インタビュー・ミシマガ「人」

丹所千佳さん

『mille』(PHP研究所)

 2013年11月、新たな雑誌がうまれたのをご存知でしょうか?
 その名も『mille』(PHP研究所)。「美と知と抒情を愛する人へ」と銘打たれた、できたてほやほやの雑誌です。なんとこの『mille』、京都にいらっしゃる編集者の方が、おひとりで作られたのだとか!

 ざ、雑誌の創刊を、どうやっておひとりで...?

 新人・新居の頭の中は、疑問と不思議と興味でぱんぱんに膨らんでいました。よし、直接おうかがいしてみよう! ということで、編集長である丹所千佳さんに、いろいろお話をうかがってきました。

(文、写真:新居未希)

第30回 『mille』編集長 丹所千佳さんに、新人編集者が突撃インタビュー!

2013.11.23更新

押しつけじゃなく、提案したい

丹所千佳さん

―― はじめて『mille』を拝見したとき、すごく雑誌から「女の子」のオーラを感じて、正直「これは私の入れる世界じゃないのかもしれない」と思ってしまいました。レースとか女の子っぽいものが、小さい頃からずっと苦手だったんです・・・。

丹所はい!

―― でも、中を拝見して、それはぜんぶ誤解だったな、と反省しました。『mille』には「女の子なんだからこうでしょ」っていうのがまったくないな、と思ったんです。「女の子だからレース好きでしょ」とかそういうのではなくて、「きれいだと思うんですが、どうですか?」という提案だなあ、と感じました。

丹所それはすごく嬉しいです! ありがとうございます。雑誌としての世界観ははっきりと出していますが、押しつけのようになるのはいやだったので。

―― この雑誌を作ろうと思ったきっかけは、どういったものだったのでしょうか?

丹所わかりやすいきっかけがあったというよりは、徐々にわき上がってきた感じですね。私ははじめ、東京で書籍の編集を3年ほど担当していて。そして京都に転勤してきて、月刊誌を担当するようになって、5年がたちました。もちろん毎月手を抜かずにやっているんですが、やっぱり慣れてくると余裕ができるので、その分余力が出てきたというか・・・精神的にも時間的にも、少しゆとりが生まれてきたんですね。一編集部員としてではなく、もし自分で丸々一冊作れるとしたら、どういうものにするかな・・・っていうのが自然と。


好きなものだからこそ。

―― 最初は、どういうイメージで作ってらっしゃったんでしょうか?

丹所千佳さん

丹所原型は、表紙にも書いてある「うれしいことと好きなもの」ですね。なかに出てくる人やものは、実際に私の好きなものではあるんですが、それこそ、これを押しつけようという気はさらさらなくて。「誰もがもっと自分の好きなものを大事にしていいんじゃないかな」というホントに素朴な、愚直な気持ちがあったんです。それが「自由」という言葉にもつながるんですけれど・・・。
 会社や組織にいると、「好きなことをやる」と言うと、どうしても勝手とかわがままというような悪い方にとられがちな面があるかと思うんですが、私は必ずしもそうじゃないと考えていて。「好き」には、自発的っていう意味も含まれています。たとえばみなさんが小さいときに、「宿題やらなきゃなー」と思っているところに、親に「あんた宿題やりなさいよ」って言われたらすごい嫌だったのではないかと。

―― 今やろうとしてんねん!! ってなりますね(笑)。

丹所そうそう! せっかくやろうと思っていたのに、それをくじかれる。本当にやろうとしていたことでさえそうなんだから。同じことをやるのでも、誰かに言われてやるのと、自分からやろうとするのでは、やっぱりモチベーションは違いますよね。
 もちろん、言われてやらなきゃいけないことも社会にはたくさんありますけれど、逆にそういうときでも、いかに自分が楽しんでやれるか、主体的になれるかというのは、どんなことでも大事だなぁ、と。そんなような考えが、根底にありますね。

―― なるほど。

丹所千佳さん

丹所これ(写真)、雑誌の形に至る前のスクラップ帳です。「好き」をテーマにする以上、まずは自分の好きなものを明確化するために、とりあえず思いつくものから集めてみたんです。自分が好きなものって、知ってるようで知らないですね。

―― へぇ~!

丹所ここで、言葉と絵とか写真を組み合わせて見せるものにしようというのが固まっていった気がします。単なる挿絵カットじゃなく、より言葉と絵の結びつきがあるようなものを。

―― うわあ、かわいい...!

丹所千佳さん

丹所あとからこのスクラップを見ると、「女性性」というものが一つテーマとして浮かび上がってくることがとわかりました。それは、いわゆるフェミとか女子力というのとはもう少し違うところにあって...。もっと広義のものになるのかな、女性であることの喜びもあり、切なさもあり。今回の誌面では「女の子の力」としたんですが、それは85歳のおばあちゃんの中にもあるし、男性にもあるものだと思います。ある種の美質を、仮にそういう名前で呼んでみたというか。

―― なるほど。これ、わたしもやろうかな...(ボソッ)。


東京をポンッと出て、わかったもの

―― 『mille』に一貫して感じたのが、東京感が全然ないな、ということでした。多くの雑誌では、「東京では...」というようなものが良かれ悪かれ表に出て、東京を中心に物事を発信していますよね。それか、「Meets Regional」みたいにローカルさを全面に出したものか。そのどちらもあまり感じなくて・・・。

丹所まさに「なんでこの雑誌を作ろうと思ったのか」というのにもつながるんですけど、4年前に東京から離れて京都に来たことは、私にとってはすごく良かったなと思っています。行けば面白いし、東京も好きなんですけどね。でも、当時ずっと東京で仕事をしていたら、わかんなくなっちゃっていただろうなと思うんです。東京という場所は実質的に経済や情報の発信地であり中心地なので、「これが全部」というような感覚になってしまいがちというか・・・。
 あのまま東京にいたら、私のなかでその感覚がもっと強くなってしまっていただろうな、と思います。でも京都に来たことで、本当に当たり前のことなんですけど、色々な土地があるんだなあ、と実感したというか。出版というジャンル自体、まだまだ東京に集中しちゃっていますし。

―― そうですよね。

丹所そこをぽんと出ることで、わかるものが確かにあった。そのあたり、ぜひミシマさんにもうかがってみたいです。それから、同年代の人が自分でお店をやっていたり、好きなことを生業としている人が、京都ではわりと自然にいて。そんな風土(?)も、もしかしたら影響しているかもしれません。


ちょっとしたお楽しみ

―― あの、じつはミシマガジンでも真似したいな、と思ったものがありまして(笑)。著者略歴に「いつまでも変わらずに好きでいると思うもの」のコメントがありますよね。これ、すごくいいな〜とじんわり読んでいました。

丹所わあ、ぜひぜひ! 著者略歴って、必要なんですけど、客観的な情報だけだとどうしても味気ないので、載せる以上は。

―― たとえば著者が毎号あまり変わらない「ミシマガジン」のようなものだと、一回読むともう見ないページになっちゃうから・・・。

丹所千佳さん

丹所もったいない! 略歴を見て、ここからまた別の本に出会ってくれたらいいな...という「広がり」も意識しました。著作を多めに入れたり、最新刊よりは代表作のようなほうを入れたり。コメントも、他愛ない質問なんですけど、これがあることで書き手の方々に親近感がわくかな、と。みなさんのコメント、面白いですよね。短い中にも個性や意外性があるし。

―― そうですよね!! 写真家の川内倫子さんとか、「寒い雪の日にこたつで昼寝」って。

丹所「こんなのでいいですかね...」と言いながら送ってくださったコメントなんですけど、いいですよね! ぐっと親近感。

―― すてきですね〜。エッセイを書かれる写真家さんもいらっしゃいますけど、みんながそうではないので、こういうのを見るとちょっと嬉しくなります。


使う筋肉が違う!

―― 本を作るのと雑誌を作るのは違いますか?

丹所基本は同じだと思います。このたとえが適切かわからないんですけど、書籍から雑誌に替わったときは、「同じ運動をするのでも、使う筋肉が違う」という感覚がありました。

―― ほぉ~。

丹所書籍向きの人と雑誌向きの人がいるだろうなとは思います。雑誌の方が短い期間で並行してやることが多くなるので、そういうのが平気な人、得意な人は雑誌に向いているでしょうし、一人の著者とじっくり付き合って長いスパンで仕上げていくのが得意な人なら、本。雑誌も連載があるので一概には言えないですけどね。あとは実際問題、雑誌の方が、短いページであったとしても、企画を実現しやすいです。著者の方にとっても、いきなり本一冊となるとハードルが高い。「このテーマで本一冊書いてください」「本一冊分語ってください」というのと、記事一本というのは全然違いますし。

―― たしかに。たとえば趣味ついて書いてください、と言っても、それで本一冊書くのと、3000字程度を書くのとは全然違いますもんね。

丹所どう記事として成立させるかを踏まえた上で、「やってみよう」「やりたい」と考えたことをともかくも形にできるっていうのを、早めに経験しておけて良かったと思いますね。
 あとはどこの会社でもだいたいそうだと思うんですが、書籍だとまずは企画を編集会議に通して、さらに上の人とか営業とかの承認も必要なところを、雑誌は編集長がいいって言えばOKなので、やりやすいんです(笑)。


 ・・・この後も長々といろいろ質問をしまくってしまったのですが、すべてに丁寧にお答えしてくださり、「わあ、先輩・・・!!」と感動した次第です。
 お話をうかがっていて感じたのは、丹所さんのそこはかとないパワーと、楽しい! というわくわく感です。自分の興味の範囲だけではなく、やりたいと思ったこと、知りたいと思ったことにどんどん手を伸ばしていく丹所さん。「言葉で言うのは簡単だけど、実際にやるのはなかなか難しい」なんていう、ありきたりな自分への言い訳なんて通用せん! と胸に誓った新人・新居でした。
 東京とはまた違った場所から新しいことに挑戦する、素敵な先輩がこんな近くにいるんやから、学んで学んで学びまくりたいと思います。丹所さん、ご迷惑かと思いますが、引き続きどうぞよろしくお願いいたします!


 そんな素敵編集長・丹所さん率いる『mille』、全国の書店さんで発売中です。ぜひお手にとってみてください!
そしてなんと、『mille』はミシマ社と同じく「直販」もしています。
(取次という本の問屋さんを通さずに、出版社と直接やりとりする方法です)
なので、雑貨屋さんやカフェなどにも卸すことができるんです!
「うちにも置きたい」と興味をもたれた方がいらっしゃれば、ぜひぜひ075-681-4548(PHP研究所の編集部)までご連絡くださいませ。


【おまけ:丹所さんおすすめ、京都の素敵なカフェ】
Café Motage
〒604-0973‬ 京都府京都市中京区 五丁目239-1‬‬‬‬
TEL:075-744-1070
HP:http://www.cafe-montage.com
おすすめひとこと:普段はカフェなのですが、夜や週末にはクラシックのコンサートやお芝居が上演される劇場になります。オーナーの方が、一流の舞台を日常に届けようという志をもたれていて、こういう場所が京都にあることがうれしい。コンサートの前日や昼間は、お茶をしながらリハーサルを聴けることも。お酒とケーキの組み合わせも好きです。

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