本屋さんと私

 「8コマ漫画」という独自のスタイルを築き、ゆるやかなテンポと思わずくすりと笑ってしまうオチ、読んだあとは思わずほっこりしてしまうギャグ漫画の名手・木下晋也さん。
 『ポテン生活(全10巻)』『つくりばなし』、自身の子育て経験を描いた『おやおやこども。』など、やさしい視点のボケ・ツッコミに頬がゆるむ作品を多く手がけられています。

 そんなやわらかな雰囲気をお人柄からも醸し出す漫画家・木下晋也さんに、ギャグ漫画の作り方や本屋さんのこと、たくさんお話を伺いました。

(構成・写真:新居未希)


第193回 ずっと、笑いに関する仕事につきたかった(木下晋也さん編)

2017.04.24更新


木下晋也さんの名作漫画! 『ポテン生活』(モーニングKC)より


ビジネス書の挿絵、はじめて書きました

―― 木下さんには、2017年1月からインプレスとはじめたレーベル「しごとのわ」の第1弾の、神吉直人さんの本『小さな会社でぼくは育つ』にイラストを描いていただいたんですよね。「この本には、木下晋也さんしかいない!」とデザイナーさんと白熱しまして......。ものすごく、評判が良いです。本当にありがとうございます!

『小さな会社でぼくは育つ』神吉直人(インプレス)


木下ビジネス書の挿絵を描くのは今回が初めてでした。ぼく、ビジネス書は正直に言ってあんまり読まないんです。でも読んだことないなりに、「○○とは××である」と書き手が言い切る言葉を読み手が読んで、教訓めいたものを教えてもらうというイメージを持ってました。けど、今回の本は、それとは少しイメージが違ってましたね。

―― おお、それはどのような...?

木下『小さな会社で僕は育つ』は、神吉さんが僕ら目線に立って話してくださっているのを、「へ〜、なるほどなぁ」と聞いてる感じがありました。やさしい感じというか。

―― うれしいです。木下さんは、会社で働かれたご経験は?

木下それが、ないんです。

―― 大学時代は大阪芸大で学ばれていて、放送作家になりたいと思われていたそうですね。

木下お笑いが昔からすごく好きだったんです。でも、自分は表に出るタイプではなさそうだな、という感覚がありました。そこで、放送作家だったら芸人さんと一緒に仕事ができるし、裏方の仕事をやれるということを知りました。でも、そういう道にどうやって進めばいいのかわからなかった。そんなとき、兄の友人に大阪芸大の放送作家に入ったという人がいて、「あっ、そういうやり方があるんだ」と知って、僕も芸大に進学を決めたんです。

―― なるほど。じゃあずっと、お笑い関係の仕事をしたいと思われてたんですね。

木下そうですね。お笑いはずっと、いまでも好きです。


とりあえず上京してから考えた

―― どの段階で、漫画家という選択肢が生まれたんですか?

木下そうですよね、大学のときは放送作家になりたいと思ってたんですもんね。でも大学にいるあいだに、それは無理だなというか、「違うな」という感覚が出てきたんです。
 じゃあ何をするかといって、とくにピンとくるものもないまま、卒業後にとりあえず上京だけしちゃったんです。上京して、東京でバイトをしながら「何しようかなぁ」と考えてました。小学生のときに、自分が描いた漫画を読んだ友だちが笑ってくれたという、小さな成功体験みたいなものがあったのが記憶にのこっていて、「笑いはやりたい」「そのためには、漫画というやり方が自分にはあっているのかもしれないな」と思いました。そこからボツボツと描きはじめて、新人賞に応募したり、持ち込みをしたりしはじめた、という感じですかね。

―― 会社員になろうという選択肢は、はじめからなかった?

木下会社員はほとんど考えてなかったです。一応大学生のときに、就職活動でバンダイとか任天堂とかの超大手を、とりあえず受けるだけ受けるみたいなことはしたんですけど、どこまで本気でやってたかと言われると、まぁ微妙です。
 漫画で芽が出ないとなったら考えてたかもしれないんですけど、「それはまだだいぶ先の話だろうな」と思っていました。

―― 悲観さがなかったということですよね。それってすごく、木下さんの漫画を読んでいても言えることというか、「この先どうしよう」という悲壮な感じがまったくないです。たとえば、育児漫画『おやおやこども。』でも、木下さん、全然お子さんを怒ってないですよね。

木下あはは、はい、そうですね(笑)。

―― それは昔から、全然怒らない性格だったんですか?

木下そうですね......ぼく自身、怒られるのがなによりも嫌いなんです。なので自分も怒らない人間になっちゃいましたね。怒れないんです。思わず怒っちゃうみたいなことができないんです。
 なんだろうなぁ、たとえばぼく、5歳の息子によくちょっかいをかけられるんですよ。基本的になめられてるんで(笑)。仕事をしてるときにちょっかいを出しに来たりするんですけど、「コラー!」とか言えないですね。「ちょっともぉ〜...」「もういい、もういい」みたいな(笑)。

―― わはは(笑)。

木下そんな感じになっちゃいますね。でも本人も悪いことをやってる自覚はある。本当に困るようなことはやってこないので、そんな叱りつけるほどのことでもないな、と思ってます。


流されて、意外とうまくいけた

―― 決めつけないし、「あっ、そういう意見があるんだ」と受け入れる姿勢のようなものが感じられて。そう、スッと受け入れるというのはけっこう難しいところなのかなぁというふうに思っているんですけど、木下さんはあまりにも自然にやっておられるので......

木下基本的には「なにも考えていない」ということがあると思うんですけど(笑)。ぼく自身、けっこう流されてきたことが多い気がしているんです。それでこれまで意外とうまくいけた、という感覚があるので、「自分の意見を持たなきゃ」と思わないままできちゃっているところがあるんですね。

―― なるほど。

木下他人に言われたことを、はじめはちょっと抵抗ありながらもやっていって、慣れてきたら「それでよかったのかな」と後で思えたりするというのが多いので。まぁいいのかなと。

―― たとえばですけど、就職活動のときって自己アピールをしないといけないですよね。「自分の自分らしさとはなにか」ということを、自分のなかで言葉にしないといけない感じがある。でもそんなに気負わなくても、普通に生きていけるわけで。

木下そうですよね。でも子どもには、自分の意見が言えるように育てたほうがいいのかなぁ、と思わないこともないですけどね。この父親なので、うまく反面教師にしてもらえるといいかなくらいに思ってます。この親父のようになってはいけないぞと(笑)。


(つづきます)

   

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木下晋也(きのした・しんや)

1980年大阪生まれ。2006年、「Comic ギャグダ」(東京漫画社)にて『ユルくん』でデビュー。2008年、『ポテン生活』で第23回MANGA OPEN大賞受賞。単行本『ポテン生活』全10巻、『もここー』全2巻、『おやおやこども』などが好評発売中。Docomoエンタメウィークで『マコとマコト』など連載中。趣味はプロレス観戦。Twitter @kinoshitasinya

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