本屋さんと私

『過激派オペラ』監督・原作・脚本:江本純子、主演:早織、2016年10月1日より全国で公開中

 3年前ほど前のある日。
 ミシマ社自由が丘オフィスに、美しくて飄々とした雰囲気の一人の女性が現れました。

女性:「ジュニア(ミシマ社でPOPづくりなどを手伝ってくれている、主に学生さんたちの呼び名)として来させていただいたのですが」

ミシマ社一同:「あ、そうなんですね、ぜひぜひ!」
(心の声:わー、美人さん! でもどうやら学生ではなさそうな雰囲気。いいのだろうか。)
「ところで、普段は何をされているんですか?」

女性:「あの、女優をしています」

ミシマ社一同:「えええーー!!! そういえば観たことある!」

という感じで、ときどきミシマ社のPOPづくりやイベントのお手伝いに来てくれていたのが、今回取材をさせていただいた、女優の早織さんでした。

 『舞妓Haaaan!!!』『百円の恋』等々で存在感の際立つ役どころを積み重ねられ、現在公開中の映画『過激派オペラ』では、体当たりの演技で主役をはっておられます。早速観に行ったミシマ社一同、あまりの迫力にノックアウト...。みなさん、とにかく観ていただきたいです。

 今回は、そんな最新作の撮影裏話から、本好きな早織さんの読書ヒストリー、そして本屋さんのお話などなど、たくさんうかがいました。3日間にわたってお届けします。

(聞き手・構成:星野友里、構成補助:菊池まどか)

第187回 『過激派オペラ』の撮影を終えて(早織さん編)

2016.10.22更新

大変でしたとか、言うのも嫌だった

―― まずは公開中の映画『過激派オペラ』のお話をうかがえたらと思います。先週観させていただいたのですが、ポスターなどを拝見して、すごそうだなと思っていた、その想像レベルを300くらい越えたすごさでした(笑) 

早織(笑)観ていただいて、ありがとうございます。

―― 壮絶なんだけれど、すがすがしくて、その二つが一緒にある映画なんて、ほかにあまりないのではないかな、と。撮影は過酷をきわめたという噂をきいておりますが、まず、撮影から1年ほど経ったいま、どんな感じですか?

早織いま...、人に話せるようになった...。

―― なってきましたか。

早織撮り終わったすぐ後は、やっぱり具体的には話せなかったですね。大変でしたとか、言うのも嫌だったんですね(笑)

―― なるほど(笑)


早織つらかった、とか言うのも嫌だったんです。つらかった、ということで、どれくらい影響が出るのか、どう受け止められるのか。たとえば、映画を観た人にとって、私が話すことがプラスとなるのかマイナスとなるのかっていうのも考えますし、ただやっぱり自分の気持ちがぐるぐるしていると、私も前には進みがたいし。でもそのぐるぐるしているのを、全部捨ててしまってもいいんだろうか、とか。撮影の直後はすごく心が停滞していて。マネージャーと話し合ったら、「一回、ちょっと蓋しよ!」と助言をもらいまして(笑)

―― 冷却期間。

早織みたいな感じでしたね。去年の7月に撮っていて、年が越えて新年になって、ちょっとなんか、ラクになったんですよね。それで、公開日も決まって、取材などの宣伝活動が始まったことで、よし、向き合うぞ、と。映画を撮ったからにはより多くの方に観ていただきたいので。自分が持っている蓋付きのバスケットみたいなものの中に脚本とかをいろいろ入れていて、本当に、その蓋を開けたんです(笑)

―― 物理的にも、蓋を開けたんですね(笑)

早織そうなんです、それを、ふーって開けて。脚本とか、監督の原作とか、役をするために読んでいた小説とか、そういうのを取り出してきて。ああ、そうだそうだ、という感じで。取材のために、映画も観直して、自分の言葉で、どういうことを伝えられるかな、ということを考え始めました。それが今年の8月とか9月とか、最近ですね。


感情を止めるなと言われた

―― 他のインタビューで、監督に、「賢くやらないで。頭であんまり作らないで」という感じに言われた、という話を読みました。

早織そこが大変でした。私、ふだん、感情をバッっと出すのが苦手、というのがあるので。自分の中ですごく情熱とか、波があっても・・・まず出す前に考えようか。みたいな(笑)

―― そんな感じがします。

早織なので、たとえば演技で感情をバッっと出しても、そのあとが続いていかないんです。バッって波が来てもすぐに引いちゃうので、なぜそこで感情を止めちゃうんだ、というのをよく言われました。

―― なるほど、畳みかけるように感情を出していかないといけない場面もありますよね。

早織そうなんですよ。たとえば、彼女の"春"と路上で喧嘩するシーンは、12日間あった撮影の最終日に撮ってるんです。

―― 印象的なシーンでした。

早織パソコン壊されて、「てめえ死ね!」とか言っているところ。バアン!ってパソコン壊されて、ウワァーッとなったあとに、ウワァーッの後が、どんどん続いていかないといけないんですけど、最初の手合わせ(笑)の際、ウワァーッだけになってしまって、そこでも感情を止めるなと言われたのを、すごく覚えてます。

―― なるほど。

早織あと、二人で下北沢の道をバーッと走ってきて、"春"が花束を投げて、私はその落ちてきた花束をキャッチして、また二人で走っていく、というシーンがあります。あれも何回かやっていて、なかなか花束が高く上がらないとか、カメラの中でフレームに収まらないとか。でも、キャッチできて、ヤァー! とか言って盛り上がって、すごく良い画が撮れたね、とスタッフさんたちと言っていたんですけど、つかつかと近寄って来られた監督は「これができたからといって、うまくできた、って、思わないでよね」と仰って。「これでスタート地点くらいのレベルだから」と。それが撮影の最終日だったという(笑)

―― あはははは。

早織私たちは、監督が求める演技のスタートレベルに行くまでに、クランクイン前のリハーサル6日間+撮影12日間で...3週間かかった(笑)


私と違うからできない、という気持ちはない

『百円の恋』監督:武正晴、主演:安藤サクラ、2014年12月20日公開


―― 『百円の恋』でも、安藤サクラさんが演じた主人公のお姉さんと、掴み合いの姉妹喧嘩をするシーンがありましたよね。普段の早織さんの内省的な雰囲気と正反対のキャラクターを演じることが多いのかなと思ったのですが、自分ではどう思われていますか?

早織そうですねえ。どんな役も私や私の人生とは異なります。『百円の恋』も、今回の『過激派オペラ』も、オーディションがあって、脚本を読んで、この役がやりたいと思って受けているので、私と違うからできない、という気持ちにはならないんですよね。うまく演じられるか、演じられないか、ということで考えていないというか。演じたい、という思いだけなので。それでオーディションで取ってもらえた、っていうことは本当にラッキーで。

―― うんうん。

早織たとえば『百円の恋』は、私はもともとサクラさんの演じた一子役でオーディションを受けていたんです。その妹の二三子は、自由に生きるお姉ちゃんに対して嫉妬のような感情を抱えている役だったのですが、私が、あのオーディションを一子役で受け、なれなかったことにより、二三子の人格や感情がビビッドに捉えられました。私と二三子がリンクし、イメージがどんどん膨らんできて。

―― なるほど。

早織今回の『過激派オペラ』では、やっぱりあのナオコ(早織さんが演じた主人公)という人の、静かなところに、私はたぶん、惹かれたんだと思う。あの人は激昂したりとか、どうにもならない激情を創作することにぶつけていたりするんですけど、静かで、孤独なところがあるから。ただちょっと、静かなところはわかるけど、激しいところを体現することがなかなか、できなかった、という(笑)


(つづきます)

   

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早織(さおり)

1988年5月29日生まれ 京都府出身 スターダストプロモーション所属
2003年、テレビドラマ「東京少女」(03)でデビュー。その後もテレビドラマ「電車男」(05)、「1リットルの涙」(05)など話題作に出演し、「ケータイ刑事 銭形雷」(06)で初主演を飾る。主な出演作に、映画『舞妓Haaaan!!!』(07)、テレビドラ「帰ってきた時効警察」(07)、映画『旅立ちの島唄~十五の春~』(13)、舞台「祝女~shukujo~」(14)、日本アカデミー賞5冠受賞の『百円の恋』(14)では主人公の妹役を印象的に演じ脚光を浴びた。NHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」(16)や映画『スリリングな日常』(16)にも出演し、待機作は映画『キセキ -あの日のソビト-』(17公開予定)。

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