インタビュー・ミシマガ「人」

デザインのひきだし』を最初に手にして以来、ずっとお会いしてみたかった。シール、製本加工、箔押し、活版・・・特集のたびに、その特集に見合った加工を表紙にまで施す徹底ぶり。たとえば、シール特集では、表紙もシールでできているし、箔押しのときは、これでもかと言わんばかりの箔が押されている。こんなすごい本はどのようにしてつくるんだろう? いったいどんな人が手がけているのだろう? 今回、念願かなってグラフィック社の津田淳子さんにお話をうかがうことができました。

『デザインのひきだし』は、デザイナーだけでなく、「編集」という名のつく仕事をする人なら全員必携の一冊です。

(聞き手:三島邦弘)

前回「実はひとり編集部なんです」はこちら!

第15回 『デザインのひきだし』グラフィック社・津田淳子さん(3)ー世界中の印刷加工をスパイせよー

2010.06.17更新

「島」と「活版」!?

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『デザインのひきだし⑥』(グラフィック社)

―― 毎回特集はどういうふうにして決めてらっしゃるのですか?

津田『デザインのひきだし』は4カ月に1回出していて、1号終わったらそこからまた次の号にとりかかるという感じで進んでいます。そうやって進めていって、不思議なんですけどだいたい校了日くらいまでに、なんとなく次の号の企画が自分の頭の中で固まるんですよ。たぶんいろいろな方にあっているうちに「これ深めたい」ということなんだと思うんですね。

―― 校了日に次が浮んでいるかどうか。

津田そうですね。だいたい4カ月といっても、制作期間は3カ月半くらいなんですけどね。最初の1カ月から1カ月半はリサーチと称してとにかく人に会いに行くんです。ブルドーザー的に、とにかくアポとって会いに行く。その合間に会いたいと思っているデザイナーさんのところにとにかくお邪魔させていただきます。

そのときは取材というよりは、リサーチです。1カ月半くらいで、だーっと情報を集めて、そこから台割を切って具体的に進めて行く感じです。

―― おもしろいなぁ。

津田本当にいろいろなところに行けるので、おもしろいですよ。この号では、長崎の五島列島の小値賀島まで行ったんですよ(笑)。ま、私が島好きっていうそれだけでもあるんですけど(笑)。「島に取材に行く必要があるのか?」と社内で思われてると思うんですけど(笑)。これです。

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『デザインのひきだし⑩』の「活版紀行 島に生きる活版印刷 長崎県・小値賀島 晋弘舎印刷」より

―― 「島が目的なんじゃないか」って言われるくらい(笑)。

津田だって、「島」と「活版」なんて、私の好きなものが合わさってるので、行かないわけにはいかないっていう(笑)。でもたぶん、離島で活版印刷やられてるところってここだけだと思うんですよね。

―― すごい、こんなところあるんですね。

津田そうなんですよ。

―― 5人で行かれたんですか(笑)。

津田そうなんですよ。まわりに声をかけたらみんな自腹で行くって。取材は基本的に自腹で。

―― 大所帯で(笑)。すごいですね。

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『デザインのひきだし⑩』の「活版紀行 島に生きる活版印刷 長崎県・小値賀島 晋弘舎印刷」より

津田すごくいい島ですよ。ぜひ行ってみてください。ここの島では活版印刷は特別なことじゃなくて、100年前からずっとやってるだけなんだよ、って言ってらっしゃいました。もうそれ聞いただけで「かっこいい・・・」って。

―― 島の印刷物を全部こうしてやってらして。

津田そうなんですよ。小値賀島は漁業の島なんですけど、いまでも漁協の伝票とか、島の人の挨拶状とか、全部活版で刷っているそうです。本当に生きてる活版印刷なんだなぁ、と思えるものに出会えてよかったですね。本当によかったです。
ただ、取材したときは冬の玄界灘だったので、船が全然でなくて、佐世保でずーっと待ちぼうけ。島にはほんのちょっとしかいられなかったので残念でしたけど。だからちょっと改めて行こうと思っています。

日本の島を制覇したい!

津田私、島すごい好きなんですよ。

―― 島いいですよね。

津田沖縄の離島で人のいる島はあと2つで制覇です。
すみません。全然関係ない話なんですけど、日本って離島いくつあるかご存知ですか?

―― いや、知らないです。

津田島の定義が難しいんですけど、今の日本の統計では6500くらいあるんですね。
人がいる島だけでも450くらいあります。

―― へー。

津田ま、無理ですけど、全部行ってみたい。

―― いまどれくらい行ってらっしゃるんですか。

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『日本の島ガイド シマダス』(日本離島センター)

津田たぶん、百いくつだと思います。『日本の島ガイド シマダス』(日本離島センター)という本があるのご存知ですか? 財団法人日本離島センターというところから10年に1度くらい出るんですけど、北海道から沖縄県まで、日本の人が住んでる島、有人離島と、あとは無人島あわせて1000島くらいの島の情報が書いてあります。
島の人口、面積、島への交通手段、特産物やどういう島か、島の暮らしの情報なんかが載っていて、毎晩眺めているんですけどとても楽しいです(笑)。

―― なるほど。『シマダス』ちょっとチェックします。

津田ぜひ。でも、いまの版は品切れになっていて、重版未定なんですよ。はい。

すべての情報を本から得る

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津田基本、私すべて情報は本から得てます。映画も生まれてから10本も観てないと思いますし、CDも今は1枚も持ってません。テレビもあまり見ないので、もう本ばっかりなんですよ。読んでるのは。でも、ものすごい楽しいですよね。

―― ものすごい楽しいです。

津田それだけじゃなく、離島とか行くと、ネットとか携帯がつながらないので、本を持っていくしかない。で、そういうところで図鑑を出して、島になっている果物が何なのかとか、見かけた鳥はなんて言う名前なんだろうとか。虫の図鑑と一緒に散歩するのも、すごく楽しいんですね。

私は離島に行っても、海にはあんまり興味がなくて、その離島とかの歴史とかをがーっと読んでから行くんですよ。

―― へー。

津田どこから上陸して、どうやって開墾されていったとか、そういう話を読んで頭に入れておいてから、「あぁ・・・ここかぁ・・・」と思うのが楽しいんですよ。

―― なるほど。必ず上陸の歴史ってあるはずですもんね。

津田また、それぞれ島に全然違う歴史があるのでおもしろいですよね。島の歴史は本になってないことが多いんです。でも、国会図書館に行くと、大体その島の村史とか、その島を管轄している町とか市の統計資料があるので、それをだーっと見るんです。

―― 島に行く前に国会図書館に行かれるんですね。

津田必ず行きます。それで、コピーをいっぱいしますね。

―― それは初めて聞きました。

津田国会図書館は便利ですよ。って、誰でも知ってることですけど(笑)。あそこは、行けばなんでもありますから。ネットで検索できるし、コピーも申し込める。論文もけっこうあるんですよ。島の歴史を調べてると、本になってなくても大学の研究者とかの論文はけっこうあるので、それもあるものは見られるのでほんと便利です。

―― けっこう重要な論文が本になってないことってありますもんね。なんで当時本にしなかったの? っていうようなものとか。

津田いっぱいありますよね。すごいもったいないなと思います。あと、印刷図書館というのもあって、そこもすごい好きです。

―― なるほど~。

紙の本だからできることを

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『デザインのひきだし⑨」(グラフィック社)

津田紙の本には、電子ブックキンドルとかiPadとは違った魅力があります。

―― 比べるもんではないですよね。

津田そうですね。私は根がミーハーなので、iPadも発売初日に買いました(笑)。紙マニアだと思われているので、周りからは「えー!」って言われましたけど。両方ともそれはそれですごく面白いので、電子と紙、ふたつで盛り上がって行けばいいと思います。だからこそ、より紙らしさ、紙の本だからこそできることを今後もっとやっていけたらいいなと思いますよね。

―― 編集者がもっとそれを追究して行くべきだと思うんですよね。

津田文芸書も本文の紙にも種類がたくさんあって、価格も別にどれも大して変わらないですよね。だから、それが選べるといいのになと思いますね。

―― 思いますね。

津田すみません。まとまらない話で。

―― いえ、最高のお話でした。いつまででも聞いていたいです。

津田いえいえ。ありがとうございます。

10号記念に「スパイ・ノート」

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デザインのひきだし特製 スパイ・ノート

津田あと、これ差し上げます。これ今回付録の「スパイ・ノート」っていうものなんですよ。「スパイ手帳」ってご存知ですか? 昭和30年代生まれくらいの人は、すごい胆らしいんです。サンスターから子供用に「君がスパイになるためのノート」っていうスパイセットみたいなものが売っていて、水に溶けて情報を敵に伝えないっていうメモがあって、一世を風靡したらしいんです。それもおもしろいし、それ以外のスパイアイテムも今ならいろいろできるなぁって思って、10号記念でつくったんです。ここから16枚は書いて水に入れるとぱーっと溶けます。

―― マジスか!

津田はい。ぜひやってください。

―― これめちゃめちゃうれしいな。すごいことしますね。

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津田黄色いところは、筆記用具がなくてもコインで書ける「SOSメモ」です。コインでこすると本当に書けますので書いてください。

―― えー。そうなんですか。

津田そうなんです。その次の白いところは、水のなかでも破れずに読める「どこでもメモ」。ぜんぜん大丈夫です。

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「変装用タトゥーシール」セット

で、もっとあやしいこれは、変装スパイシールです。敵を欺く「変装用タトゥーシール」セット。タトゥーシールってご存知ですか?

―― はい。

津田あれの、傷とほくろです。これで変装して敵を欺くというものです。

―― (笑)

津田で、これは、これでキミも今日からスパイ「スパイライセンス」。切り取って、コードネームを書いていただいて、世界中の印刷加工をスパイせよ、と。

―― 偉大ですね〜。

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「スパイライセンス」

津田ライセンスカードにもちゃんと仕掛けがあって、これトランプ用の紙なんですよ。実はトランプって透けないように、中に一層グレーの層が入っているんですね。全部そういう、しかけのある素材だけでつくってます。

―― これはすごい! めっちゃうれしい。

津田これを使って、みなさんでスパイしてください(笑)。
10号記念で全然関係ないこういうものが付録で付いていますので、ははは(笑)

―― うれしいな。本当によくつくれますね。

津田ありがとうございます。一応説明が載ってるので、後から見ていただけると中身がわかると思います。よく読んで、ぜひスパイになっていただきたい。

―― なりますよ〜。これはすごいなぁ・・・

津田やっぱり楽しいですよね。別にスパイはいまノート持たないと思うんですけどね。ははは(笑)

―― そうですよね(笑)。でもこれ持ってこそ、正しいスパイですよ。

津田ですよね(笑)。ぜひ。
本当はもっとたくさんいろいろな面白いものがあって、すごい分厚い「スパイ・ノート」をつくりたいくらいなんですけど、まぁ、ポケットに入らないので。ふふふ。

―― ぜひいつかつくってください(笑)。今日は本当に楽しかったです。ありがとうございました。

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津田淳子

デザインのひきだし』(グラフィック社)編集長。

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