インタビュー・ミシマガ「人」

21世紀中に全島沈むと予測されている南太平洋のツバル、高潮の影響で年に80回も浸水しているイタリアのベネチア、永久凍土の溶解で2割の住民が家を失ったアラスカのシシマレフ島。気候変動によって存亡の危機に直面している3つの島の「いま」を映し出すドキュメンタリー映画『ビューティフル アイランズ』が公開されます。

監督の海南友子さんは、ナレーションやBGMを排し、島に暮らす人々の日々の生活や、祭り、伝統工芸、食生活など彼らが遠い昔から大事に受け継いできた貴重な文化を丹念に映し出しました。しかしそれらが静謐で美しい映像であるがゆえに、近い未来に失われてしまうかもしれないものの大きさに、私たち観客はおののき、呆然としてしまうことでしょう。製作に3年を費やしたという本作への想いを海南監督に伺いました。
(聞き手:堀 香織/大越 裕 文章:堀 香織)

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『ビューティフル アイランズ』 7月10日(土)恵比寿ガーデンシネマほか全国順次ロードショー 配給:ゴーシネマ http://www.beautiful-i.tv/

第16回 『ビューティフル アイランズ』監督・海南友子さん(前編)―島の現状は私たちの住む場所で起こりうる未来の姿―

2010.07.09更新

どこか遠い国の話にはしたくなかった

―― まず、この映画を撮ることになったきっかけを教えてください。

海南以前、南米のパタゴニアにテレビ番組の取材で行ったとき、向こう岸の氷河がゴゴゴと音を立てて崩れるのを見たんです。もちろんそれまでもテレビなどで氷河の決壊を見たことはありましたが、実際に見るのとテレビとではぜんぜん違う。自分の立っている足下から繋がっている地面がいきなり崩壊して、本当に怖かったんです。

学生時代から環境問題には興味があったけれど、やはり気候変動というのは本当に恐ろしいものなんだと実感し、それで次は気候変動の番組をやりたいと思って。実際にプロジェクトがスタートしたのは2006年で、3年半かけて地球3周分くらい、リサーチとロケで回りました。

―― ツバル、ベネチア、シシマレフという3カ所を撮った理由はなんですか?

海南まずツバルにリサーチに出かけたんです。その時点では「世界で最初に沈む国」ということしか知らなかったのだけど、行ってみたら本当に素晴らしい場所だった。人も風景も何もかもが美しくて、豊かで、満ち足りていて・・・。

そのツバルだけで作品を撮ってもよかったのですが、ツバルって一般的には場所が知られていないんです。そんな小さな島々が沈んだところで、世界の多くの人にとっては関係ない。「どこそれ?」「そんなところに住んでいたんだから仕方ないじゃない」で済んでしまう。それがすごく厭だった。

それでどうしたらいいかを考えて、温かい島ツバル、寒い島シシマレフ、現代的な島ベネチアというふうに3つの島を撮ろうと思ったんです。大陸を分け、人種もなるべく重ならないようにして、バランスを取ろうと。そうすれば、観客の皆さんがどこかに自分に似た人、自分の文化に近いものを感じられるだろうし、身近な問題として受け取ってもらえるのではないかと思ったんです。

―― インタビューで「どこか遠い国のことにしたくなかった」とおっしゃっていますが、そういう意図があったのですね。個人的には、過去に訪ねたことのあるベネチアのシーンがやはり衝撃でした。

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ベネチア

海南この3つの島のなかではベネチアが一番都会なので、一般的な日本人は、たとえ行ったことがなかったとしても、ここにもっともショックを受けるでしょうね。でも沖縄の友人に言わせると、ツバルが沖縄の離島とものすごく似ていて、一番衝撃的だったらしいです。

―― 製作の3年半の間に島の状況は日々悪化していくわけですよね。その間、どのような気持ちを持ちましたか。

海南ツバルの次にシシマレフにリサーチに行ったのですが、そこで「絶対にこの作品は世の中に出したい」と思うようになりました。でも同時に、サブプライム問題の余波で、アメリカの制作会社の資金がつきてしまったんです。

諦めるか、続けるか、決断を迫られたとき、私はやっぱり諦めたくないと思った。島で出会った人たちの笑顔も忘れられなかったし、2つの島で起きていることの深刻さも感じていた。なによりも私自身、この2つの島のことを好きになっていたんです。だから絶対に作ろうと。

そのあとも何回か資金がなくなって大変でしたが(笑)、なんとか最後までやり遂げました。

3つの島の3つの選択肢

海南最初は島の水没から「逃げ惑う人々」というのが撮れるのかなと考えていたんです。そのほうが映像的にもインパクトがありますし。

でも3つの島に共通していたのは、逃げ惑う人がいなかったこと。逃げ惑うというのは、数年に1度、災害が起きた場合のことなんですよね。彼らにとっては水没は日常であり、水との闘いをどうやって生き抜くかという段階に入っていた。ツバルの子どもたちは水の中で遊んでいたし、ベネチアでは太ももまである長靴を履いて普通に仕事をしていた。そこに私自身、衝撃を受けたし、恐怖を感じたんです。

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ツバル

―― 島の水没がもはや生活の一部になっているんですね。

海南ええ、そうです。共存していくしかないというか。そういう意味では、3つの島で起きていることは「世界の最先端で起きていること」と言えるのではないでしょうか。つまり、島の現状は、これから私たちの住む場所で起こりうる未来の姿なのです。

―― 観る前は、島に住む人々の訴えや被害状況が全面に押し出されているのかと思ったのですが、監督はそこに住む人々の暮らしを丁寧に映し出していくという手法を取られていますね。

海南日常が作品の8割くらいで、被害パートは2割くらい。どうしてこのような形にしたかというと、たとえば戦争や災害が起きたあとの悲惨な状況には世の中の注目が集まりやすいのですが、爆弾が落ちる前、災害が起こる前に、そこにはどんな街があり、人々がどのような暮らしをしていたのかについては、私たちはあまり関心を向けません。

だから今回は、これから起きるかもしれない悲劇の前に、どのような人々がどのような暮らしをし、どのような美しい文化があったのかを丁寧に描こうと思った。それを描くことで、私たちは失いつつあるものの価値を理解できるのではないかと思ったのです。

3つの島を撮影して感じたのですが、私たちはものすごく美しいものに囲まれて暮らしているんですよね。そのことをあらためて感じてほしい。もし100年後にこの作品を見たら、もうすでに失われてしまったものがたくさん映っていると思う。いえ、なくなるか、なくならないかは、これからの私たちの選択にかかっているのですが。

―― 作品の冒頭にあるモノが映されていますが、後半で同じモノが映されたとき、まるで違うものに見えます。監督は「まずは知ること」とおっしゃっていますが、そのモノの持つ意味を知ると違う世界が見えてくるというのは、衝撃的でした。

海南ありがとうございます。そういう発見を観客の皆さん一人ひとりが自分で見つけたり、感じていただけたら嬉しいです。

―― もう一つ、ツバルでは宗教というものが人々の生活に浸透している様子が色濃く映し出されています。子どもたちも親の世代も祖父母の世代も、みんな「神さまが守ってくれる」と言う。でもキリスト教文化圏であるはずのベネチアの人たちは「神」という言葉を口にしませんでした。

海南3つの島の解決を目指す方向がぜんぶ違うんです。それもある意味、人間のさまざまな選択肢の象徴にも感じたのですが・・・。

まず島民の2割が家を失ってしまったシシマレフでは、住民のアラスカ本土への移住が決定しています。ただ、そのための資金がシシマレフだけでは調達しようもなく、途方に暮れているというのが現状です。

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シシマレフ

ベネチアは、莫大なお金をかけて、沖合に巨大な可動式水門を建設しようとしています(*1)、2012年に完成予定で、その名も「モーゼ計画」と言うんですが、建設費用は約42億ユーロ(約4600億円)。イタリア政府が威信を賭けて行っているんです。でも水門だけでこの浸水の問題が果たして解決できるかどうかというのは、ベネチア人たちも懐疑的です。

 (*1)潮の流れを断ち切るため、潟とアドリア海をつなぐ3カ所の水路に幅20メートルの可動式水門78機を建設中。1970年代に計画され、2003年から工事が始まった。

そしてツバルは、さきほどの指摘通り、宗教――信仰ですね。神さまを信じている。しかしその中にも2つの側面があって、表面的には聖書の言葉を信じて、「洪水はノアの方舟の時が最後だ」と思っている。でももう一方では、すでに自分たちの力を超えていることなので、何か大きな、神懸かり的な大きな力が助けてくれるのではないかと信じている。そう祈っているわけです。

―― 海抜の差こそあれ、地球を覆う海は等しく同じなわけだから、島で起きていることは、これから全世界で起こりえる話でもあるわけですよね。

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『ビューティフル アイランズ』(海南友子、角川メディアハウス)

海南沖ノ鳥島がいい例で、前は岩が海面に出ていたのですが、いまは沈んでしまっていて、周りに要塞みたいに石を積み上げて守っています。だから水位は全世界的にあがってきてはいるんですよね。

ただ、科学的にはいろいろなデータがあるので、気候変動だけが理由ではないと言う人も多いです。だから今回は余計な情報は排除して、島の人々が感じている気候変動というものをクローズアップした。すると偶然かもしれませんが、「90年代の半ばくらいから変化を感じる」と、この10年間の大きな変化を3つの島の人々が異口同音に話していたんです。

ナレーションがないので、いっさい映画では触れていないところなんですが、公開と同時に出版する『BUAUTIFUL ISLANDS』ではたくさん書いています。

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ヤシの木

 

私たちのたった一つのアクションが島の未来を左右する

―― 「温暖化」という言葉を一切出していないですよね。使われているのは「気候変動」という言葉。

海南「温暖化」という言葉が一般的になったころというのは、「今年は寒いから温暖化じゃないよね」というようなことを言う人が多かった。でも正しい公用語は「気候変動」。国際条約も「気候変動枠組条約」という名前であり、温かくなることが問題なのではなく、短い期間で激しく気候が変動することが問題なのです。

―― 最近よく感じるのですが、世界で起きている悲劇や不幸を自分の問題として引き受けるのは本当に難しい。そこに行ったことがあるとか、親しい誰かが住んでいるとか、同じ経験をしたとか、そういうコミットメントがないかぎり、人間はなかなか自分自身の問題として引き受けられないイキモノだなと。

海南特に気候変動は、いまやっているアクションとそれで引き起こされる結果がわかりづらいですよね。冷房を1度弱めることによって、電気を消すことによって、移動手段に自家用車を使わないことによって、何が起きるのかよくわからない。

でも私は作品を撮り終わってから、電気を消すときにツバルの姉妹の顔がパッと浮かぶようになったんです。ここにいる自分とツバルの現状が心の中で繋がった。それまでも必要のない電気は消していたけれど、いまは消すことによってあの島を守ることに繋がるのかなと思えるんですよね。

やはりどうしたら気候変動という問題を身近に感じてもらえるか、それを考えながらこの作品を作りましたし、見終わった人々が何か一つでもアクションを起こすようになったら嬉しいです。


次週、後編 「映画を離れて縦横無尽に広がっていく『絆』」に続きます!

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海南友子(かな・ともこ)

1971年東京都生まれ。日本女子大学卒業後、NHKに入局。報道ディレクタ―としてNHKスペシャルなどで環境問題の番組を制作。2000年に独立。主な作品に『マルディエム彼女の人生に起きたこと』(01年)、『にがい涙の大地から』(04年)。07年劇映画のシナリオ『川べりのふたり(仮)』がサンダンス国際映画祭でサンダンスNHK国際映像作家賞を受賞。公式サイト

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