インタビュー・ミシマガ「人」

 今年3月に発刊された『今までにない職業をつくる』(甲野善紀)。まさにその書名どおりの「今までにない」働き方を始めた女性がいます。それもたった一人で――。

 その女性とは、nimai-nitai(ニマイ-ニタイ)の廣中桃子さん。フェアトレード*を通じて、貧困に悩むインド・ブッダガヤの支援を続けています。毎年、秋から冬にかけてインドに滞在して現地の女性たちと洋服を作り、春から夏にかけては、日本に帰国してインドから持ち帰った商品を販売。一人奮闘をしてこられたこれまでのことや、現地でのこと、フェアトレードのことなど、現在帰国中の廣中さんに色々とお話をうかがいました。

*(注)フェアトレードとは、直訳すると「公平な貿易」。従来の貿易のように、利潤の最大化が一番の目的ではなく、とりわけ立場の弱い開発途上国の生産者の、自立と生活の向上を目的にした貿易のしくみをいう。商品そのものを消費するのではなく、商品に込められた"精神"を消費する動きが、近年アパレルや食品業界などで盛んに見られるようになってきているが、フェアトレード商品を買うことも、その選択肢の一つ。

(構成:友成響子、写真:中谷利明)

第39回 nimai-nitai 廣中桃子さん

2015.06.03更新


いつも心にあったブッダガヤの存在

「いつか必ず、ブッダガヤに戻ってこよう」
 2007年、大学を卒業する間際に訪れたインドで、そう固く心に誓ったという廣中桃子さん。インド東北部にあるビハール州・ブッダガヤのスジャータ村は、インドの中でも最貧困といわれる地域。学校に通えず物乞いをする子どもたち、仕事がなくアルコールに溺れる大人たち、雨量の少ない乾季になると頻繁に出る餓死者......。身寄りのない子を集めた孤児院でのボランティア活動を通じて、そんな現状を目の当たりにした廣中さんの胸に、自然と沸き起こった思いでした。

 ボランティアを終えて村を出る際、その決意を子どもたちに伝えたところ、「男の子の一人から『外国人はみんな同じことを言うけど、本当に戻ってきてくれた人はだれもいない』と言われました。そのひと言が胸に突き刺さって......。いつか絶対に子どもたちとの約束を果たそう、そう強く思ったんです」。
 
 決意を胸に秘めつつ、社会人2年目に「シサム工房」という、関西を中心にインドをはじめアジアを中心としたフェアトレード商品を扱う会社に転職。ここで4年間働いた経験が、廣中さんの活動の土台になっています。

 シサム工房が運営に関わるインド西部のNGO団体では、現地スタッフ(中にはスラム街から出勤している人もいる)に対し、月給に加えて2〜3カ月分のボーナスを支払えるほどの利益を上げている成功例もあり、「現地の人たちがとにかく満たされている」と感じたそう。 
 そんな活動を目の当たりにして感銘を受ける一方で、廣中さんの頭の片隅からいつも離れなかったのが、再訪を誓ったブッダガヤの村のことでした。

「シサム工房が、時間をかけてビジネスを軌道にのせてきた地域は、すでに満たされている。同じような活動を、もしブッダガヤに立ち上げられれば、彼らの生活が向上するかもしれない。独立して、思い入れの深いブッダガヤで活動していきたいという気持ちが高まりました」


苦労話が尽きない、手探りの1年目

 シサム工房のオーナーからは「やりたいだけやってみたらいい」と応援してもらいつつ、「人生をかけてやるぐらい、相当大変なことだよ」とも言われたそう。周囲から聞こえてくるのも、「絶対に黒字にはならない」「ビジネスとして成り立たないよ」というネガティブな声ばかり。
 廣中さんも、「今から考えたらビジネスのことを何も分かっていなかった。とにかくエネルギーがあり余っていて、勢いだけで動いていましたから」。そう当時を振り返ります。
 
 勢いに任せて2009年にnimai-nitai(ニマイ-ニタイ)を起業。周囲の予想通り、現実は実際に厳しく、起業直後の苦労話は語りだすと尽きないほどです。
「NGOが運営する現地の学校の一部を間借りして、洋服や雑貨など布製品を製作するためのソーイングセンターを立ち上げたのですが、村の女性たちに仕事を、と思うあまり、最初は来た人を全員受け入れてしまって......。その結果、まったく秩序がない状態に陥ってしまいました」
「何十個も用意したはずのハサミや生地などの材料が、なぜかなくなるんです。みんなすぐ家に持ち帰ってしまうんですよ」
「"仕事"という意識が薄く、とくに女子高生くらいの若い女の子たちがたくさん集まると、ノンストップのおしゃべり大会が始まってしまう。もちろん、仕事はぜんぜん進みません」
 ......等々、生産を始める以前の問題に、頭を抱える日々。

 それでも何とか初めての商品を完成させたものの、検品すると7〜8割以上がB級品レベル。「結局、日本に持ち帰って販売するためには、予定よりもかなり価格を下げざるをえませんでした。次の生産を行うためのギリギリの売り上げしかなく、電卓を叩く手は心配でいつも震えているような状態でしたね(笑)」

ソーイングセンターではたらくインドの女性たち



たくさんの壁を乗り越えて

「失敗がいろいろと多すぎた」という初回の生産を教訓に、挑んだ2回目以降。
「受け入れ人数は上限50人」「朝の2時間は訓練も兼ねて、村の女性たちが普段着る服や枕カバーなどを作る時間、それが終わったらnimai-nitaiの製品を作る時間にする」「製品作りに携われるのは、半年間の訓練を終えた女性で、なおかつきちんと仕事に集中できる人だけに限定」......といったルール作りを進めます。
 
「報酬は、給料制にすると頑張らなくなることが分かったので、出来高制にしました。完成した商品をA〜Dの四段階で評価し、ランクに応じた報酬を支払っています。
 2年目からはソーイングセンターのトップに、英語とヒンディー語のできるインド人の男性マネージャーに入ってもらい、彼の通訳で現地の女性たちと細かい会話ができるようになりました。彼とは文化や価値観の違いから衝突することも多いのですが、今年からさらにヒンディー語ができる日本人女性が入ってくれることになり、ずいぶんと意思疎通がしやすくなってきたところです」


フェアトレードに関心のない層にも

 nimai-nitaiが製作しているのは、女性向けのワンピースやスカートなどの衣類や、キッチンクロスなどの布雑貨。それらに共通しているのが、インドの伝統的なブロックプリント(木版)の布や、肌触りの良い天然素材の布が使われていることです。

「インドには、紀元前から伝わっているような製法で、職人さんが手間ひまをかけて作った、美しく上質な布があります。nimai-nitaiの製品は、縫製技術が未熟な部分を、布の魅力がずいぶんカバーしてくれているんです。
 だからこそ布にはこだわりたくて、手工芸が盛んなインド北西部の村に毎年1カ月間ほど滞在して、職人さんたちと直接、色や版など細かい相談をしながら新しい布を仕入れています」

 製品のデザインは、廣中さんが考案しています。

「電気の供給が安定せず、足踏みミシンしか使えない村の環境や縫いやすさ等も考慮して、作りやすいデザインを考えます。心がけているのは、あまりエスニックになりすぎない、シンプルなデザイン。貧困地域の生活を助ける"フェアトレード商品"として見てもらうのではなく、"nimai-nitaiの商品"として好きになってもらいたいんです。
 いまフェアトレードに注目しているのは30代の子育て世代が中心ですが、そこだけをターゲットにしてしまうと、フェアトレード業界内でお客さんを取り合うだけで終わってしまう......。40〜50代の、フェアトレードが何であるかを知らなくても、"良い商品にはきちんとお金を出す"という層に向けた商品を作るなど、もっと市場を広げていきたい。来期からはメンズ商品をスタートできるようサンプルづくりをはじめています」

 フェアトレードを仕事にする上で、課題もまだまだあります。
 一番の課題は、現地である程度の雇用が実現できても、それを支える日本人側が、フェアトレードを収入の柱として生計をたてることが、現状では難しい状態であるということ。
「長く支援するためにも、きちんとビジネスとして成り立たせていかなければと考えています」

nimai-nitaiのお洋服たちの一部。シンプルで着やすくて、かわいい!



人を雇う責任、そしてこれから

 起業して4年目。昨年の3回目の生産は、さまざまな試行錯誤が功を奏し、年度末の決算では黒字に。今年から初めて日本人スタッフも迎え、人を雇うという責任が増した現在の心境を伺いました。

「今年もまた新たな挑戦の年だと思っています。きちんとした待遇で人を雇い続けられたら、ビジネスとしてやっていける、という証明にもなり、このような事業を興す人が今後増えたらと思います。フェアトレードを実現させ、上手く運営している現地組織は、どこも成功するまでに大体20〜30年はかかっているんです。でも、30年かかってでも実現するなら、それでいいと思う。その過程が少しくらい苦しくても、時間をかけて歩んでいこうと考えているところです」

 やわらかに、けれど強い意志と情熱をこめた表情で、そう語る廣中さん。
 話しているだけで、思わず応援したいと思わせる吸引力の持ち主です。きっと多くの人が同じように感じて応援しているからこそ、「すぐに諦めて帰ってくるはず」という当初の予想を良い意味で裏切り続けているのでしょう。
 この先の展開が、本当に楽しみです。


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*インフォメーション*
 京都2箇所で展示があります!


nimai-nitai
「初夏のINDIA展」spring to summer

期間 2015年6月2日(火)〜6月13日(土)
場所 カイドウコーヒー焙煎所
〒610-0102 京都府城陽市久世北垣内87-1
電話 0774-52-9678
定休 日、月

nimai-nitai
「日々のよそいき服 -summer-」

インド・ブッダガヤのスジャータ村でフェアトレードによる洋服作りを始めて3年。
インド伝統の技法を用いた布(ブロックプリント、手紡ぎ手織りカディ)などを使い、"日々のよそいき"をテーマに、ちょっとしたお出かけにも、誰かを招くときの部屋着にも、日々の生活におしゃれを気軽に楽しめるような服を展示販売します。

期間 2015年6月20日(土)〜7月3日(金)
場所 恵文社一乗寺店 生活館ミニギャラリー
〒606-8184 京都市左京区一乗寺仏殿町10
電話 075-711-5919 


*nimai-nitaiのウェブサイト*
http://nimai-nitai.jp/

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ミシマ社編集チーム

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