インタビュー・ミシマガ「人」

「編集家」という肩書きで、長年出版界で編集者・ライターとして活躍してきた竹熊健太郎さん。いまや伝説的なギャグ漫画として知られる相原コージ氏との共著、『サルでも描けるまんが教室』(略称「サルまん」)を読んだ方も多いだろう。
近年はじめたブログ、「たけくまメモ」は多くの漫画ファンや業界関係者の注目を集め、京都精華大学と多摩美術大学の教壇にも立ちながら、同人誌『コミック・マヴォ』の編集長を務めるなど、活躍の幅を広げている。
その竹熊さんに、出版の未来についてお話を伺った――。(聞き手 大越裕)

第3回 竹熊健太郎さんインタビュー(前編)

2009.12.09更新

漫画の産業革命、はじまる。

―― 竹熊さんが大学でマンガのことを教えるようになってから、もうだいぶ経ちますね。

竹熊マンガ学科を設ける大学が、近年増えてますね。関西が多いんですけど、関東でも厚木にある東京工芸大学が3年前に専門のマンガ学科を設けました。学科としてはまだ少ないですが、講座を持っているところは多いですよ。美術系の大学にはたいていあるんじゃないかな。僕も多摩美でマンガ史を6年前から教えはじめて、京都精華大学でも今年から常任で教えるようになりました。

―― 京都精華大学といえば、マンガ学部という印象がありますね。

竹熊最初にマンガ学科を作った大学ですからね。今は「マンガ学部」になってますが、学部にしているのは精華大だけです。学部になって4年目で、今年はじめて卒業生が出ます。最近は少子化で子どもの数が減っていますから、どこの大学も学生を集めるのに必死。それもあって、目玉としてマンガ学部を作ったんでしょうね。

―― マンガ学部の学生さん達は、就職活動はどうするんでしょうか?

竹熊ストーリーマンガ学科は作家養成が主眼ですから。美大の油絵科、彫刻科と同じですよ。あからさまには言わないですが、正直、就職は二の次。一般の美大の場合、いちばん就職先があるのはグラフィック(デザイン)科で、あとは進路なんて考えていないような感じですよね。

もちろん大学としては就職率は大事なんですけれど、作家志望の学生は在学中にデビューできなくても、アルバイトしながらずっとマンガを描いて、出版社に持ち込みをする。しかし現実問題として作家になれるのは、志望者が300人いたとして、1人か2人じゃないですかね。

―― そもそもなぜ竹熊さんは大学でマンガを教えようと思われたんですか?

竹熊まず編集者的な興味があったんです。僕はアカデミズムの人間ではないですから、学会で認められることには最初から関心がない。文章はフリーライターとしてたくさん書いていましたが、アカデミズム文体は苦手で、学術論文は書いたことがないですし。英語も中学生レベルで、たいして読み書きもできません。

元々、僕は編集者から出版の世界に入った人間なんです。その後、20年ぐらい実質的な仕事はフリーライターでしたが、常に編集者よりの仕事をしてきたライターだったと思います。それで作家養成を標榜する学科だったら、編集者的なアプローチで、自分が教えてあげることはあるな、と思いました。

それとは別に、ここ数年、出版の世界がかなり危機的な状況にあることを実感していました。一般の雑誌書籍も売れないと言われていますが、マンガ出版も深刻な落ち込みを見せています。マンガ雑誌の多くは赤字が増大する一方でして、コミックス(単行本)は何とか利益が出ているけれど、年々それも縮小している。コミックスの利益を雑誌が食い尽くしていて、マンガ出版全体として淘汰の時期に入っていることは間違いないと思います。それで今、大手の出版社は、どこも月刊のマンガ雑誌を次々に出してますよね。

―― ああ、出してますね。

竹熊あれはね、もうマンガ週刊誌が維持できないからだと思います。それで週刊誌を一つつぶして、厚い月刊誌を二つ作ることで、社員の仕事を確保しているんですよ。いろいろ業界内部の話を聴く機会もあるんだけど、壮絶な状況になってます。

現在の出版業界は、言ってみれば幕末みたいな状況ですよ。経済不況に加えてインターネットという黒船がやってきて、革新勢力の尊皇派と保守派の佐幕派がいて、佐幕派の分が悪いという状況ですよね。ただし尊皇派もどうしたらいいのかわかってない。あるいは、太平洋戦争の昭和十九年暮れから二十年に入ったあたりと言ってもいいかな。東京大空襲が始まって、連日首都が爆撃されているような状況じゃないですか。このまま行けば総員玉砕で、原爆が落ちかねない雰囲気。

―― 一般の雑誌も、どんどん廃刊になってますしね。

竹熊一般誌もひどい。広告収入が下がりまくってますからね。一方のマンガ雑誌は、昔から広告に依存していないんですよ。だから広告収入の減少は打撃になっていないはずなのに、続けられなくなってきている。それくらい落ち込みがひどい。

―― 子どもが週刊マンガ誌を読まなくなってきたってことなんでしょうか?

竹熊読まなくなったというか、買わなくなったんですよね。最新号はマンガ喫茶で読めばいいわけだから。それより今、本当に深刻なことは、雑誌が売れないことではなく、単行本が売れなくなったことなんですよ。

―― なるほど。

竹熊マンガ雑誌はここ30年、売れても赤字が前提でやってきたわけですから。雑誌が赤でもコミックスが出せればよかった。そのコミックスが売れなくなったのが、歯車が狂ってきた原因です。逆に言えば、90年代半ばぐらいまでは右肩上がりで売れ続けていたんですよ。

マンガであれば、放っておいても売れた状況があった。出版社がその状況にあぐらをかいて、他の産業がやってしかるべき人材養成や新企画の開発努力をやってこなかったと僕は思うんですね。非常に旧態依然とした、伝統的なマンガ出版の方法論に固執してきた。

それでも売れていた時期はよかったんです。マンガというのは出版の中でも特殊領域でして、活字の本の編集ができるから、マンガ編集がやれるかというと、そんなことはない。マンガの編集は、何年か現場で経験を積んでエキスパートにならないと、無理なんです。しかし僕から見ると、時代の状況に合わせた出版ノウハウの開発を、業界として怠っていた感じがするんですよね。

もちろん個々人の編集者や編集部は、一所懸命やってるんですよ。現場の努力でここまで発展してきた分野です。しかし産業としての考えがとても古くて、近代産業の感じがしない。だから、いよいよこれからマンガの産業革命が始まると思うんですよね。

―― なるほど。

出版界の内側で仕事をしていてはいけない

竹熊日本では、戦後の手塚治虫以降、マンガはずっと右肩上がりで売れ続けてきました。ただ70年代のオイルショックのときに一度だけ紙不足があって、雑誌を値上げして、減ページしなければならなくなった。それで売り上げが落ち込んだ時期があったんです。そのとき出版社は、雑誌単体で利益をあげるというモデルを辞めたのだと僕は見ています。

それで雑誌はマンガを連載させ、単行本のために原稿を溜めるという役割が大きくなりました。同時に作品の宣伝媒体として使う。さらには、原稿料を払うことで作家の生活を維持させるツールとして使うことになった。

こうして雑誌は赤字で出して、単行本との連結決算で利益を上げるモデルができたのだと思います。これがビジネスとして拡大したのは80年代に入ってからですね。同時に、人気マンガの長期連載の傾向が出てきました。

というわけでマンガ界の生命線は、作家にとっても出版社にとっても、単行本の売れ行きなんですよ。単行本を出すためには雑誌で連載してもらわなければいけないから、赤が出ても雑誌を潰すことはできなかった。そうしたやり方が、とうとう限界に来たと思うんですよね。

―― ・・・・・・なるほどなあ。たしかにでも、今、何十巻と出ているストーリーマンガを読もうと思ったら、よっぽど思い入れがない限り、マンガ喫茶に行っちゃいますもんね。

竹熊オタクではない普通の読者にとってはそれが当たり前ですよ。僕は昔から言ってるんだけれど、一つの作品が30巻とか40巻とか続いて、誰が買うんですか。『こち亀』とか、『ゴルゴ13』みたいに、一話完結とか、一冊で完結するようなマンガであればいいんですけれど、『はじめの一歩』なんて現在、89巻ですからね。僕は28巻から先を読んでいないから、もう全然話が分からないけど、まだやってますよ(笑)。

―― 私が高校一年のときに始まった連載だから、もう20年近くやってるんですね・・・・・。

竹熊その作り方によって、結局、マンガ界が自分で自分の首を絞めたと、僕は昔から思っているんです。

―― 『ドラゴンボール』なんかも蛇足のような話を、えんえん続けてましたしね。

竹熊そうなんですよ。ああいった連載の引き延ばしはねえ、ビジネスの論理としてはあるのかもしれないけれど、結局、誰にとっても良くないんですよ。作家も描くのがイヤになっちゃうでしょうし。鳥山明さん、今はマンガを描かないじゃないですか。まああの人は描かなくたって、もう人生が5、6回できるぐらい稼いでますけどね。とにかくそうした方法論を続けた結果、いよいよマンガ界が疲弊してきたのがここ数年です。農家だって、長年収穫して疲弊した農地はしばらく休ませるでしょう。漁業だって、乱獲して水産資源が枯渇しないよう、業者間で協定を結んだりしている。

特に大手の出版社は、マンガで儲けているんですよ。どの大手出版社でも、単行本上位の売り上げを調べれば、ほとんどマンガです。だから社員に給料を出すためには、絶対にマンガを辞めることができない体質になっている。それで人気マンガをひたすら長期連載にすることで、安定した収益が見込めるわけですね。しかしそれは、短期的な商売としては良くても、表現として疲弊していくことは避けられない。商売としても、長期的にはマイナスです。

話は戻るんですけれど、僕は数年前からマンガ出版の現場からは距離を置いていました。ブログをやったりしながら、これからの生きる道を模索していたんです。そこに大学の仕事の話をいただいたので、大学で人材を育てる仕事をやろうと思った。そう考えた理由は、「出版界の内側で仕事をしていてはもうどうすることもできない」と感じたからなんです。

業界全体が江戸幕府の末期みたいな状況ですから、しょせん一介のフリーにすぎない僕が何とかしようと思っても絶対無理です。社員でも経営者にならない限り、抜本的な改革は無理でしょう。だとすると、フリーの僕としては、個人としてどうやって生き延びるかを考えなければならない。たとえ業界がどうなろうと、僕個人が生きる道を探さねばと、ここ数年ずっと考えていました。

―― ふむふむ。

竹熊そうするうちに、だんだん見えてきたことがありました。一つはブログを始めてみて、自前の情報発信の回路を持つことでいろいろ見えてきた。ブログはお金にはなりませんけど、自分の意見を書いて、多くの人に読んでもらうメディアとしては、十分に機能する場としてある。下手な雑誌や新聞に書くより、ずっと多くの読者に読んでもらえますからね。

―― いま「たけくまメモ」の読者はどれぐらいですか。

竹熊一日のアクセスが1万6000ぐらい。だいたい一ヶ月の単純アクセスで、35万から50万ほどですね。エントリーにもよりますが。何回もアクセスしている人もいるだろうから、実際の読者はその3分の1ぐらいじゃないですか。30万アクセスあったとしたら、10万人ぐらいでしょう。

でも10万部の月刊誌を持っている出版社って、いまほとんど無いでしょう。いまや紙や新聞で連載するよりも、多くの人に文章を読ませたいと思ったら、ブログ以上のものはないんですよ。

お金に関しても今は大学の仕事が中心になっていますので、連載は産経新聞のコラムしかやっていません。基本的に、連載の仕事は断っているんです。こなせないし、連載する意味が、実はあまりない。

雑誌や新聞の経営の悪化の原因は、不景気もあるんだけれど、なんといってもインターネットでしょう。不景気はいつか回復するでしょうが、ネットの普及は、もうネット以前には戻りません。これから広告や新聞、放送、出版の分野で働く人たちは、「ネット後」の世界で仕事しなければならないわけですが、どうやって仕事をやって利益を出せばいいのか、うまい解答は誰にも見えていません。

おそらく、今までの仕事のやり方を、一回捨てるぐらいの覚悟が必要なんだと思います。しかしこれは、出版界で10年20年生きてきたベテランの人ほど、難しいでしょうね。今更これまでのノウハウを捨てて、生まれ変わってネットの世界でイチから始めるなんてできないんじゃないかな。これはむしろ若い人が始めるベンチャーの方が強い。世代交代が始まる時期に来ているんだと思いますね。

小さい出版の試み

―― この間、ある大手出版社の方からお話を伺ったんですが、その方も「今の状況は、戦艦大和だ」と仰っていました。すでに航空戦の時代に入っているのに、まだ大艦巨砲で戦おうとしているのが今の出版界だ、と。

竹熊結局お役所と一緒で、既得権益を守ることしか頭にないところは、産業とともに滅びていくしかないよね。僕が今、ブログにマンガ業界ネタを書いているのは、本当は出版業界、メディア業界全体に通じる話をしているつもりなんですけど、まだ現状をわからない人も少なくないですね。

―― ここのところ、編集者と漫画家の方が、トラブルになるケースがニュースで報じられていますね。マンガ家と編集者との関係が、以前とは変わってきた、ということなんでしょうか。

竹熊ああいうトラブル自体は昔からあったんです。編集者とマンガ家との間の、感情的なぶつかり合いは、業界が始まったときからいくらでもあった。僕もいくつか聞いてますよ、伝説的な話を。しかし表ざたにはならなかったんですね。それはなぜかと言えば、結局、マンガが圧倒的に売れていたからですよ。だから商売の要を握っている出版社と本格的に対立する作家は、まず出なかった。出版社の側も、内々に手を回して、表沙汰にならないようにしていたんですね。

最終的にマンガが売れれば、多少の感情的な不満やすれちがいは、雲散霧消しちゃうんですよ。出版社も潤ったし、作家も単行本が出れば潤った。単行本を出す権限を持っているのは出版社だから、よほどのことがない限り、本当のけんかにはならないですよね。

もう一つのポイントとして、昔はブログがなかった。作家が個人でブログを持って、出版社の権限が及ばないところで、一般の読者に向けて意見を発信するようになったのはここ数年のことです。しかしそれもブログが流行ったから、トラブルが表に出たという単純なことではないと思う。明らかに出版業界が傾いて、労力に見合うギャランティが作家に入らなくなったから、昔だったら許容できていた不満が許容できなくなって、ブログで爆発するというパターンが多いですよね。

ある漫画家さんがブログで暴露したけれど、雑誌の連載の原稿料は、一年やって1600万円ぐらい。でもアシスタント数名に支払う賃金などを入れた制作費で、1800万円はかかると。200万円の赤字です。もしこれで単行本が売れなければ、そのまま作家に借金としてのしかかってくる。

それ以外にも、編集者の態度の問題とか、作者に無断でセリフを直されたとか、作者としてはもちろん不満ですよ。入稿する前に相談してくれりゃいいんでしょうけれど、週刊連載だととにかく時間が無いから、入稿ギリギリになって編集判断で細かい表現を差し替えることはこれまでもあった。

そういうトラブルはもちろんあったんですけど、トラブルがここまで大きくなる根本的な原因は、原稿料が安すぎることですよ。作家が連載を維持できるだけの、つまりアシスタントを雇う金を出して、なおかつ生活費もまかなうことを考えれば、たぶんいまの3倍ぐらいの原稿料をもらわなければやっていけないし、そうなると雑誌はたぶん定価を3倍に上げないと維持できない。でもそれは無理でしょう。

―― うーん、お話を伺えば伺うほど厳しい状況が見えてきました。

竹熊それで数年前から僕は、個人的なポケットマネーの範囲で、実験的に小さい出版を試みることにしたんです。
今だとインターネットで配信するという方法もあるんですけれど、現状ではまだ紙媒体の方が、マンガをお金に換えようと思うと便利です。将来的には日本でも、2、3年後にはamazonのキンドルのような電子ペーパーメディアが普及するかもしれませんが。その頃にはもう、出版社自体がいまの体制を維持できなくなっているでしょうね。

これから分裂や合併が始まっていくでしょう。それと小さな規模の出版社がたくさんできて、紙にもこだわらずに、キンドルのようなメディアを使ってベンチャー的な出版をする会社も出てくるでしょう。会社の規模自体を小さくしておく限り、既成の商業出版社のような利益もいらないわけですからね。

(続きます!)

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竹熊健太郎

1960年(昭和35)東京生まれ。
1981年よりフリーで編集・文筆活動に従事。
主活動ジャンルは、マンガとアニメーションを中心としたサブカルチャー領域。
2003年4月より、多摩美術大学共通教育で「漫画文化論」非常勤講師を務める。2009年4月より京都精華大学マンガ学部プロデュース学科教授。

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