本屋さんと私

第183回 あのときの時間がすべてだった

2016.07.30更新

あの場所に文苑堂がなかったら

―― お好きな本屋さんや、思い出の本屋さんなどあれば、教えてください。

山内自分のなかのメッカみたいな本屋さんは、地元(富山)の文苑堂書店です。いまはもうマンションになってしまってるんですが、小学生の頃、ギリギリ自転車で行けるところに、レンタルビデオ屋とセットになっている文苑堂書店があったんですね。その「レンタルビデオとセットになってる」という形態が、当時は新しくて、近所で唯一楽しい場所でした。
 私のなかでは娯楽がそこしかなかったんです。ちょっとでも暇したら、親にせがんで連れてってもらうか、自転車を飛ばして文苑堂に行って、雑誌とか本を見て、ビデオを借りてました。それを小学校高学年くらいから高校を卒業するまでひたすら、ずーっとやっていました。あのときの時間がすべてだった。あの場所に文苑堂がなかったら、たぶん本もそんなに読んでなかったし、映画も見てなかったし、小説家になりたいなんて思わなかったかもしれないです。

―― いまも、文苑堂書店自体はありますよね?

山内はい。文苑堂書店はいまも富山で絶賛営業中です。郊外型の大型店なので。市内にあった小さな本屋さんが、ほぼ全滅の勢いで姿を消してしまったのはとても残念ですが。

―― 関西にお住まいだったときは、関西の本屋さんには行かれましたか?

山内私、大学がすごく田舎だったのに加えて、アクティブじゃないからキャンパス周辺から全然出ないという驚異的な引きこもり生活を送っていたんです。よく行っていたのは、大学の中にある書店で。その大学内の本屋さんが、私が入学して卒業するまでの間ずーっと、村上春樹の文庫本を平積みしてて......結果、自然とハルキストになるという(笑)。

―― 本屋さんの影響でハルキストに!

山内常に本屋さんがインフラなので、言いなりみたいな感じでしたね。もうしょうがない、それしかないから(笑)。


「マリコ、東京に行きな」

―― いまは地方在住の作家さんもけっこういらっしゃると思いますが、山内さんは「よし、作家になるぞ! 東京に行くぞ!」という感じだったんでしょうか?

山内それがもう、いろいろありまして(笑)。大学卒業してからは京都でライターをやっていたんですけど、そんなに出版のお仕事が多くないのに加えて、ライターの仕事に限界を感じていたんです。さらに、飼ってる猫ちゃんの子供に不幸があって、それがあまりにも辛すぎて。「もう京都にいたくない」と泣き暮れていたとき、友だちが夜中にベランダで、「マリコ、東京に行きな」って言ってくれて。

―― かっこいい......。

山内相当遠回りしているから、そんなに「東京行きたい! 行きたい!」っていうことは思っていなかったんだけれど、だんだんそうなってきちゃって。京都はすごく楽しかったし、また住みたいとも思うんだけど、ちょっと閉鎖的だなとは感じていました。田舎者が移り住む居心地の良さでいうと、良くはない。もうすこし別のところに行きたいなと思ったとき、大阪、京都と出てきたら、もう東京かなと。そうして自然と東京になったんだけど、行きたい気持ちがあったから、友だちも気持ちを察して背中を押してくれたのかなぁ。相当な遠回りをして、猫を連れて東京にたどり着いたのが2006年、25歳のときです。

―― そうだったんですね。

山内京都に一瞬住んだことがある身からすると、東京って、地方出身者の楽園みたいな感じなんですよね。ここにいてもいいんだっていう、特別な解放感がある。


東京のことも書いていきたい

―― これからも、富山に戻られたりはせずに、東京にいらっしゃるご予定ですか?

山内そうですね。北陸新幹線のおかげでものすごく近くなったので、なにかあればいつでも帰れるし、引っ越しまでは考えてないです。東京とひと括りに言ってもエリアがいっぱいあるので、沿線や、東か西かでも全然違う。いま東側に来て1年くらいなんですが、すごく居心地が良くて、居着いているんです。引っ越しが好きなので、東京を転々としてるだけでこの先30年くらいはいけるなぁと思っています。

―― これまでは富山や地方を舞台にして書かれているものが多かったかと思いますが、今後東京にいらっしゃる時間が人生においても長くなっていくなかで、書かれるものも変わっていかれるんでしょうか。

山内そう、まさにその、東京を描いた連載が終わったところなんです!
 これまでは地方のことを書いてきて、でもここ10年くらいは東京に住んでいるわけだし、そろそろ東京のことも書きたくなって。けれど「地方出身者が東京に住んでる東京での話」だったら、全然代わり映えしない。それで、ここは自分と正反対の、東京の裕福な家庭で生まれ育った子を描きました。東京には、何代も前から一定の地位にいる階層があるんですが、地方出身者からしたら、その世界ってすごく特殊で面白いんですよね。
 今年の11月に集英社から出る予定ですが......どうなることやら(笑)。

―― それはとっても、楽しみです!


   

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山内マリコ(やまうち・まりこ)

1980年富山県生まれ。大阪芸術大学映像学科卒業後、京都でのライター生活を経て上京。2012年『ここは退屈迎えに来て』でデビュー。他の著書に『さみしくなったら名前を呼んで』『かわいい結婚』『東京23話』、エッセイに『買い物とわたし』などがある。2作目の『アズミ・ハルコは行方不明』が映画化(監督・松居大悟、主演・蒼井優)、12月公開予定。

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