いささか私的すぎる取材後記

第24回 かくして剛腕は豪快に散った

2014.03.07更新

 去る2月に「第1回囲碁電王戦」なるイベントが開催された。電王戦? なんか聞いたことあるゾ、と思われた方は鋭い。将棋の棋士とコンピューターが対決して話題になったアレだ。
 今回、囲碁でもやってみましょうかということになったのだが、実力が拮抗している将棋に対して囲碁のコンピューターはまだまだプロレベルに達していないということで、アマ六段の実力を誇る生活の党・小沢一郎代表に白羽の矢が立てられた。将棋はあれだけガチンコ勝負なのに、こっちはなんだかユーモラスな雰囲気になっちゃったなあと思わないでもなかったが、コレはコレでおもしろい。だってオザワさんですからね。発表を受け、私が「人類の威信を懸けて!? 小沢氏がコンピューターと激突!!」と書いたことは言うまでもない。

 コンピューターソフト「Zen」との対決当日。気合の和服姿で登場した小沢氏は、対局前こそ「戦う前から足がシビレちゃったよ」と報道陣の笑いを誘う余裕を見せていたが、勝負が始まると表情が曇っていく。何やら、序盤から陣地を大きく取ろうとする大胆な構想を披露したようなのだが、あっさりと攻略されてしまい、一気に絶望的な局面を迎えてしまったらしいのだ。

 1時間ほど戦った後、あえなく投了。
 小沢氏は鼻をチーンとかんだ後、敗局を振り返った。
「いやいや。こういう碁は最近めったに打たないんだけどね。おもしろいんだけど、逃げられちゃうとおしまいになっちゃうね。今日はコンピューターがどんな碁を打つかと思っておもしろくやろうと思ったんだけども。遊びの碁だよ。フツーにマジメに打ってればね」
実力負けを認めないコメントが「剛腕」らしい。
「久しぶりに和服を着たんだけど、年取ると寒いね。ホカロンいっぱい貼ってね」
報道陣一同、沈黙。
 質問タイムが打ち切られそうな空気だったので、聞いてみた。
「小沢先生、悔しさはあまり...?」
すると、小沢氏は私の方向を向き、満面の笑顔で答えた。
「迂闊だね。バタバタ打っちゃった。途中で勘定すればね」
 あの...質問に答えてくれてないスよ...と思いつつ「じゃ、次はいつもの碁で勝負しますか?」と畳み掛けた。
「そうねえ。あ、いや、でもこの碁で勝ちたい気もするね。勝ったら楽しい気もするねえ」
 なんとガンコな...。
 すっくと立ち上がった小沢氏は「あ~おもしろかった~。ありがとうございました~」とたいそう満足した顔で対局室を後にした。

 結局、小沢氏の敗北は人間側が喫した唯一の黒星となってしまった。
 リベンジの機会があった場合、平成の闇将軍がどんな戦いを見せるか、ちょっと楽しみだったりもする。


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北野新太(きたの・あらた)

1980年、石川県生まれ。学習院大学在学時に雑誌「SWITCH」で編集を学び、2002年に報知新聞社入社。以来、記者として編集局勤務。運動第一部読売巨人軍担当などを経て、文化社会部に在籍。2010年より主催棋戦の女流名人戦を担当。2014年、NHK将棋講座テキスト「第63回NHK杯テレビ将棋トーナメント準々決勝 丸山忠久九段 対 三浦弘行九段『疾駆する馬』」で第26回将棋ペンクラブ大賞観戦記部門大賞受賞。シリーズ「コーヒーと一冊」にて初となる単著『透明の棋士』を著す。

透明の棋士

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