いささか私的すぎる取材後記

第14回 彼女が語る陽水

2013.10.16更新

 えっ。結婚のお祝いなんていただけるんですか!? 有難うございまーす。うれし~。何の文庫本ですか、コレ? 沢木耕太郎さんの「若き実力者たち」。へ~、パパが解説文を書いてるんですか。知らなかった。確かに文章はうまいですからね。へ~・・・・・・やっぱり書き出しからズルいです。あの人、ズルいんです。
 打ちっ放しに行っても、ボウリングに行っても、バッティングセンターに行っても、何やらせてもうまいんですよ。意外と足も長いですしね・・・。ボイストレーニングなんてしてるとこ見たことなくて、ライブの前なんてビートルズの「ツイスト・アンド・シャウト」をシェケナベイベ~って一瞬歌って終わりですからね。
 小さい頃は、パパって何している人なんだろうって思ってました。ずーっと家にいないし、いるときはテレビばっか見てるんです。ウチのお金は大丈夫か、と思ってました。枕元にカセットレコーダーを置いて、何か思いついたら吹き込んだりしてましたし、好きな言葉を見つけたらメモとかしてました。忍者ハットリ君の歌をオリジナルでつくってくれたり。いつもギターに触れていたような気がします。もちろん小学校の時から父の音楽を聴くようになって「娘がねじれる時」って何~? とか思ってましたね。自宅でサングラス? さすがにしませんよ・・・。メガネはありますけど。

 やっぱり父のことを言われることが嫌な時期もありましたよ。中学と高校の最初ぐらいかな。どれどれ、井上陽水の娘ってどのコ? みたいな感じでクラスに見に来たりしますから、トイレに隠れてたりしました。まあ、文化祭の前夜祭にシークレットで出てくれたりもして「傘がない」とか歌ってくれたんですけど、みんな喜んでくれてうれしかったですね。先生たちの方が喜んでましたけど・・・。
 デビューした直後も聞かれるのは陽水さんのことばっかり。最初はイヤでしたけど、やっぱり音楽的に偉大な人だと思いますから。今は誇りに思っています。
 毎日一緒にゴハンを食べる家庭ではないですけど、ワクワクする家です。横浜中華街にいるのに、陽水さんが突然『福井に蟹を食べに行こう』って言い出したり。気がついたら羽田空港なんです。北海道とか沖縄とかじゃないのが父、と言いますか・・・。彼氏を紹介すると、必ず聞いてくるのが「バルト三国って知ってる?」ですからね。

 (石川)セリさんもセリさんで、こないだ家族で大磯ロングビーチに行ったんですけど、帰る時に「もう一泊したい」って泣くんですよね。ココで泣く!? もう2泊もしたし!! ・・・みたいな。父は「みんな仕事があるんだからさぁ~」てなだめてましたけど、セリさんのそんなところが陽水さんは好きなんだと思います。チャーミングポイントですからね。
 「招待状のないショー」・・・。最高ですよね。あのスポットライトにポツンと立っている感じがたまらないです。家族的には「声よ~」のところの声が出るかどうか心配になる曲でもあるんですけど・・・。あとは「覚めない夢」とか「自然に飾られて」とか「移動電話」とかも好きですね。「甘い言葉ダーリン」? え~知らないです。何ですか~ソレ~。聴いてみよ~っと。
 セリさんからは「たくさん感動しなさい」と教えられ、陽水さんからは「たくさん泣きなさい」と教えられました。私の娘にも、おじいちゃんおばあちゃんだからこそ教えてくれることを伝えてほしいと思いますよ。孫にデレデレ? いや、デレデレに甘い感じではないんですけど、やっぱり溺愛してます。娘が発表会で「崖の上のポニョ」を歌った時は「すごいよ・・・。『ポーニョポーニョポニョ』のピッチが完璧だよ・・・。CDかと思った」とか言ってました。
 今日これから父に会うので、さっきこんな記者さんに会ったよ、と伝えておきます。本を見せたら喜ぶと思いますよ。ビートルズのカバーアルバム? それ、考えていたみたいなんですよ。言っておきます。私、陽水さんのことが好きな人を増やすのが活動の裏テーマなんですよ。

 依布サラサへのインタビューを終えた夜、私は淡い期待を抱いた。滑稽な願望と理解しながらも、もしかしたらと思ってしまったのだ。
 しかし・・・。秋風が吹き、雨が舞い、台風が近づいても、井上陽水からの電話はまだ鳴らない。


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北野新太(きたの・あらた)

1980年、石川県生まれ。学習院大学在学時に雑誌「SWITCH」で編集を学び、2002年に報知新聞社入社。以来、記者として編集局勤務。運動第一部読売巨人軍担当などを経て、文化社会部に在籍。2010年より主催棋戦の女流名人戦を担当。2014年、NHK将棋講座テキスト「第63回NHK杯テレビ将棋トーナメント準々決勝 丸山忠久九段 対 三浦弘行九段『疾駆する馬』」で第26回将棋ペンクラブ大賞観戦記部門大賞受賞。シリーズ「コーヒーと一冊」にて初となる単著『透明の棋士』を著す。

透明の棋士

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