ホんまかいな通信

第5回 HHH座のHな通信

2016.05.10更新

 Kはコンビニや駅の売店で週刊誌の表紙のグラビア写真を見かける度に、特にそれが筧美和子だったりするとつくづく「あぁ、こういう写真を撮るのが仕事のカメラマンになりたかったなあ」と思うのだが、まさか自分がそのような大人の男になろうとは思ってもみなかったのでしかたがなかった。
 ホホホ座で絵やデザインを担当している座員のHと私は同じジムに通っている。私の場合は火曜日と木曜日、わりとヘラヘラしながら身体がなまらない程度に鍛えに通っているだけだがHは違う。彼女は銀色のレオタード姿でサンドバッグを総合スタイルで苛烈に打撃している。タイムスケジュール上、私がジムに到着する頃には、Hは必ずそういうことをしている。試合に出るのかな?と思いながらサンドバッグを終えたHに挨拶すると、気さくに応じてくれたが邪魔されたくない様子であったのでそれ以来、ジムで言葉を交わすことはなくなった。Hのレオタードの胸のところには「揚子江」とプリントされいて、そういう製品なのか何かのチームのオリジナルプリントなのかわからなかったが、私は大阪の梅田にある揚子江ラーメンを思い出した。1990年代に揚子江ラーメンは激化する豚骨ブーム圧を耐え忍んでようやっと営業し続けている、ふうに見えた。どこのラーメン屋も流行っていたが、揚子江ラーメンだけは中華の別モノとしてラーメン屋とも認知されていなかったのか、いつ見ても店内はガラガラだった。時代はめぐって「澄んだスープのやさしいラーメン」ブームもやってきた。豚骨ラーメン屋は数々入れ替わったが、揚子江ラーメンは今でも営業している。創業は昭和39年、梅田の繁華街にあって50年以上も存続しているのだからすごい。Hの胸の「揚子江」の文字に触発され、私は揚子江ラーメンを食べに行きたくなった。しかし当然、Hが揚子江ラーメンと関係している可能性は低い。関係するのなら直接、川の方とだろう。

 ところでホホホ座の座長のYの著書「ガケ書房の頃」はもうお読みになられたでしょうか?私はもちろんすぐに立ち読みして、感激のあまりに著者に電子ファンレターを差し出した次第であります。私は、本の冒頭部分、ガケ書房が始まるまでの青春期、に至るまでの少年時代から高校卒業直後に家出するまでの20ページほどを読んでいて笑いが止まりませんでした。外から見たらニヤニヤしてる程度に見えたでしょうが、内心では爆笑です。笑い過ぎて先が読めなかったくらいです。ちなみにここで言う笑いはテンションが上がりきったついでに現象するお漏らしのようなものであります。ほんとうに、あんなに漏らしたのは久しぶりでした。Yが生まれて初めて買ったタバコの、間違って火をつける方をくわえながらラーメン屋で女の子をナンパしようとするあたりで私はフランソワ・トリュフォーという昔のフランスの映画監督の作品に出てくるアントワーヌ・ドワネルのことを思い出していました。
 「ガケ書房の頃」の発売は4月1日、その日は店の方のホホホ座の1周年記念のパーティもおこなわれていて、私も仕事を終えてから花束を持ってホホホ座へ駆けつけました。午後10時を過ぎているのに店は多くのドレッシーな人々でごった返していました。作家のいしいしんじさんや、犬や子供もいました。2Fのホホホ座のMさんも嬉しそうです。Mさん、1周年、おめでとうございます、どうですか、お仕事の方は?と声をかけますと、最近、おき太くんの中に入るのが週2になってちょっとキツいけど調子いいよ、と朗らかに笑っていらっしゃる。Yさん、おめでとうございます、と言って花束を渡すと、「加地くんにも、おめでとう」と言い返されて小松菜奈ちゃんの写真集をいただきました。器の大きな、立派な先輩方だなあ、と感心しながらさっそく写真集のビニール包装を破いているとそこへ、Hちゃんがやって来ました。Hちゃんはスーツでキメキメの私たちとは対照的なジャージ姿で、大きなスポーツバッグを肩がけにしていて、どうやらジム帰りのようでした。MさんがHちゃんに声をかけ、仕事のような話をし始めると、ほどなくYさんも加わり三人で話しはじめました。私は小松菜奈ちゃんの写真集を1ページずつ、慎重に、眺めていきました。ほとんど読書です。全部を眺めるのに30分はかかりそうです。半分眺めたところで本から目を離すと、ホホホ座のYとMとHは別々に離れて誰かと話したり歩いて移動したりしていました。Hは店内の混雑を縫って帰ろうとしているようです。その時、見知りの者と挨拶をかわしながら外へ向かってゆくHを見送っていて私は気がついたのです。Hが肩がけにしているスポーツバッグには「NIKE」みたいな感じで「揚子江」の文字のロゴがついているのでした。「揚子江」は何かのチームだったのです!私はHの後を追いかけました。Hちゃん、お疲れさま。もう帰るん?あー、お疲れさまです。そう、ちょっと用事があって、顔だけ出しに寄ったんですよー。あぁ、そうなん、ところでその、揚子江ってやつ、なんかのチームなん?あぁ、これはー、大阪の梅田に揚子江ラーメンっていうラーメン屋あるの......知ってます?とHが言いいました。知ってるけど!まさかラーメンの方だったとは!それから私はHである早川宏美と揚子江ラーメンとの思いもよらなかった深い関わりについて知ることとなったのです。そのことをYである山下賢二、Mである松本伸哉は知りません。Kである私だけが、知っているのです。

イラスト:よこづな文庫

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加地猛かじ・たけし

ホホホ座座員。本業は100000tアローントコ店主。

京都市役所の横でレコードと古本を売り買いしている。42歳。太ったり痩せたり太ったり。だいたいだらしなく太っています。申し訳ない。

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