インタビュー・ミシマガ「人」

大阪21世紀協会で、文化プロデュースの仕事をする山納洋さん。これまで扇町ミュージアムスクエアの運営や、日替わりマスターによる「コモンバー・シングルズ」、ワークショップやギャラリーも開催するカフェ「コモンカフェ」など、公私にわたって話題の空間をプロデュースしてきました。

大阪で面白そうなトークイベントやギャラリーがあると、実は山納さんが仕掛け人だったなんてこともよくあったり。そんな「大阪文化の発信人」山納さんが、自らの実体験と、数々のお店を見てきた経験から、『喫茶店入門』をまとめました。

二回にわけて、書いた経緯をうかがいます。「いつかお店をやりたい」なんて考えている人は、必読のインタビューです!

第2回 『喫茶店入門』山納洋さん(後編)

2009.08.24更新

喫茶店経営の「そろばん」と「ロマン」

山納カフェや喫茶店を経営してみると、みんな共通してつまづくポイントがあるんです。それに気づかずに、半年ぐらいでお店を畳んでしまう人がすごく多い。それで、自分が沢山の店を研究して気づいた「処方箋」は、きっと多くのカフェをやりたい人にも役立つのではないかと思いまして、『喫茶店入門』を書くことにしました。

―― これまでのカフェの本とはどんな点が違うのでしょうか。

山納コモンカフェをオープンしてからしばらく経って、カフェの開業セミナーのようなところで喋らせてもらう機会が出てきました。それで、何を話すか参考にするために、カフェの開業本をあれこれ読んでみたんです。すると事業計画書の書き方とか、物件の見つけ方とか、メニューの組み立て方については類書が沢山出ている。もちろんカフェを経営するなら、それらの知識も学ぶ必要がありますが、そこから明らかにこぼれ落ちているものがあると気づいた。「常連客・一見客と、どう接すればいいのか」とか、「地元の生活にまったくそぐわない店を、カットアンドペーストするようにもってきていいのか」といったことについて書いてある本は、無かったんです。

―― なるほど。確かにふつうのカフェの開業本って、その店単体で考えていることが多いような気がしますね。しかし実際にカフェをやるなら、お店というものを、地域の中でどう位置づけるかとか、歴史の中でどう見るかとか、広がりをもって考える必要がある。

山納そうですね。だから『喫茶店入門』では、日本に喫茶店ができてから120年の歴史を語りつつ、いまのカフェがどんな文脈にあるのか書いてみようと思います。120年前に日本で初めての喫茶店を開いた鄭永慶(てい・えいけい)さんも、4年で店を畳んでいるんですね。鄭さんは西洋に実際に行ってみて、カフェ文化にあこがれて、日本に輸入してみた。「あこがれ」で始めたところが今のカフェブームと似ています。

―― ふむふむ。

山納鄭さんの店はすぐに潰れましたが、関東大震災以降には喫茶店が増え、そして喫茶店が儲かる時代が始まったんです。そして70年代前後には喫茶店開業ブームが起きます。あだち充のマンガ『タッチ』のヒロイン、南ちゃんの実家は住宅街にある喫茶店ですが、そういう店が日本中に溢れたんですね。しかしそのブームも去って、今度は儲からなくなった。喫茶店をロマンで始める時代と、そろばんで始める時代があって、今はまた儲からないけれどロマンで始める時代に戻っている。喫茶店の歴史を見ることで、今後のカフェの経営にどういうことが必要なのかわかるのではないかと思うんです。

―― コモンカフェがある中崎町も歴史のある街ですね。

山納はい。古くからの住民が長屋に住んでいてどんどん高齢化が進んでいます。それで空き家が増えていたところに、若い人が住むようになって、長屋を改造してカフェや雑貨店や洋服店を営むようになった。しかし外から来た若い人は、地元とあまり溶け込まないままでお店をやっている。だから平日の昼間はほとんどの店がひまなんです。

―― へえー。そうなんですか。中崎町って、最近では大阪の「お洒落エリア」の一つになってますよね。

山納土日になると、雑誌の「中崎町特集」を読んだ人が、カフェめぐりにやってきて観光地みたいになりますね。しかしコモンカフェを出してみて、「これは地元の人や地域に支えられたお店じゃないんだな」ということに後から気づいた。それで「地域に密着した店というのはどんなものか」を考えるようになりました。大阪でも堀江の方はまた違う雰囲気があるし、もっと郊外の住宅地に行くと店の文脈が違う。「地域と店」というのはすごく意識するようになりましたね。

大阪では150万円で店が出せた

―― 僕は数年前に、東京から大阪に転勤で引っ越しまして、3年弱住みました。それで、非常に東京と大阪では、「店の文化」が違うことを感じたんですね。ひとつは単純に、大阪は東京に比べて、チェーン店が圧倒的に少ない。

山納そうですか。

―― はい。大阪に来てみて驚いたことの一つが、20代後半ぐらいの若い人が何人も、自分がオーナーになって店を開いていたことなんです。東京はやはり地価が高いので、若い人が気軽に店を始めるというのはなかなか難しい。一軒の店を出すには、それこそ1千万円、2千万円ぐらいかかる。それが中崎町あたりで古い民家を利用すれば、かなり費用が抑えられる。

山納そうですね。中崎町にある若者に人気の某カフェは、開店資金150万円ぐらいで始めたと聞いてます。家賃は5万円だったそうですから、東京とはぜんぜんハードルが違う。中目黒や自由が丘のあたりも家賃が高そうですし。だから『喫茶店入門』は、東京をはじめ全国的に通用する内容かどうかは、ちょっと分からないです。

―― たぶん、東京の地価が異常なんでしょうね。他の県はもっと店が出しやすいのがふつうだと思います。

山納カフェブーム自体は、東京から火がついてるんですけどね。駒澤大学あたりにあった店が、裏原宿に広がっていって始まった。それでもやはり、個人のオーナーが一人か二人で、ほっこりやっているという雰囲気ではぜんぜん無いですね。うまく仕掛けたプロデューサーがいて、カフェブームを作り出したという感じでしょうか。ワイアードカフェとかバワリーキッチンとか2000年前後にできた店を仕掛けたプロデューサーが、その後あちこちの駅前開発に関わったり、今では20店舗ぐらい経営していたり、丸ビルに店を出したという話を聞きます。東京で店を出すとなると、そういう方向に行きますね。

―― そうですね。どうしても資本と絡んで大きい方向に行く。家賃の問題さえクリアできればいいんでしょうけれど。喫茶店に向いた場所というのはあるんでしょうか?

山納住宅街になればなるほど人通りは少なくなるので、経営は難しくなります。駅前から交差点を三つ四つ進むごとに、どんどん人の流れが減っていきます。駅からちょっと離れると、駅の集客力がまったく影響を持たなくなる。となるとローカルに地元密着型で行くか、遠くからでも人が集まるキラーコンテンツを作るか、どちらかでないと厳しい。

―― じゃあ、やはり駅のすぐ側でないとカフェ経営は難しい?

山納いえ。部屋の一室に仲間だけが集まるような店であったり、飲食をメインにしなかったり、やり方を工夫すれば、まだまだ可能性はあると思いますね。大阪のカフェでも「脱飲食」の流れがありまして、元々カフェと教室をやっていた店が移転を機に、カフェは辞めてしまって夜だけワークショップをやっているとか、完全に教室スペースとして一軒家を使っているとか、そんな店が出てきてます。コモンカフェでも今、週に一日か二日、セミナーを開いていますが、それもある種の脱飲食ですね。

―― これがそのセミナーのパンフレットですね。おお、140Bの中島淳さんも出ている。「遊牧夫婦」の近藤雄生さんも。

山納もともとメビック扇町やミュージアムスクエアで講座をやっていて、人脈があったので今注目の方に講師をしてもらえています。コモンカフェがある場所は、夜は人通りが多くはないので、飲食をメインにするよりも教室でいこうとシフトしました。「すごい料理を出したい」とか「こだわりのケーキを売る」という飲食の軸があれば別ですが、これもカフェの一つの姿ですね。またイベントを軸に店を作ると、わざわざ性が生まれるので駅前になくても成立します。

―― こういうカフェ発のセミナーから、いろいろな広がりが生まれてきそうですね。

山納だいたい一回15人ぐらいお客さんが来るんですが、セミナーに参加した方や、チラシを見た方から、講師の人たちのところに仕事の依頼がいくということはこれまでもありましたね。一軒のカフェから文化の発信ができるのが面白い。今、これを何十箇所に増やすということを目論んでいます。ちょっとカフェの話からは離れますが、「大阪カルチャークラスター!!」という構想を練っていまして、大トークショーやワークショップをやっている大阪のいろんな店の情報を、一つのサイトに集めようと考えています。

―― 面白いですね。そのウェブサイトをチェックすれば、大阪で自分が興味があるワークショップをどこでやっているのか、一目でわかるようになるわけですね。

山納はい。さらに将来的には、それを発展させて「ナカノシマ大学」という学校を作ろうと、140Bの江弘毅さんたちと一緒に計画しています。大阪市や大阪大学と組んで「21世紀の懐徳堂」というコンセプトのもと、街なか学校を立ち上げようと。
ちょっとカフェの話から外れましたので戻しますと、街中のカフェって、「こんなフードやスイーツをやりたい」という人よりも、人と人がつながる場所を作りたいとか、何か情報発信をしていきたいと考えて始める人が多いと思うんですね。でも、そういう人は思いが先行して、ビジネスの側面がすっぽり抜け落ちていることも少なくない。
「お店をやりたい」という気持ちだけで立ち上げると、挫折しやすい。昔の喫茶店は、「これで食わなければならない」という覚悟があったり、会社で働くのがどうしても嫌で、喫茶店をやるしかないという人がやっていたわけです。
「やらなしゃあないからやる」「親の代から店がある」という人はそんなに気持ちが揺れない。でも「やりたーい!」で始めた人は、別にやりたいことが出てきたら、あっさり店を畳んでしまう。コモンカフェでも「お店をやりたい」ってずっと言っていた人が、ある日突然、「旅に出ることにしました」なんてこと、よくあります。お店をはじめると、毎日同じ空間にいて、毎日同じことをやらねばなりません。自分がそういうことに耐えられるかどうかの見極めを、やる前から知っておいたほうがいいと思いますね。店を始めるには、数百万円がふつうかかりますから。

――『喫茶店入門』が、その見極めのための情報の一つとなれば、とてもいいですね。これからの連載も楽しみにしております。 (了)

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山納洋

1971年生まれ。兵庫県西宮市出身。93年大阪ガスに入社。96年より神戸アートビレッジセンター、97年より扇町ミュージアムスクエア、03年より扇町インキュベーションプラザ、06年より(財)大阪21世紀協会において企画・プロデュース業務にあたる。

一方でトークサロン企画「扇町Talkin’About」、日替わりマスター制のバー「Common Bar SINGLES」、カフェ空間のシェア活動「common cafe」などをプロデュースしてきた。

著書に「common cafe―人と人とが出会う場のつくりかた―」がある。

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