本屋さんと私

 時代小説と聞くと、どんなものを思い浮かべますか?
 その種類は数あれど、宮本武蔵や柳生十兵衛が出てくるようなチャンバラもの、江戸時代の与力や同心が活躍するミステリー・・・などを想像する方が多いのではないでしょうか。なにしろ「売れる時代小説」の条件は、「江戸市中が舞台であること、捕り物などミステリー要素があること、剣豪ものであること」なのだそう。
 そんな鉄則のあるなかで、同じ刃物でも刀ではなく包丁を、そしてひとを幸せにする料理を描き、大人気となったのが、時代小説作家・髙田郁さんです。

BOOKS通信

『銀二貫』髙田郁(幻冬舎文庫)

 そしてこの度、髙田郁さんの『銀二貫』(幻冬舎文庫)が、第一回Osaka Book One Project を受賞されました!
 ......Osaka Book One Project、ご存知でしょうか?

 Osaka Book One Projectとは、大阪の書店さんと問屋(取次会社)さんが垣根を越え、力を併せて「ほんまに読んで欲しい本」を選び、大阪発のベストセラーを生み出そう! という企画。また収益の一部で、児童養護施設の子供たちに本を寄贈するというプロジェクトでもあります。今年からはじまったばかりですが、様々なところで話題をよんでいます。
 しかもなんとこの企画の立ち上げ人は、紀伊國屋書店梅田本店の百々典孝さん。そう、ミシマ社が創立時からお世話になり、ミシマガジンにも何度もご登場いただいているお方なのです!(過去のご登場記事はこちらこちら

 最終回の今日は、髙田先生の小説についてお話をうかがいました。あの作品の裏側には、そんなお話が隠れていたんですね・・・! 

(聞き手:新谷有里、新居未希 構成:新谷有里)

第96回 ご縁を大事に、仕事をしていきたい

2013.09.13更新


作品のためには全部やります

――髙田先生のご著書はなんといっても、たくさんのお料理が出てくるところが特徴だと思いますが、読んでいると、毎日ご飯をしっかり食べないと、という気になります。

髙田そうよ。ご飯は食べなきゃだめですよ。とにかくそうめんでもいいから、食べ物はちゃんと食べたほうがいい。

――小説に出てくるお料理は、ご自身ですべて作っていらっしゃるとおうかがいしたのですが。

髙田はい、作っています。『銀二貫』の羊羹プロジェクトは本当に大変でした。何回も何回も分離しちゃって。「そうか、こしあん使ったら、アカンのや」 って気づいたり。

――あ、小説に出てくるあれは、ご自身の体験からなんですね!

髙田あんこ作りも、いっぱいやりました。もうね、大きい声では言えないけど、あんこ、一生いいです(笑)。

――(笑)

本屋さんと私

『花散らしの雨』髙田郁(角川春樹事務所)

髙田「忍び瓜」(みをつくし料理帖シリーズ『花散らしの雨』収録)のときも、朝昼晩3週間キュウリだったのでそのときすごく痩せてしまって、装丁家の多田さんに「めっちゃ仕事きついんちゃう......?」と心配されたんですが、「めっちゃキツイです。違う意味で」という気分でした(笑)。
 『銀二貫』で、松吉が焚き付けられて、天神橋のタモトまで行って順慶町の団子屋さんまで行く、あのルート。私、実際に走ったんですよ。真冬に。

――ええ~! 走ったんですか!?

髙田うん。走りました。で、その後、愛しい人を抱きしめるとかちょっと無理かなって思いました。心臓が破れそうになって(笑)。

――あの一瞬のシーンを書くのに、実際に走られるんですね。

髙田一応全部やりますよ。アホかもしれないですけれど、いろんなことをしています。


厨房と図書館のお引越し

――お料理は、むかしからお好きだったのでしょうか?

髙田いいえ、そんなことはけっしてないです。母がとても料理の上手な人で、私がつくるよりはるかにうまかったので。でも、作品のためには全部作ります。私、去年家を引っ越したんですが、そのときに引越し業者さんから言われた言葉が面白くて。その人うちのこと、「厨房と図書館の引っ越し」って言ったんです。

――「厨房と図書館の引越し」! 

髙田ほとんど調理道具と本で、ダンボール250個。

―― 250個!

髙田ホーコー鍋とかおっきい蒸籠とか個人でなかなか所有しないようなものもたくさんあるので、まるで業者です。
 それから新しく家をつくるときも、今度は設計士の人が「みをつくし」を全部読んで図面を引いてくださったんです。「あの本を書くには、ものを干せるベランダが必要だ!」とか言ってすべて作ってくださって。そのおかげで、ベランダがすごく広くなったり、ぱっとひらけると包丁が13本並ぶような引き出しがあったり。それで一度、ベランダにイカを干したら、住宅街なのに周りが漁村みたいになってしまって。

――(笑)

髙田いったいどこからこんなに銀蝿が!? と(笑)。なのでイカは、さすがに近所迷惑になるのでやめました。
 でも、みりん干しはすごくいい匂いがするんですよ。周りの歩いている人たちも「うわ~いいにおーい」なんて言いながら歩いたりしていて。それで調子に乗って、いわしのみりん干しの才能は誰にも負けない! もうこれは売れるぞ~! なんて思ってハッと、「いやいや私小説書くためにやってたんや」と気づく、みたいな。

――いやほんと、すごいです。

髙田生麩も、1キロの小麦粉で9回作って腱鞘炎になってしまったことがあって。お医者さんに「作家だもんね~職業病だね~」なんて言われたのですが、うん、ある意味でねって(笑)。
 小心者で凝り性なので、ついそうしてしまうんです。


縁を結んだ人と大切に仕事をしていきたい

髙田私は、出版の世界でも作家でも、「人を育てる」ということがどこにいっても重要だと思うんです。私は作家として、角川春樹事務所に育ててもらったと思っています。春樹事務所がすごいなと思ったのは、社長自ら私のゲラを抱えて、この小説を読んでくれと札幌の紀伊国屋の店長にわざわざお願いして下さっていたんだそうです。私はこのことをあとで知るんですが。

――社長自ら、動いてくださったんですね。

本屋さんと私

『あい 永遠に在り』髙田郁(角川春樹事務所)

髙田そうなんです。「みをつくし」もこれだけ売れたら、もっと(シリーズを)引き伸ばしてたくさん書け書けって言うと思うのですが、そういうことも一切おっしゃらない。
 「はじめに君が決めたままでいい」と。
 私は不器用なので、(作品を)並行で書くということができないのですが、私が『あい』という小説を書きたいといったときも、「じゃあみをつくしを休んでいい」とすぐにおっしゃってくださって。そんなふうに、作家としての私をすごく大事に育ててくださっているんですね。

――それは、本当に素晴らしいです。

髙田でも多くの出版社は、ちょっと売れたらみんなで引っ張って取り合いにして書かせるでしょう。そうやっていたら、いつか潰れてしまう。やっぱり、水をやって日にあてて肥料をやって育てるというのが大事だと思います。売れたから書かせるというのは、少し違うのではないかな、と。それなら、他の作家さんにもチャンスを与えてあげてほしい、と私なんかは思うのです。
 全然自分が陽の目を見なかった時代、「書いてください」と言われたとき、嬉しかった。そこから何が大事かって、作品の質を落とさないことだと思うんですね。それをするためには、自分のペースを守ること。だから、無理をしないということはしています。
 あと、報いたいですね、ちゃんと育ててくれた出版社に。うん、報いたいです。

――作家として、出版社に報いる、と。

髙田ご縁を大事にしたいんですね。そういう姿勢で仕事を続けたいんです。出版社だけでなく、取次会社さんや書店さんとも。最初に営業でトーハンに行ったときに、そのフロアにいた人たちがみんな立ち上がってくれたの。ものすごい嬉しかったです。雲外蒼天とは私のためにあるのか、と思いました。
 そこから書店さんともつながることを覚えて、大事な書店員さんの友達がとっても増えて。
 縁を結んだ人とは、いまでもずっとつながっていたいので、書店員をやめた方とも、いまでもご飯に行ったりもしています。大事な人とのつながりは、ずっと大事にしていきたいなといつも思っています。影になり、日向になり、応援して下さっているので、それはいつもありがたいから、いつもどうやって恩返しをしたらいいかなと思っているんですが、それは作品の質を落とさないこと、いい作品を書き続けることかなと思っています。





*髙田郁さんの小説を読むと、いつも背筋がしゃんと伸び、がんばって生きていこうという気持ちが芽生えるとともに、とてもやさしい気持ちになります。髙田郁さんご本人も、ほんとうに楽しくて素敵な方で、ますますファンになってしまったミシマ社一同でした。
 髙田郁さん、Osaka Book One Project仕掛け人の百々典孝さん、ほんとうにありがとうございました!

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髙田郁(たかだ・かおる)

兵庫県宝塚市生まれ。中央大学法学部卒。
1993年、集英社レディスコミック誌『YOU』にて漫画原作者(ペンネーム:川富士立夏)としてデビュー。
2008年、小説家としてデビューする。著書に『銀二貫』(幻冬舎)、『あい 永遠に在り』、『みをつくし料理帖』シリーズ(ともに角川春樹事務所)などがある。

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