いささか私的すぎる取材後記

第8回 眠れない7月

2013.08.07更新

6月17日(月)
 将棋会館で第23期女流王位戦5番勝負最終局を取材。弊社が主催している「女流名人位戦」を4連覇中の里見香奈女流五冠がなんとなんと甲斐智美女流四段に敗れ、15度目のタイトル戦で初めて失冠した。神話もいつかは終わる時が・・・とは思っていたが・・・。
 書いた記事を後日読み返すと、文末に「負けて初めて学べることもある」とある。へ? オレ、こんなこと書いたっけ? あの里見さんに訓示をタレるとは、なんとエラソーな・・・。私こそ失敗から学ぶべき人間のはずだが・・・。締切ギリギリに出す原稿の勢い、恐るべし・・・。

6月18日(火)
 日本維新の会・石原慎太郎共同代表インタビュー。いよいよ参院選取材が幕を開ける。橋下徹共同代表との共闘態勢を、とりあえず表向きアピールするのかと思いきや、撮影用に持ってきた橋下氏の大判写真を見るなり「終わったね・・・この人・・・」とポツリ。おいおい。このコメントだけで原稿になっちゃうよ。
 7月に入ってから紙面化する予定だった本インタビューの一部を翌日付に掲載。すると翌朝、一般紙とテレビ局の石原番が石原邸に駆け付け、発言の真意を確かめたとか。それにしても、石原さんに話を聞いていると、出てくる名前が白洲次郎、三島由紀夫など、いちいちビッグネーム。長嶋茂雄さんを「シゲちゃん」と呼ぶ人間がいたとは・・・。

「最近、小説執筆の方はさすがに・・・」
「今でも小説、書いているよ」
「えっ? 今も? どんな作品なんですか?」
「そんなの、発表前に言えないよ」
「そこを何とか」
「・・・・・・」
「お願いします!」
「・・・大恋愛小説だよ」
まだまだお元気です。

6月25日(火)
 第7回で書いた生活の党・小沢一郎代表インタビュー。サッカー話で盛り上がった勢いで、かねてから聞きたかったことを聞く。「総理大臣になりたい思いはあったのでしょうか? なりたいけどなれなかったのか、それともあえてならなかったのか」。剛腕は言った。「僕は総理そのものにはこだわっていません。もともと形式的な地位は好きじゃない。まあ、民主党代表の時は、仕方なく総理になるつもりでしたけど。今でもみんながやれと言えば、どうしても嫌だというわけじゃありません。だけど、あえて自分から『やりたい』と言うほどの未練はない」。話す表情の中に、ちょっとだけ未練を感じた。

7月2日(火)
 日本維新の会・橋下徹共同代表インタビュー。議員会館のタリーズコーヒーで取材の戦略を練っていると、橋下さんが誕生日を迎えたばかりという事実に気付く。「おし、花だ。花を贈ろう」。国会の花屋さんへ走る。記者にカミつくのを得意技とするあの方とて、2秒くらいは心を動かされるに違いない。花ってのは、そーゆーもののはずだ。主人に「橋下さんが思わずしゃべっちゃいたくなるようなのを」とオーダーすると、抱えきれないほどの真っ赤な薔薇をメインとした華やかな花束をつくってくれた。そして、何やら水の入ったパックのようなものを手渡してくれるではないか。「はいコレ、養分がたっぷり入った延命剤。ちゃんと渡してね」。店主~。悪いジョークにもホドがあります。今の情勢で橋下さんに「はい、延命剤です」とは言えんて。
 インタビュー開始。ドアが開いた1秒後に「おめでとうございます」と花束を突きつけた。すると「男の人に祝ってもらってもね~」と言いつつ、スマイル全開。「大阪の家で家族みんなに祝ってもらって。下の子ども4人が絵を書いて壁に張ってくれたりとか。そういうことやってくれたの初めてだったんですよ。家族で過ごすというのは、いちばんリラックスできますね」
 多少の効果はあったかな。

7月3日(水)
 みんなの党公認の茨城選挙区・石原順子氏に水戸でインタビュー。政界入りを目指すワイン醸造家だ。「ワインと政治と人生は似ていて、熟成が大事。ベストタイミングで飲まないと」

7月4日(木)
 参院選について作家・岩井志麻子さんにインタビュー。毎度のことながら、シマコセンセイの言語センスってのは・・・。「アベノミクスは我が家に由々しき事態を招いておりますよ。あたしのダンナ、韓国人のヒモなんですけど、最近あいつ、円安だから『おこづかいはウォンでくだチャイ』って言うようになってもーたんですわ。まったく・・・」

7月8日(月)
 参院選について、ミシマ社から名著『小田嶋隆のコラム道』が絶賛発売中のコラムニスト・小田嶋隆さんにインタビュー。「オダジマさん、オザワさんがザック・ジャパンに『体力ない』とダメ出ししてまして」。「なるほど・・・。選挙における精神論を意識して語っている気がします。ぶっ倒れるまで何万回でも辻立ちをやるんだ、みたいな。小沢流選挙のようなドブ板サッカーを提唱しているのかもしれません。攻撃した後の戻りが遅いことに着目している点など、なかなか・・・。そこそこサッカーに詳しい可能性はありますね」

7月9日(火)
 参院選について、漫画家・コラムニストの辛酸なめ子さんにインタビュー。毎度のことながら、なめ子センセイの批評眼たるや・・・。「渡辺美樹さんのワタミにはブラック企業疑惑がありますが、厳しい人が入ることによって参院が引き締まる可能性もあるのでは・・・。居眠りしている人を叩き起こしてくれるかもしれません」

7月11日(木)
 参院選について、無所属候補を観察した映画「選挙2」が公開中の想田和弘監督にインタビュー。偶然にも、同時期のミシマガジン「今月の特集」にも登場していたカントクさん。人間的魅力の塊のような人物であった。
 「選挙になると思うのは、なんでみんなしてスーツ着てタスキを掛けるコスプレをするのかということ。僕なら絶対イヤです。リクルートスーツが企業文化に対する服従なら、あれは政治文化への屈服。あの破壊的効果をもたらすカルチャーこそがまともな人を政治から遠ざけていると思います」

7月12日(金)
 参院選について、泡沫候補の真実に迫った映画「立候補」が公開中の藤岡利充監督にインタビュー。熱い。彼のマインドに通底しているのは「青春」の2文字であるように思えた。「僕、34歳の時に『よし、ちゃんと映画を撮ろう。やるからにはアカデミー賞を取ろう』と思っちゃったんです。夢みたいなこと言うなって言われるだろうけど、もっとみんなからバカにされてるのに戦ってる人もいるだろう、と思って泡沫候補の方に会おうと。僕も映画監督の泡沫候補ですから、人生の立候補をするために撮り、敵わない敵との戦い方を学びました」

 続いて、これまた参院選について、デーブ・スペクターさんにインタビュー。何を隠そう、デーブギャグは私のツボなのである。
 「党首討論がつまんないよ。あれイミない。戦う場所のはずなのに仲良すぎだよ。プロレスの地方巡業みたい。『先輩っ、コーヒーごちそうさまッス! 明日よろしくお願いしまッス!』みたいな。ペットショップで飼われたハムスターみたいな党首ばっかり。隣人にかみつくドーベルマンみたいな人がなんでいないのかなあ。あっ、いいこと考えた! 討論当日のごはんをおにぎり1個にして、冷房も消してイライラさせるってのはどうかな。議論が白熱するかもしれないよ。子供時代の恥ずかしい写真を見せながらやるってのもいいかもね」

 さらに続いて、東大卒プロボウラーのみんなの党比例・山本幸治氏にインタビュー。選挙の話もそこそこに、ボウリングのコツを教わる。「ボウリングは腕力で投げるものじゃありません。重力で投げるものなのです」

7月13日(土)
 参院選について、AKB48・高橋みなみ総監督にインタビュー。彼女のリーダー論を、安倍首相にも聞いてもらいたかった。「秋元さんに『思ったことは言う。嫌われる勇気を持ちなさい。誰からもいい人、というのはある意味どうでもいい人なんだよ』っていただいたメールの言葉を大切にしています。だから意識が低いメンバーがいたときに『帰れよ!』って言ったこともあります。だから、メンバーでも私のことを好きな人は好きでいてくれますけど、嫌いな人は嫌いだと思います」

7月18日(木)
 緑の党比例のミュージシャン・三宅洋平氏にインタビュー。いわゆる普通の選挙運動を全くせず「選挙フェス」なるライブを各地で開催し、ネットを媒介にして支持を拡散させていった候補者だ。「みんな本当は政治を語る舞台を待っていたんです。僕の当落に関係なく、もうムーブメントは政治勢力になっていると思います。ただ、政権を打倒したいわけじゃないんです。自民党の議員だって、人と人としてなら付き合える。国会でなら最強のロビー活動が出来る。僕が入って市民の意見を混ぜてもらうことはできるんじゃないかと思ってるんです」。結果、17万票を超える異例の支持を集めたが、政党として議席を得られずに落選。今後の動向を注目したい人だ。ちなみに、想田監督、藤岡監督は「撮ってみたい候補者」として真っ先に三宅氏の名を挙げていた。

7月21日(日)
 投開票日。東京選挙区の無所属・山本太郎氏の事務所へ。午後9時過ぎ、当確。事務所内は酸欠状態。ヒイヒイ言いながら午前2時まで取材。

7月22日(月)
 一夜明け取材を終えた後、深夜の将棋会館へ。第61期王座戦の挑戦者決定戦は中村太地六段と郷田真隆九段との一局。震える。詳細は次回書こうと思っております。

7月23日(火)
 デーブ・スペクターさんの奥さんで所属事務所社長の京子スペクターさんが新刊を出したため著者インタビュー。デーブさんがツイッターでつぶやき続けているギャグについて好みが一致する。最近のお気に入りはコレ。「サーファーが注文する牛丼→なみ」

7月26日(金)
 旅人・蔵前仁一さんインタビュー。ずっと会いたかった人。想像の通りステキな人だ。新聞未掲載により内容はヒミツ。

7月31日(水)
 元巨人・桑田真澄さんが栃木・那須町で開催した野球教室を取材。約1年ぶりの18番。子供たちの前で現役時代さながらのピッチングやフィールディングを披露して「グラウンドではボールに食らいついて、クラスでは授業に食らいつく。そして人生にも食らいついていってほしい」とのメッセージを送っていた。オレは人生に食らいついているだろうかと、しばし自問。

8月1日(木)
 新芥川賞作家・藤野可織さんインタビュー。こちらも未掲載につき内容はヒミツだが「新芥川賞作家がセレクトするホラー映画オールタイムベスト5」などを聞く。気になる方は新聞買って読んでみて下さい。


 あ、気づいたら8月か。長い長い7月は終わった。
 まずは眠ろう。何も考えず、泥のように。
 人生に食らいつくのは、きっと目覚めた後からでも間に合う。



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北野新太(きたの・あらた)

1980年、石川県生まれ。学習院大学在学時に雑誌「SWITCH」で編集を学び、2002年に報知新聞社入社。以来、記者として編集局勤務。運動第一部読売巨人軍担当などを経て、文化社会部に在籍。2010年より主催棋戦の女流名人戦を担当。2014年、NHK将棋講座テキスト「第63回NHK杯テレビ将棋トーナメント準々決勝 丸山忠久九段 対 三浦弘行九段『疾駆する馬』」で第26回将棋ペンクラブ大賞観戦記部門大賞受賞。シリーズ「コーヒーと一冊」にて初となる単著『透明の棋士』を著す。

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