本屋さんと私

 時代小説と聞くと、どんなものを思い浮かべますか?
 その種類は数あれど、宮本武蔵や柳生十兵衛が出てくるようなチャンバラもの、江戸時代の与力や同心が活躍するミステリー・・・などを想像する方が多いのではないでしょうか。なにしろ「売れる時代小説」の条件は、「江戸市中が舞台であること、捕り物などミステリー要素があること、剣豪ものであること」なのだそう。
 そんな鉄則のあるなかで、同じ刃物でも刀ではなく包丁を、そしてひとを幸せにする料理を描き、大人気となったのが、時代小説作家・髙田郁さんです。

本屋さんと私

『銀二貫』髙田郁(幻冬舎文庫)

 そしてこの度、髙田郁さんの『銀二貫』(幻冬舎文庫)が、第一回Osaka Book One Project を受賞されました!
 ......Osaka Book One Project、ご存知でしょうか?

 Osaka Book One Projectとは、大阪の書店さんと問屋(取次会社)さんが垣根を越え、力を併せて「ほんまに読んで欲しい本」を選び、大阪発のベストセラーを生み出そう! という企画。また収益の一部で、児童養護施設の子供たちに本を寄贈するというプロジェクトでもあります。今年からはじまったばかりですが、様々なところで話題をよんでいます。
 しかもなんとこの企画の立ち上げ人は、紀伊國屋書店梅田本店の百々典孝さん。そう、ミシマ社が創立時からお世話になり、ミシマガジンにも何度もご登場いただいているお方なのです!(過去のご登場記事はこちらこちら
 2回目の今日は、本が大大すきな髙田先生に、「本屋さんと私」なお話をおうかがいしました!

(聞き手:新谷有里、新居未希 構成:新谷有里)

第95回 本屋さんになりたくて・・・

2013.09.12更新


どうしても気になったタイトル、『夫が多すぎて』

――むかし、本屋さんになりたかったそうですね。

髙田そうなんです! 私、本屋さんが本当に好きで、本屋さんで棚卸のバイトまでしたことがあるんです。神戸の海文堂書店さんで。

――へえー! 海文堂書店さんで!

髙田海文堂書店さん、本当に好きでね。小さいころ、両親がすぐ近くで勤めていたこともあってとても思い入れのある本屋さんなんです。だから、この前閉店になるということを聞いて、もう眠れないくらいショックでした。
(編集部注*神戸にある海文堂書店さんは、残念ながら9月末に閉店されます。詳しくはこちら

――棚卸はなかなかの肉体労働だと思うのですが。

本屋さんと私

『夫が多すぎて』モーム(岩波文庫)

髙田いやあ、これが私にとっては、とても面白かったです。とにかくむかしから、本屋さんで棚を見るのが好きなので。棚卸のときも本当はそんな暇はないはずなんですけれど、棚卸をしながら本の題名を見ていたら、ふとすごく気になるタイトルの本に出会ったりするんですね。『月と六ペンス』を書いたサマセット・モームの『夫が多すぎて』とかね。『夫が多すぎて』ですよ。気になりませんか?(笑)

――すっごく気になります(笑)。

髙田気になるでしょう! めくって見てみると原題も『too many husbands』なの(笑)。バイトが終わってからもずっと気になって気になって。どんな本なんだろうってとずーっと思っていて、それからはそのストーリーを自分の中でずっと妄想するわけです。だって、夫が多すぎるんですから(笑)。
 一週間後には、海文堂で買っていましたね。妄想した内容とは違いましたが、すごく面白い戯曲でした。

――むかしから、本屋さんが本当にお好きだったんですね。

本屋さんと私

『今朝の春』髙田郁(角川春樹事務所)

髙田むかしは、今よりもっと小さな本屋さんがたくさんありました。私が子どもの頃の昭和40年頃って、本屋さんが全盛期だったのかな? 子どもの足で歩いても、街に5、6軒あって、月に一回お小遣いで買う貴重な一冊を選ぶために、毎日毎日本屋さんを回って、棚を見ていました。でも、私が子どもの頃に通った本屋さんが今はもう一軒もなくなってしまって。それはすごく残念ですよね。どこでこの本を買ったとか、どういう人が店番していたとか覚えていますし、自分にとって、その記憶は宝物です。
 いまも取材のためにどこかに行くと必ず本屋さんに立ち寄って、何かしら買うようにしています。一度『今朝の春』を書くときに、とんぶりの取材のために秋田に行ったのですが、そのときにたまたま母を連れて行ったんです。そこで、小さな本屋さんなのになぜか『想い雲』が全盛期の赤福のような売られ方をしていて...! それを見て、うちの母が涙ぐんでいました。


書店員さんの働く姿、あと社員食堂が大好きです。

――本屋さんで、ご自身の作品を見たりはされますか?

髙田見ないです...。手にとっている人をもし見かけたら、柱の影から「買ってください〜」って言う光線は送りますけども(笑)。気が弱いから絶対話しかけられないです。いまは親しい書店員さんも増えたんですが、書店員さんにも基本的には話しかけられないんです。ただ、とにかく書店員さんの働いている姿を見るのは好きです。だから、サイン会をするときに、書店さんの制服とかエプロンとか着させていただいたりもして。

――ええ!?

髙田今までいろんな本屋さんのイベントで、たくさんの書店員さんのエプロン、着させていただいたんです。制服着て、「今からサイン会します!」なんて言うんですけど、誰も信じてくれなくてね。「ここにあったニーチェどこ?」とかお客さんに聞かれたりして(笑)。本当に書店員さんの働く姿が好きなんですよ。
 あと、関係ないかもしれませんが、わたし社員食堂がすごく好きなんです。実は、とても変わってると言われるのですけども、(本の)取次会社さんのひと月のメニューを送ってもらってるんですよ!

――へ!?

髙田取次会社さんのね、「7月の献立」みたいな、社員食堂のメニューを。

――もらって、何をなさるんですか?

髙田(メニューに)ラインマーカー引いて、「行くとしたらこの日かなあ♪」みたいなことを考えたり......(笑)。社員食堂っていいんです。とても好きなのです。ABCラジオに出させていただくときなんて、ギャラは社員食堂のごはんなんですよ。

――え!? そ...それはお安いのでは...!

髙田いやいや、自ら望んで「社員食堂でご飯がいい」って言ったの。それで私が出た次の日のOAで、私が何を食べたのか公表されちゃっています。「髙田郁さん、昨日は豚の生姜焼き食べてました!」というふうに(笑)。


*髙田先生、ほんっとうに本と本屋さん、そして社員食堂(!?)がお好きなんですね・・・!
 さてさて最終日の明日は、髙田さんの小説について迫ります。

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髙田郁(たかだ・かおる)

兵庫県宝塚市生まれ。中央大学法学部卒。
1993年、集英社レディスコミック誌『YOU』にて漫画原作者(ペンネーム:川富士立夏)としてデビュー。
2008年、小説家としてデビューする。著書に『銀二貫』(幻冬舎)、『あい 永遠に在り』、『みをつくし料理帖』シリーズ(ともに角川春樹事務所)などがある。

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