インタビュー・ミシマガ「人」

大阪21世紀協会で、文化プロデュースの仕事をする山納洋さん。これまで扇町ミュージアムスクエアの運営や、日替わりマスターによる「コモンバー・シングルズ」、ワークショップやギャラリーも開催するカフェ「コモンカフェ」など、公私にわたって話題の空間をプロデュースしてきました。

大阪で面白そうなトークイベントやギャラリーがあると、実は山納さんが仕掛け人だったなんてこともよくあったり。そんな「大阪文化の発信人」山納さんが、自らの実体験と、数々のお店を見てきた経験から、『喫茶店入門』をまとめました。

二回にわけて、書いた経緯をうかがいます。「いつかお店をやりたい」なんて考えている人は、必読のインタビューです!

第1回 『喫茶店入門』山納洋さん(前編)

2009.08.17更新

―― そもそも山納さんは、なぜカフェを始めたんでしょうか。

山納「扇町ミュージアムスクエア」という、大阪ガスがメセナ活動の一環としてやっていた文化施設に、1997年から2003年の閉館まで働いてました。そこは小劇場の演劇や、ミニシアター系の映画を上演したり、雑貨店やギャラリーがある複合型の施設だったんです。
そこが建物が老朽化したことと、企業メセナをこれ以上やる余裕もないという時代の流れもあって、03年に閉館してしまった。
で、当時、カフェブームというのが起きてまして、街中にカフェが増え始めていました。それもふつうにお茶やご飯を出すだけではなくて、そこでギャラリーやライブを行うなど、カフェを使った表現活動がどんどん出てきていることに気づいたんです。
街中のカフェがギャラリーにもライブハウスにもなっているし、映画やお芝居も上演している。「これは総合劇場だな」と思ったんですね。

―― ふむふむ。

山納ミュージアムスクエアでは、劇場、ギャラリー、雑貨店、映画館、カフェが別々にあったのが、カフェならば一つの空間で、しかも個人のオーナーがプロデュースできる。個人レベルで、劇場にも雑貨店にもギャラリーにもなるカフェが作れるのではないかと思ったんです。

―― なるほど。しかしいきなりカフェの経営というのは、ハードルが高かったのではありませんか?

山納その前段として、2001年から7坪ぐらいの小さなバーをやっていました。「コモンバーシングルズ」という名前です。その店のコンセプトは、日替わりで好きな人がマスターになれるというものでした。
「月に一日か二日だけでも、バーのマスターをやってみたい人いる?」と知人に声をかけたら、40人ぐらい集まりまして、「じゃあ日替わりでバーをやってみよう」と2001年に始めたんですね。
すると、ちゃんと家賃が払えて、月に何万円かは残るぐらいの収益が上がった。これはビジネスになるな、と気づきまして。
それで同じ仕組みでやってみようと思って開いたのが「コモンカフェ」だったんです。だから扇町ミュージアムスクエアという劇場を個人レベルで再生するために作った箱が、カフェだったということですね。「カフェがやりたい」と思ってスタートしたわけではなかった。


―― それで、カフェを始めてみて、どうだったんですか?

山納えー、いろいろと当初はうまくいかなくて、苦労しましたね。バーシングルズでも色んなイベントをやったんですが、どうも「内輪ノリ」の空気が出てしまって、それで「一見客をちゃんと迎えられないお店はだめだ」という意識を強くコモンカフェの立ち上げのときに持ちました。
最初はシングルズと同じく、日替わりでコモンカフェもマスターが変わっていたのですが、どうもうまくいかない。それで、「お店というのは何なのだろう」ということを一回つきつめて考えないと、この店に関わってくれる人に、自分の経営ポリシーを示されへんな、と感じた。そこで、いろいろなお店を回り始めたんです。
で、周ってみて初めて気づいたんですね。
「ふつうの店は常連客でもっている」ということに。

―― ああ。なるほど。

山納あたりまえのことなんですけれど、日替わりでころころ店主が変わる店に常連客はつかない。そんなことにすら気づかずに、ビギナーズラックでシングルズバーが当たったもので調子に乗っていた。
シングルズは7坪の狭い店ですがコミュニケーションが濃密にとれて、何杯もお酒を飲んでもらえば売り上げもあがる。平均すると、月に50万円ぐらいの売り上げはあがっていた。
でもコモンカフェの場合、昼はカフェ、夜はバーの営業で、イベントもやってるのに、月50万円の売り上げが立たない。シングルズより広さが3倍になっているのに売り上げが低かった。そこでいろんな間違いに気づいていったんです。

―― 間違いとは、どんな?

山納最初、カウンター席を作っていなかった。テーブル席だけしかない。するとお客さんは店員とコミュニケーションのとりようが無い。
カフェをやっていくにあたっての必要なコミュニケーションだとか、常連客との関係の重要性だとか、そういうことが全然わかっていなかったな、と。
そこで危機感から、いろいろな人気のお店をまわって、店主に話を聞きました。するとその断片の蓄積から、「常連客をつかまえないとお店はやっていけない」「でも一見客を迎え入れないとジリ貧になる」「京都には一見客お断りというシステムが長らく存在していたわけ」などの、飲食店の「仕組み」が見えてきました。
新しい人を迎えるのか、常連客できっちりお店を守っていくのか、そのバランスの取り方でほとんどの店は成り立っていたり、苦労していることがわかったんです。コモンカフェを始めて、うまくいかない日々が続き、半年もがいた結果から、「どうすればカフェの経営が成り立つのか」を真剣に考え始めた。

―― それがこの『喫茶店入門』の元になっているわけですね。

山納そうなんです。いろんなお店を回っているうちに、「売らなくてもいいお店」があることもわかってきました。
昔からの喫茶店を回っていると、店の横でマンションを経営していたり、土地を沢山もっていて、不動産業のかたわらで店をやっている人たちがいるんですね。
そんな店、絶対につぶれるわけがない。住宅街にあるひなびたイケてない喫茶店なのに潰れないのはなぜか、ということに気づきだした。ちょうど『竿竹屋はなぜ潰れないのか』が話題になる直前ですね。
それで、コモンカフェを経営していく中で、ふつうのカフェの開業本に書いていないことが一杯あることに気づいたので、それを書きたかったんです。

【後編に続く】

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山納洋

1971年生まれ。兵庫県西宮市出身。93年大阪ガスに入社。96年より神戸アートビレッジセンター、97年より扇町ミュージアムスクエア、03年より扇町インキュベーションプラザ、06年より(財)大阪21世紀協会において企画・プロデュース業務にあたる。

一方でトークサロン企画「扇町Talkin’About」、日替わりマスター制のバー「Common Bar SINGLES」、カフェ空間のシェア活動「common cafe」などをプロデュースしてきた。

著書に「common cafe―人と人とが出会う場のつくりかた―」がある。

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