楽にいくんです。だから本から離れてしまう。音楽ばっか聴いて、ギターばっか弾いて。それで、家出して...って感じかな。それからは、読んでもカルチャー誌とかですね。スタジオボイスとか宝島とか。
 でも僕、ポパイとかね、ああいうのにはまったく興味なかったんですよ。シュッとした都会系の本はなんか逆に田舎モンが必死で読む雑誌のような気がして。あとはチャールズ・ブコウスキー。パンクじいさんです。下品なこといっぱい書いてるんですよね。そういうのに最初は惹かれました。


都会を生きていくための本


―― お店を始められてから読まれた本で印象に残っているものは?

山下店を始めてからは、好きな作家は自分の中で決まって来ましたね。硬質の、シリアスな文体の作家。たとえば佐藤泰志、野呂邦暢、初期の丸山健二とか。ああいうちょっと男っぽいというか、あんまり夢見る感じではないところが好きです。その中でも、現実をそこにそのまま、ただ書くんじゃなくて、そこに詩的要素が入ってるのがいい。

 『ガケ書房の頃』も彼らの文体の影響が知らず知らずのうちに出ているかもしれないです。良いことばかりだけじゃなく、シビアな現実の中にあるもの。最近はかっこよく生きるためのことばっかり書いてる本が多くて、もちろん売れるからお店にも置くんですけど。若い人はそういうのにコロっと騙されてしまうんですよね~。カッコわるいカッコよさを知らずに。

―― さっきの野呂邦暢、佐藤泰さんの本で言うとどのタイトルの本がいいですか?

山下野呂さんは『愛についてのデッサン』『丘の火』とエッセイ集。佐藤泰は『海炭市叙景』とか、丸山健二は、初期の短編集が大好きです。これらの本は、自分が都会で生きていくために読み返してきた本かな。


名もなき本屋こそおもしろい

―― 印象に残っていたり、よく行った本屋さんはありますか?

山下まずこの本の冒頭に書いたこま書房ですね。あとは、あんまり思いつかへんなあ。僕、元々あんまり情報を追っかけないタイプなんですよ。実はガケ書房を始めるとき、恵文社一乗寺店も知らなかったんですよ。同じ左京区にあるはずなのに。物件探しにきて、はっ、こんなお店あるんやって。流行ってたり、話題の情報に興味がなかったりする。出会いが遅いほうが面白かったりもする。

―― そうでしたか...。

山下古本屋さんとかは入ってくる本がそれぞれ違うし、値段も違うし、いろいろ探して行ったりするんですけど、新刊書店とかはまず行かないんですよ。地方に行ったりしても、あくまで入るのはその近くにある普通の本屋さん。でもそういうとこに置いてある何気ない在庫が面白かったりするんですよ。いわゆるセレクト系の書店の人が目につけたもんじゃなくて、偶然配本で入ってきた本とか、まったく自分の店と接点がない本が並んでいたりするので、意外な発見もあったりするんです。

―― 『本屋さんと私』に本屋さんの名前が出てこないのも、新鮮でいいです。

山下それでいいんですかね(笑)。でも好きなのは、本当に名前も覚えてへんような本屋ばっかりです。たぶんこの「こま書房」も、最初に出会った単に近くにある本屋。どこにでもあるような名もなき本屋なんですよ。でもしっかり街に根付いてる。そういう本屋が好きです。

   

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山下賢二(やました・けんじ)

1972年京都生まれ。21歳の頃、友達と写真雑誌『ハイキーン』を創刊。その後、出版社の雑誌編集部勤務、古本屋店長、新刊書店勤務などを経て、2004年に「ガケ書房」をオープン。外壁にミニ・クーペが突っ込む目立つ外観と、独特の品ぞろえで全国のファンに愛された。2015年4月1日、「ガケ書房」を移転・改名し「ホホホ座」をオープン。編著として『わたしがカフェをはじめた日。』(小学館)、『ガケ書房の頃』(夏葉社)などがある。

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