今を歩く

第4回 John Dove and Molly White(ジョン・ドーヴ & モーリー・ホワイト)

2016.05.05更新

 ジョン・ドーヴ (John Dove)とモーリー・ホワイト(Molly White)というユニークな夫婦達について話す前に、最近流れたロンドンのニュースを紹介したいと思う。
 約1カ月程前だが、ジョセフ・コー(Joseph Corré)という人物がイギリスの"PUNK"を象徴する60年代からの服やレコードなどの歴史的コレクションを燃やす計画を発表した。
 ファッションや音楽が好きな人間にとってはまさに喉から手が出る程のコレクションである。そのコレクションの価値は約8億円相当の価値があるとされており、このニュースは大手メディア『ザ・ガーディアン(the guardian)』にも取り上げられ大きな話題となっていた。 
 2016年はザ・セックス・ピストルズ(The Sex Pistols)の『Anarchy In The U.K』の発表から40周年を迎える記念の年であり、イギリス国内では「パンク・カルチャー」を取り上げる様々なイベントが計画されている。この一連のイベントに対し、エリザベス女王をはじめ、ロンドン市長ボリス・ジョンソン(Borris Johson)など、所謂「支配層」の人間達が支持を表明したという事実がどうもジョセフ・コーの行動を誘発したらしい。
  
 時代を振り返ると"PUNK"は元々、労働者階級の若者達の中から生まれた。社会のレールから脱線したつまはじき者や、そもそも望んだとしてもレールの上に乗ることさえ難しい環境にいる若者達が、支配階級にそして現状に対して反抗を表明する社会現象だった。
 しかしながら皮肉なことに時代を経て、反体制/反主流派の象徴であったはずの"PUNK"は世界中にファンを獲得し、今やPUNKにとって元来攻撃対象であるはずの王室や社会の支配層からも受け入れられ、「イギリス文化」の主流の1つとして認められるまでになってしまった。
 その事実がジョセフ・コーをはじめとする原理主義者達にとっては気に食わないのだ。「そんな連中に認められて博物館行きになるくらいなら燃やしてしまったほうがいい」というのが彼の言い分である。垂涎モノのコレクターグッズを一気に燃やしてしまうという彼の計画と主張は賛否両論を巻き起こしているが、その態度についてはわからなくもない気がする。
 ちなみにパンクの仕掛け人と言われているマルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren)とヴィヴィアン・ウェストウッド(Vivienne Westwood)の名前は知っている人も多いはずだが、実はこのジョセフ・コーという人物は二人の間に生まれた息子である。

 過激な言葉や写真がプリントされたTシャツは、今では誰もがストリートで見慣れているかもしれないが、実はプリントTシャツというアイテムがストリートで流行するきっかけとなった1つがパンク・ムーヴメントと言われている。
 
 パンク・カルチャーの創始者とされているマルコムとヴィヴィアンに強い影響を与えてきたのが今回紹介するジョン・ドーヴとモーリー・ホワイトだ。
 当時のTシャツと言えば、企業ロゴや広告がプリントされたものが主流だったが、彼らはシルクスクリーンでアートワークをTシャツの上にプリントし、自己主張を身に付けるためのアイテムへと発明しなおした。これによりファッションの潮流が少しずつ変わっていった。

T-shirts by John Dove and Molly White. Photo by Harri Peccinotti. From "The T-Shirt Book" by Alice Hiller and John Gordon, Ebury Press, London 1988.
ジョンとモーリーが制作した初期のプリントTシャツ達。


 1960年代に彼らが制作を始めたファッション・アイテムは、ロンドンの若者やミュージシャンの間で噂を集め、まだ有名になる前のイギー・ポップ(Iggy Pop)やポール・マッカートニー(Paul McCartney) などが顧客として買い集めていた。
 今では彼らの過去の作品のほとんどが博物館行きになってしまったが、70年代までに制作された彼らの作品は、パンクの象徴に上り詰めたヴィヴィアン・ウェストウッドの大きなインスピレーションとなり、それと共に「パンク・ファッション」の概念が徐々に確立されていく。あまり表立って話されてはいないが、マルコムとヴィヴィアンがオープンした「SEX」という伝説的なブティックの名前とコンセプトもジョンとモーリーとの交流の中で生まれたもののようだ。

"LIPS" T-shirt by John Dove and Molly White (1973)From White Dove archive


Breat T-shirt by John Dove and Molly White (1969) From White Dove archive from the book "Seventies Style" Thames & Hudson. 2009. by Dominic Lutyens and Kirsty Hislop.
マルコムとヴィヴィアンによる『Seditionaries』でもこのプリントのアイディアが用いられている。


 ジョンとモーリーに出会ったのは2012年の冬だった。
 バイク好きならおそらく誰でも知っている、ライダースジャケットで有名なルイスレザーの代表デレク・ハリス(Derek Harris)に誘われて、ロンドン滞在中の晴れた日の午後、大英博物館の前にひっそりと佇むポール・ストルパー(Paul Stolper Gallery)に向かった。
 白壁のギャラリーの室内で、ダミアン・ハースト(Damien Hirst)の骸骨がプリントされたシルクスクリーンを背景に、黒革のライダースジャケットを身に纏い「どしっ」と椅子に構えていた二人がジョンとモーリーだった。既に70歳を超えているようだったが、何処かティーンエージャーのような、いたずら好きの雰囲気を漂わせているのが記憶に残っている。
 
 彼らからは一時間ほど色々な進行中のプロジェクトについて聞かせてもらったのだが、その中でも興味をひいたのがイギー・ポップとの交友についてのものだった。 
 イギー・ポップが「The Stooges」時代に発表したアルバム『Raw Power』が2013年に40周年を迎える記念として、当時イギーがライブで着用した、ジョンとモーリーによってデザインされたジャケットを復刻する計画があるとのことだった。イギーは70年代に金銭的に困窮し、その気に入っていたジャケットを手放してしまったらしいのだが、40周年を迎える彼に新しいジャケットをプレゼントするという粋な計画であった。

 彼らの話すロンドンの昔話を聞いているうちに、知らず知らずのうちに私もその計画に関わることになるのだが、一緒に仕事をした結果「パンク」に対するイメージが随分と変わった。

"Raw Power" Scrap Book(1973)Photo by Mick Rock and Ruby Ray 
イギー・ポップが着ている豹の頭がプリントされたジャケットはイギー自身が430 Kings Roadにあった"Paradise Garage"にて手に入れたものらしい。(現在その場所はヴィヴィアン・ウェストウッドの旗艦店であるWorlds Endになっている)


Original drawing by John Dove and Molly White (1970) Collection Damien Hirst
ジャケットの背面プリントのオリジナルドローイング。アーティストのダミアン・ハーストはジョンとモーリーの作品を多数コレクションしている。


 イギー・ポップやデヴィッド・ボウイ、マルコム・マクラーレンにシド・ヴィシャス。私が生まれる前から既に伝説となっていた彼らの存在は遥か彼方にあり、実体の無い存在だったが、共に時代を創造してきたジョンとモーリーを見ていると少しだけだが、当時の様子が等身大で見えてくる。 

 プロジェクトが完了した後も、彼らは未だに何かアイディアを思いつくたびに、Adobeのソフトウェアを駆使して、「ユースケ、こんなのはどうだ」とウィット溢れる(時にあまりに過激すぎる)、新作のイラストレーションやアートワークを添付したメールを定期的に送ってくる。70歳を超えながら、常識に囚われず、アイディアが尽きないハードワーカー。世間の潮流に抗い、アイディアと身一つで社会に居場所を力業で作り出してきた、そんな彼らの姿と態度の中にパンクの存在を確認した。

 アイディアがとめどなく溢れ続けるジョンとモーリーは、時に猛獣のようでなかなか大変な共同作業になったのだが、イギー・ポップには無事ジャケットやTシャツなどを渡すことができた。記念ライブには残念ながら私は参加がかなわなかったが、後日思いがけないサプライズが起きた。イギー本人から御礼の手紙が届いたのだ。
 このような古き良き時代の義理堅さを忘れないでいるのも、彼らの時代特有のパンクな姿勢なのかもしれない。

 そのプロジェクトから3年が経ち、再び縁があり、猛獣のジョンとモーリーと新しいプロジェクトを現在準備中である。ポール・マッカートニーが『Strawberry Fields Forever』のライブで着用したジョンとモーリーのジャケットを、彼らのアート作品として今年の6月に復刻予定なのだ。

 いつも仕事の楽しみは今を歩く人達との出会いにある。


ジョン・ドーヴ & モーリー・ホワイト(John Dove & Molly White)

JOHN DOVE AND MOLLY WHITE
1960年頃からイギリスで活動しているアーティスト・デザイナー。80年代頃までファッションデザイナー、テキスタイルデザイナーとして活動。現在はロンドン北東部にあるノーフォーク(Norfolk)にてコンテンポラリー・アーティストとして精力的に制作を続けている。ロンドン・パンクカルチャーの生き証人。アーティストのダミアン・ハースト(Damien Hirst)が彼らの作品の熱心なコレクターとして知られている。

WONDER WORKSHOP
ジョンとモーリーのアーカイヴ・ウェブサイト。過去様々な作品群の歴史が紹介されている。ほとんどの商品がコレクターズアイテムになっており高額で取引されている。

PAUL STOLPER GALLERY
31 MUSEUM STREET LONDON WC1A 1LH

ジョン・ドーヴ&モーリー・ホワイトが所属するコンテンポラリーアートギャラリー。彼らの友人であるダミアン・ハースト(Damien Hirst)や、ビートルズのアートワークで有名なピーター・ブレイク卿(Sir Peter Blake)、パンク・ムーヴメントで有名なジェイミー・リード(Jamie Reid)などを取り扱っている。現在、5月28日までブライアン・イーノ(Brian Eno)の作品を展示中だ。

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小石祐介(こいし・ゆうすけ)

青森県三沢市出身。2014年までコム デ ギャルソンにて国内・海外の企画運営等に携わる。
独立後は、組織の枠組みを超えてデザイナーやアーティストなどと共に企画を立ち上げ展開する企画プラットフォームのNOAVENUEの代表を務めながら、執筆、ブランドのコンサルティング、FREE MAGAZINEの企画にも携わる。趣味は数学書を読むことと、日本で紹介されていない外国人作家の小説の翻訳をすること。

noavenue.com
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