本屋さんと私

 『ここは退屈迎えに来て』(幻冬舎文庫)でデビューし、地方での息苦しさを抱えながら生きる女子を描き一躍注目を浴びた作家・山内マリコさん。独特のリズムを持った小説は読んでいるうちに惹き込まれ、現代を生きる私たちの背中をそっと押してくれます。

 そんな山内さんが、この春、初めてのエッセイ集『買い物とわたし』を刊行されました。軽妙な語り口とリズムいいお買い物っぷり、長く使えるものや「どこで買うか」という意識から現代社会での在り方まで、柔らかくしなやかな筆致に思わず自分の「買う」という行動を見つめ直す一冊です。

 今回の「本屋さんと私」では、そんな山内マリコさんに、買い物の話から小説の話、本屋さんとの話を伺いました。
 第1回目は、『買い物とわたし』の話を中心に、お買い物についてです。

(聞き手:星野友里・新居未希、構成:新居未希)

第181回 買い物自体は悪じゃない(山内マリコさん編)

2016.07.28更新



買い物という行為自体は悪じゃない

―― 『買い物とわたし』拝読して、「買わないでおこう」というのではなく、やたらめったら買おうというわけでもなく、「そこそこ真面目な消費者でありたい」という山内さんの消費に対する感覚が、バランスがよくて、素敵だなと感じました。

山内ありがとうございます。たぶん私、すごく無駄打ちをしているんだと思います。自分で身銭を切って失敗を重ねてこないと、買い物の精度って上がらないですよね。私がもし、バランスよく物と向き合えたり消費できていたりしたとしたら、それだけ無駄打ちをしているということかなと(笑)。

―― たしかに、身銭を切らないと痛い思いもしないですよね。山内さんのお買い物遍歴は、どのようなものだったんでしょうか?

山内中高生だった90年代半ばは、いまから思えばまだまだバブルの残り香な時代で、「消費万歳!」みたいな雰囲気がありましたね。ファストファッションなんてないので、高校生が背伸びしてブランド物を買ってたし、おしゃれにはそれ相応のお金がかかるものでした。雑誌を読みまくり、でも雑誌に載っているものは高くて買えないジレンマにひたすら悶えてました。20代は、考えなしに「可愛い」と思ったものを手当たり次第に買ってる感じでした。服でも雑貨でも、すぐに飽きちゃうようなしょうもないものを買ってしまって。この時期にあんまり自分の趣味を突き詰めなかったせいで、30代になってからなにを買ったらいいかわからなくなったんです。20代ですごく好きだった服が30代になって似合わなくなるとか、そういうことがすごく多くて、「一回やり直さなきゃいけないな」というタイミングのときに、この本の元となる連載の依頼をいただきました。

―― ご自身の中だけでなくて、時代としてもそういう雰囲気はあったように思うのですが、そのあたりはどのように感じられましたか?

山内たしかにここ数年、買うより捨てるのがトレンドでしたよね。断捨離ブームがおこったあと、どんどんものを捨てて、最終的に「何も持たないのがいい」という風潮が出てきた。たしかにそれはスッキリするし、気持ちいいんだけど、自分の稼いだお金で好きなものを選んで、身の回りを飾ったり整えたりする行為自体は、楽しいし、悪じゃないと思うんです。今の時代に、買い物エッセイを書くこと自体、時流に逆らっているようなものなんですけど、そのあたりのバランスを見ながら毎回テーマを選びました。個人的に、年齢とともに趣味も似合うものも変わり、社会的な立場も変わったときだったので、入り用なものもいろいろあったし、ネタには一度も困らなかった(笑)。第一回はブランドものの財布をテーマにしたのですが、働いていると「これくらいのもの持ってて当然」みたいなものってありますよね。別にブランドものでなくてもいいんだけど、お会計するときに、30歳の女性がマジックテープの財布を出したら「!?」みたいになっちゃうような。

―― わかります。20歳だったらいいけど、30歳でマジックテープはないな、と。

山内そういう気を使うべきポイントがいろいろ出てきたのが個人的な変化でした。仮にも作家なんだし、もうちょっとまともなもの持ってないと格好つかないな、という感じで。とくに服装なんかはそうですね。大学卒業してすんなり社会人になった人は、23歳くらいで気づくことなんですけど(笑)。


普通の感覚での買い物を、正直に書いた

山内女性作家の買い物エッセイって、豪快な買い物をするものというイメージがあるけど、それを私がやっても破産するだけで、とても真似できない(笑)。

―― たしかに、買い物エッセイ=お値段のするものを豪快に買っていく、というイメージでした。

山内なので、「お金あるの?ないの?どっちなの?」くらいの感じで正直に書きました。読者さんからの感想を読むと、ドンピシャで同じ金銭感覚の人もいれば、「高いものばかり買っててついていけない」という若い人もいるし、なかには「なんてお金のない作家なんだ」と気の毒に思ってる人もいるかもしれない(笑)。お金の使い方って本当に人それぞれだから、100%で共感を得るのは難しいですよね。この歳になるとあんまり友だちと買い物にも行かないから、自分でも安物買いなのか高いもの買ってるのか、いまいち判断がつかなくて。でもだからこそ、読者さんから反響があるとすごく嬉しかったです。

―― 読んでいて友だちになった気分になりました、勝手に(笑)。

山内それ最高の褒め言葉です! 20代の頃は「遊びに行こう」=「買い物行こう」という感じだったけど、30近くになってくると「遊びに行こう」=「ご飯食べに行こう」みたいに変わっちゃって。女友達とあーだこーだ無駄話しながら、情報を交換し合って、ものを買うのってすごく楽しかったのに、もうそんな時間がないから、買い物が孤独になってるんですよね。そういう寂しさを読者の方と共有できたなら、本を出してよかったなぁと思います。

―― 昔から、買い物自体はお好きだったんですか?

山内そうですね。そんなにおしゃれじゃないんだけど、おしゃれに構わなくてもいいってとこまでは振り切れない、中途半端にファッションに興味のある人って感じです。20代まではボヘミアン調のワンピースとかが好きで、謎の柄物ばっかり着てたけど、30代になってからは洋服で自己主張するのも恥ずかしくなって、そういう趣味は封印しました。いまは、なんとなく小綺麗に見えて、なんとなくいい感じだったらいい、くらい。志が低いですね(笑)。ある一定以上のおしゃれをすると、なんか落ち着かないんです。普通でいい、みたいな。

―― 『買い物とわたし』は、がんばれば、載っているものが全部買えますよね。そこもいいなと思いました。

山内そう言ってくださることにすごーく喜びを感じます。「どうせ高いものばっかりでしょ」という先入観を持って本を手に取られた方が、劣等感とかコンプレックスを抱かずに、楽しんで読んでくれたら嬉しいです!


(次回は、山内マリコさんに小説について伺いました!)

   

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山内マリコ(やまうち・まりこ)

1980年富山県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業後、京都でのライター生活を経て上京。2012年『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。他の著書に『さみしくなったら名前を呼んで』『かわいい結婚』『東京23話』、エッセイに『買い物とわたし』などがある。2作目の『アズミ・ハルコは行方不明』が映画化(監督・松居大悟、主演・蒼井優)、12月公開予定。

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