本屋さんと私

 時代小説と聞くと、どんなものを思い浮かべますか?
 その種類は数あれど、宮本武蔵や柳生十兵衛が出てくるようなチャンバラもの、江戸時代の与力や同心が活躍するミステリー・・・などを想像する方が多いのではないでしょうか。なにしろ「売れる時代小説」の条件は、「江戸市中が舞台であること、捕り物などミステリー要素があること、剣豪ものであること」なのだそう。
 そんな鉄則のあるなかで、同じ刃物でも刀ではなく包丁を、そしてひとを幸せにする料理を描き、大人気となったのが、時代小説作家・髙田郁さんです。

BOOKS通信

『銀二貫』髙田郁(幻冬舎文庫)

 そしてこの度、髙田郁さんの『銀二貫』(幻冬舎文庫)が、第一回Osaka Book One Project を受賞されました!
 ......Osaka Book One Project、ご存知でしょうか?

 Osaka Book One Projectとは、大阪の書店さんと問屋(取次会社)さんが垣根を越え、力を併せて「ほんまに読んでほしい本」を選び、大阪発のベストセラーを生み出そう! という企画。また収益の一部で、児童養護施設の子供たちに本を寄贈するというプロジェクトでもあります。今年からはじまったばかりですが、様々なところで話題をよんでいます。
 しかもなんとこの企画の立ち上げ人は、紀伊國屋書店梅田本店の百々典孝さん。そう、ミシマ社が創立時からお世話になり、ミシマガジンにも何度もご登場いただいているお方なのです!(過去のご登場記事はこちらこちら
 今回は百々さんにもご同席いただき、髙田郁さんにお話をおうかがいしました。

(聞き手:新谷有里、新居未希 構成:新谷有里)

第94回 大阪の本屋と問屋が選んだ、ほんまに読んでほしい本(髙田郁さん編)

2013.09.11更新


作家が本の関係で社会貢献できるなんて、最高ですよね。

――『銀二貫』、Osaka Book One Project第一回受賞おめでとうございます。

髙田ありがとうございます。わたしはこの受賞が本当にうれしいんです。大阪の書店さんや取次店さんが垣根を超えて『銀二貫』をおすすめしてくださるなんて、そんな取り組みは他にないですよね。この間も日販さんでサイン本を作らせていただいたときに、そこでサイン本を独占するのではなく、みなさんで分けあおうとしてくださって。たとえば、サイン本が届いたことのないような本屋さんにも行き渡るように、というふうな配慮もしていただいています。

――すこし百々さんにもお伺いしたいのですが、Osaka Book One Projectを始められたきっかけは何だったのでしょう。

百々そもそも僕は、地域経済の発展というものに興味があったんです。飲食業界なら、B級グルメのB-1グランプリとか盛り上がっていますよね。そういうのっていいなあと思っていて。「じゃあ本屋や出版なら何ができるかな」と。でも本屋さんができることは、地域経済の活性化ではなく、地域文化の活性化でしょう。それなら、街全体で本屋さんが一冊の本を売ることしかないだろう! とずっと考えていました。
 それでも大阪の本屋や、問屋(取次)さんがひとつにまとまるというのはやはり難しくて。なかなか形にはならなかったのですが、たくさんの出会いやご縁もあり、ようやく話が進んでいきました。

――『銀二貫』を拝読して、「これは大阪人、いや日本人みんな読まなあかんで!」とほんとうに思いました。

本屋さんと私

こんな帯がついています。見かけた方も多いのでは

百々そうでしょう。読まなあかんのですよ!(笑) 大阪の書店さんは、とくに「大阪人にこれを読んでほしい!」という気持ちが強くて。みなさんたくさん仕入れていますが、『銀二貫』を返本されるところは、まずないと思います。この「Osaka Book One Project受賞作品」という帯も、大阪・関西だけではなく全国で同じくこの帯なんです。幻冬舎さんも全国で広告を出されていますので、大阪がこんなことをやっているよということを多くの方に知ってもらえればと思っています。

髙田そうそう、全国紙で広告が出てから、友人からものすごくたくさん電話がかかってきました。みんな開口一番、「Osaka Book One Projectってなに?」と言う(笑)。こうこうこういう取り組みで『銀二貫』を一生懸命売ってくださって、その収益の一部で児童養護施設に本を送るのよ~と説明したら、「すごいやん、めっちゃいいやんそれ!」と、本当に多くの人に言われました。

――その、児童養護施設へ本を贈るということは、どのような経緯で決まったのですか。

百々はじめから、「収益の一部は大阪の社会貢献に」と考えていて。そのなかの案として、児童養護施設に「なにか」を送るというのがありました。「なにか」をどうするのか、車椅子とかもいろいろ考えたのですが......。

髙田そりゃあ、本ですよね。

――『銀二貫』というタイトルにもぴったりですよね。

百々そうでしょう。ダイアモンドを見つけた気分でした。

髙田こういう、社会貢献のお手伝いができることに選んでいただいたというのが、私はものすごく嬉しいです。いま電子書籍などいろいろ言われていて、この間の海文堂書店さんの閉店という悲しいニュースも聞きましたが、私は紙の本の文化をなんとか守っていきたいなと思っているんです。そのなかで、作家にできることはいい作品を書くことだけなんですが、それ以外にも何かできたらな、と思っていた矢先での受賞でした。
 あと今回、私も言われて初めて気がついたんですけれど、人々が送りたい本と、児童養護施設の子どもたちが欲しい本は必ずしも一致しないそうなんです。たとえば、贈る人はよく『スイミー』のようなものを贈りたがって、施設に『スイミー』ばっかりが増える、なんてことがあるそうで。でも参考書や受験用の赤本は、型の古いのを使っていたりする。

――なるほど。いわれてみれば、そんなことが起こりそうです。

髙田そうですよね。送りたいのは『スイミー』、でも欲しいのは参考書。これはちゃんと聞くまで、発想として気がつかなかったです。だから、「必要なところに必要なものを届ける」というこのプロジェクトを聞いたときは、嬉しかったんですね。
 作家が本の関係で社会貢献を手伝えるなんて最高ですよね。なので、このプロジェクトのためならなんでもするよって言っています。


それで私は、時代小説を書こうと思いました

――髙田さんは子どもの頃から読書好きだったとうかがいました。はじめて買った本のことは、覚えておられますか。

本屋さんと私

『ノコ星ノコくん』寺村輝夫/著、和田誠/絵(理論社)



本屋さんと私

『母のない子と子のない母と』壺井栄(小学館文庫)

髙田はじめて買った本は、『ノコ星ノコくん』(寺村輝夫/著、和田誠/絵、理論社)です。生まれてはじめて自分の意志でお金を払って買ったものだったので、とてもよく覚えています。最近、復刻版が発売されたと思いますよ。
 和田誠さんの絵で、とっても面白くて、バラバラになるまで読みました。基本的に、すごく気にいった本は何度も何度も読むから、バラバラになってしまうんです。
 はじめて買った文庫本は、壺井栄さんの『母のない子と子のない母と』。これもバッラバラになりました。いまでも古書店などでこの本が叩き売られていたりすると見過ごせないんです。「ああ、お前はこんなところにいるべき本じゃない! 私を呼んでる!」なんて思ってレスキューしちゃいます(笑)。

――レスキュー!(笑)

髙田だから、『母のない子と子のない母と』と『路傍の石』は家に売るほどあるんですよ(笑)。昔は塾の先生をやっていたので、レスキューした本は子どもたちにプレゼントできたんです。生徒たち、嬉しくなかったかもしれないですけど......。

――髙田さんにとって、強烈な読書体験があればお聞かせいただけますか。

髙田時代小説を書こうと思ったきっかけが、山本周五郎さんの『なんの花か薫る』でした。これは本当に、ありえないような体験をしました。父の蔵書にあったので子どもの頃に読んでいたはずなんですが、40半ばの頃に読みなおしたときに、ページの上に情景が立ち上がって、みどりという登場人物の「殺してやる!」という声が耳に届いたんです。そのとき、「ほんとに私はおかしくなってしまった!」と思いました。こんなに物語の中に入ってしまえるなんて、山本周五郎さんはすごい! と。それで、こういうものが書けるようになったらもう私は何もいらないと思って、時代小説を書こうと思いました。

――時代小説は、昔から読まれていらっしゃったんですか。

髙田はい、子供の頃からです。父親がとにかく本を読む人で、父の体は活字でできているんじゃないか、というくらいでした。だからその影響で、子どもの頃から、父の棚から手当たり次第に本を読んでいて。時代小説もそのなかのひとつでした。
 ただ、大人になってからの、『なんの花か薫る』の読書体験のようなことは後にも先にもなかったので、あれは出会うべくして出会ったんだなあという感じですね。


紙の本は、子どもたちの世界を広げてくれる

髙田一度私が、父が面白く読んでるのはこれなんだろうなあ~と思って、黒岩重吾さんを読んでいたんです。そしたら、父が真っ青な顔になって「子どもがこんなん読んだらあかん」と言って取り上げられまして(笑)、それでうちに『少年少女世界の名作文学全集全50巻』がきたんですよ。

――おお〜。

髙田あれは、一気に読んでしまいました。古今東西の物語があれもこれも入っていたので、おかげで幅広い物語を読めました。当時、あの全集を子どもに与える親は多かったんじゃないでしょうか。挿絵もすごくきれいで好きでしたし、あれもボッロボロです。接着剤で止めたりして。それに、『三国志』は綺麗だけど、『巌窟王』はボロボロだ、とかそういうので自分の本の好みもわかりましたね。
 本は、子どもの世界を広げてくれますよね。とくに紙の本だと、だんだんページ数が少なくなって、ああもうすぐ物語が終わってしまうんだ、という切なさなんかも味わいますし。あれは紙の媒体だからこそだと思います。





*時代小説を小さいときから読んでいたとは、驚きです! でもほんとうに、時代小説だからどうだということはなく、面白い本に年齢はなにも関係ないのかも。明日は、「刀ではなく包丁を使い、人を幸せにする料理」がたくさん出てくる、髙田先生の小説に迫ります!

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髙田郁(たかだ・かおる)

兵庫県宝塚市生まれ。中央大学法学部卒。
1993年、集英社レディスコミック誌『YOU』にて漫画原作者(ペンネーム:川富士立夏)としてデビュー。
2008年、小説家としてデビューする。著書に『銀二貫』(幻冬舎)、『あい 永遠に在り』、『みをつくし料理帖』シリーズ(ともに角川春樹事務所)などがある。

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