インタビュー・ミシマガ「人」

昨年5月。
京王閣競輪場で行われた「東京蚤の市」というイベントに、足を運びました。
「蚤の市」の名にふさわしく、古本や古道具、手作りの料理など、さまざまな品物をあつかったお店がひしめく中、一心に品物を眺めるお客さんや、おいしそうな料理を頬張るお客さん、それぞれが思い思いの楽しみ方で、イベントを満喫していました。
東京にいながら、せわしない都会での「日常」を忘れさせてくれるような不思議な心地よさを感じられる時間が、そこにはありました。

このイベントの主催者が、「手紙社」です。

自分たちを「編集チーム」として、『自分たちが「ワクワクするかも」と感じたサムシングを、自分たちにしかできないやり方で編集し、よりワクワクしてもらえるようなパッケージにしてお披露目する』ことがしごとだという、手紙社。
「東京蚤の市」をはじめ、送り出すイベント、ひとつひとつから伝わってくるのは「ワクワク感」と同時に、どこかほっとさせられるような「あたたかさ」です。
その温もりは、一体、どこから生まれてくるものなのでしょうか。


東京都調布市。
手紙社は、都心から少しはずれたこの地に、カフェと古本と雑貨の「手紙舎」と、手しごと・紙もの・小道具の「手紙舎」という、ふたつのお店を構えています。今回は、代表の北島勲さんに、手紙社の魅力をじっくりうかがうべくカフェと古本と雑貨の「手紙舎」にお邪魔しました。

(聞き手:星野友里、奥村薫子 文・写真:奥村薫子)

第28回 手紙社 北島勲さん――「作り手たちの交差点」になるような場所をつくる

2013.02.13更新

 つつじヶ丘駅から歩いて10分。神代団地内の広場の一角に、カフェ「手紙舎」はあります。

つつじヶ丘駅から歩いて10分。神代団地内の広場の一角に、カフェ「手紙舎」はあります。

―― 神代団地のなかで、なんだかここだけ異空間のようですね。

北島はじめてここに来て下さるお客さまが、「こんなところにあったんだ!」と驚いてくれると、ちょっと嬉しいですね(笑)。

―― まさに私たちも、その通りの反応をしました(笑)内装も変わっていますね。

北島この物件は本来、住居付き店舗なんです。1階が店舗で2階が住居。現在は1階がカフェと雑貨・古本販売のスペースになっていて、2階を事務所にしています。

つつじヶ丘駅から歩いて10分。神代団地内の広場の一角に、カフェ「手紙舎」はあります。

昨年まではカフェスペースの一角に事務所スペースがあったのです。お客さまが増えてきて、カフェスペースを広げる必要がでてきたので2階に移動したのですが、ついこの間まで、お客さまの隣で仕事をしていたんですよ。あれもまた、面白かったです。

実は、今年の3月に、手紙舎の新しいお店が隣の柴崎駅近くに出来る予定なんです。
 
物販のスペースと、ちいさなカフェスペースも設けて。事務所もそこに移転します。それぞれの活動がよりリンクしあえるような空間にしたいと考えています。

この土地だから表現できる「自分たちらしさ」

―― 柴崎駅ですか。楽しみですね。手紙舎のお店が、つつじヶ丘をはじめ、調布市にあるのはなぜですか?

北島もとからこの地に強い思い入れがあった、というわけではないんですが・・・。私は学生時代に上京してきて、ずっとこのあたりに住んでいます。住みやすい場所だなという印象は、昔から持っていましたね。

同じ「東京」でも、東京のど真ん中に事務所を構えるつもりはなくて。都心からのアクセスもそう悪くなく、かつ、環境のいい場所で仕事をしたいという想いがあり、こういう場所で活動しています。

もし、都心にこの会社があったとしたら。たとえ同じ活動をしていても、目立っていなかったと思います。自分たちと同じような活動をしている集団がほとんどいない地域でやっていることで、目を向けてもらえることも多くなるし、地元の方の協力もいただけているのではないかな、と考えています。
これからも"地元"を大切に活動していきたいと思っています。

―― なるほど。昨年開催されたイベント「東京蚤の市」や「パンフェス」も、調布市の京王閣(競輪場)で行われていましたね。ここを会場に選んだきっかけは何だったんですか?

北島2006年から、多摩川の河川敷で「もみじ市」というイベントを開催しているのですが、一昨年のもみじ市の開催時に、近くにある京王閣がたまたま開放されていて、お手洗いをお借りしたことがあったんです。
はじめてなかに入ったときに、雰囲気が昔の遊園地のようでとても気に入って。京王閣は、かつては一大レジャー施設だったんですね。その名残があって、良い場所だなあと。

その後、調布市役所さんが応援して下さったこともあり、イベント会場として貸していただけることになりました。とても広くて、緑もあるし、座る場所も、屋根付きのスペースもある。私たちから見ると、イベント会場として、とても素晴らしい場所です。

―― 06年から開催しているという「もみじ市」は、どんなイベントですか?

北島言ってみれば、「ものづくり」のフェスティバルですね。
手紙社のルーツのようなイベントです。

―― 「ものづくり」フェスティバルとは?

北島たとえば、昨年行った「東京蚤の市」は、古本屋、古道具屋さんなど、古いものを扱うお店に出店をお願いしているイベントですが、もみじ市での主役は、作り手です。

―― 「手づくり市」のようなものですか?

北島それに近いですね。ただ、「ものづくり」とは、必ずしも「ハンドメイド」だけを意味しません。

ものづくりの「もの」とは、「こころざし」。こころざしを持って何かを生み出している人に、私たちは惹かれます。一人ひとりの作り手が生み出すものの形は様々なので、内容は多彩ですよ。
陶芸家や農家もいれば、パン屋さんもいる。イラストレーターや写真家もいます。

昨年は開催できなかったのですが、毎年、2日間で3万人くらいのお客さんが来ます。手紙社の、一大イベントですね。

イベントというかたちの「編集」

―― 3万人はすごいですね! 出店者は、手紙社のみなさんが選んでいるんですか?

北島そうです。自分たちが良いと思った作り手を、事務局のメンバー一人ひとりが探してきて、そのなかから「もみじ市に出してほしい!」と思う作り手の方にお声掛けをしています。
このステップに一番時間をかけていますね。

私はもともと、雑誌の編集をしていたのですが、こうしたイベントを運営することこそ、まさに「編集」の仕事だと思っています。

―― なるほど。雑誌編集からイベントの「編集」へと、方向転換をされたんですね。

北島自分たちが何かを表現したいときに、出口はいろいろあるので、それをあえてひとつに決めないようにしています。出口のひとつとしてイベントがあって、また他の出口として、本もある。
たとえば鶏肉という素材があったら、それを焼いて出すのか、煮込みにして出すのか。調理するにはさまざまな方法がある。私たちの仕事も、それと同じことだと考えています。

イベントが面白いのは、お客さんの反応がすぐに見えるところ。あとは、「みんなで作り上げていく」という団体競技の楽しさを、感じられるところでしょうか。

第28回 昨年5月。 京王閣競輪場で行われた「東京蚤の市」というイベントに、足を運びました。 「蚤の市」の名にふさわしく、古本や古道具、手づくりの料理など、さまざまな品物をあつかったお店がひしめく中、一心に品物を眺めるお客さんや、おいしそうな料理を頬張るお客さん、それぞれが思い思いの楽しみ方で、イベントを満喫していました。 東京にいながら、忙しない都会での「日常」を忘れさせてくれるような不思議な心地よさを感じられる時間が、そこにはありました。  このイベントの主催者が、「手紙社」です。  自分たちを「編集

『レトロ印刷の本 わら半紙、蛍光インク、ミシン製本・・・かわいくてアジがある印刷の楽しみ』(手紙社著、グラフィック社)

一方で、昨年、久しぶりに著書を出して(『レトロ印刷の本』手紙社著)、「本」が世の中に対してもつ説得力は、やはり特別なものがあるなと感じました。

結果的にはいま、イベントの運営が増えてきていますが、自分たちが「面白いな」と思ったものを、どうパッケージ化したらより面白いものになるか。それを、いつもスタッフみんなで考えています。

手紙社のメンバーは皆、自分たちで仕事をつくっていきたい、表現をしていきたい、という思いを強く持っています。自分たちで考えて、編集して、形にして、責任を負って・・・。そうやって取り組んだ仕事が評価される。これが私たちのモチベーションですね。

つつじヶ丘駅から歩いて10分。神代団地内の広場の一角に、カフェ「手紙舎」はあります。

―― 続いて、カフェと物販のお仕事についても聞かせてください。
場所を設けて、お店をやっていくということには、またイベントとは違う大変さがあると思うのですが・・・。


北島大変ですね(笑)。ビジネスでいう側面だけで考えると、正直この部分がいちばん大変です。イベントの運営や、本作りなどとは違って、お店は毎日、継続してやっていくものだから。
上手くいかないときも、一喜一憂しないことが大切だと感じています。

カフェを始める前、カフェオーナーの先輩方から「近所の人が来てくれるまでには3年かかる」と言われたのですが、やってみたら実際にそうだった。最近、やっと立ち寄ってくれる近隣の方が増えてきました。

雑貨部門でいうと、仕入れてしばらくはまったく売れていなかったのが、あるとき急に売れはじめることもある。お店は本当に、長い目で見て忍耐強くやっていくことが大切だと実感しています。

「作り手たちの交差点」

―― お店を抱えることの大変さ、お話をうかがいながら改めて感じています。

北島ただ、私としては売上げとは別のところで、お店を持つことで大切な部分もあると思っています。

たとえば、手紙舎で扱っている雑貨の作り手さんは、イラストレーターの方やデザイナーの方など、個人の作り手が多い。でも彼らは、大手のメーカーのように販路がきっちりとあるわけではないんですよね。そこで手紙舎の存在価値があるのかなと。

彼ら作り手が、表現者として「自分はこれをつくりたいんだ」というものがあるとき、小さいけれど手紙舎というお店があることで、売る場所がある。

作り手さんとのつながりが命の私たちにとっては、それだけでもお店をやっている意味があります。

かっこいい言い方になってしまうけれど、イベントなども含めて「作り手たちの交差点」になるような場所がつくれればいい、と思っているんです。

つつじヶ丘駅から歩いて10分。神代団地内の広場の一角に、カフェ「手紙舎」はあります。

2009年にお店ができるまでは、おんぼろアパートの一室で活動をしていたんです。そのときは、本当に誰も遊びに来てくれなかった(笑)。
カフェにしても、雑貨店にしても、お店があるということは人が"来やすい"ということなんですよね。

手紙舎の大切なコンテンツのひとつとして、お店はこれからも続けていきたいと思っています。


手紙社
http://tegamisha.com/
カフェと古本と雑貨「手紙舎」
東京都調布市西つつじヶ丘4-23 神代団地35号棟
京王線つつじヶ丘駅南口より徒歩10分
tel 042-426-4383

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北島勲(きたじま・いさお)

群馬県出身の編集者。
大学卒業後、映画監督を目指していたが、あっけなく挫折。「本かも」と思い出版業界へ。
2000年、雑誌『LiVES』を企画・立ち上げ、発行人を務める。
2003年、雑誌『自休自足』を企画・立ち上げ、編集長を務める。
2004年、雑誌『カメラ日和』を企画・立ち上げ、編集長を務める。
2006年秋、クラフト作家・音楽家・料理研究家・イラストレーターなど、様々なジャンルの作り手が集う野外イベント「もみじ市」を企画・開催。
2008年4月、独立して編集チーム「手紙社」を設立。同時にWEBマガジン「今日のお手紙」を創刊。
2009年10月、東京都調布市に「カフェと古本と雑貨 手紙舎」を併設した基地をつくる。手紙社としての著書に『レトロ印刷の本』(グラフィック社)、『かわいい印刷』(パイ インターナショナル)などがある。

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