いささか私的すぎる取材後記

第46回 光のクリスマス

2015.12.11更新



 うん。ちょっと悔しいです。
 でも最初だから。
 またチャンス、あると思う。
 上達したいですね、きっと。
 ちょっと緊張したかな。
 最初のデビュー戦だから、ちょっとでも間違えたら、って。
 いい将棋を指したかったです。
 でも指せたかな。
 時間、使いすぎましたね。
 女流王座戦で一度は指したけど、2時間と3時間の将棋、違いますから。
 山口さんとは2年前も指したことがあります。
 リベンジしたいと思いましたけど、出来なかったですね。
 うん。同い年。
 このあいだ、イベントに一緒に出て、いろいろアドバイスをしてもらいました。
 女流名人と名人は、ちょっと違うかな。
 ...ゴメンナサイ。
 でも最初のタイトルですからね。
 いちばん大切かもしれない。
 
 うん。もうすぐ帰ります。
 ポーランドではクリスマスがいちばん大切です。
 時々...日本に戻りたくなくなる時、あります。
 毎年、1週間か2週間だけ過ごして、帰る前に(おどけて涙を拭く仕草)。
 半年会えない間に、誰かが死んじゃったらもう会えないんだって思います。
 一度、おばあちゃんが体調を崩したことがありますけど、私は日本にいるから何も出来なかった。
 ...でも、もう決めたから。
 いろんなサクリファイスをしました。
 けど、もうここしかない。
 って考えたら、今日の負けは悔しいかな。
 将棋に興味を持って頑張っている友達がたくさんいます。
 写真だけ見ていますけど、帰ったらたくさん教えたいです。
 子供を見るお母さんみたいに。
 イヴは昼から夜までパーティーが続きます。
 今年はこんなことがあったね、って家族と話す時間です。
 (沈黙)
 でも今は...将棋がいちばん。
 2級にならないといけない。
 2級になることに集中します。
 将棋と出会ったこと?
 もちろん、よかった。
 いろいろな友達をつくって、いろいろな経験をして、日本に来て、違う文化を見ました。
 とてもいいことだったと思います。
 将棋は苦しい。
 でも楽しいですね。
 上達できると思います。
 強くなれると思う。


 12月2日、第43期岡田美術館杯女流名人戦予選でカロリーナ・ステチェンスカ女流3級は山口恵梨子女流初段に敗れ、デビュー戦を飾ることは出来なかった。
 感想戦を終えた後、話を聞いた。
 流暢になった日本語に驚きながら、思い出したのは来日直後に聞いた彼女の言葉だった。
 「棋士は将棋を指す侍。だから棋士というのだと思います」


 ワルシャワのクリスマスには光と雪が降るらしい。きっと彼女にとって、束の間の優しい夜になるだろう。

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北野新太(きたの・あらた)

1980年、石川県生まれ。学習院大学在学時に雑誌「SWITCH」で編集を学び、2002年に報知新聞社入社。以来、記者として編集局勤務。運動第一部読売巨人軍担当などを経て、文化社会部に在籍。2010年より主催棋戦の女流名人戦を担当。2014年、NHK将棋講座テキスト「第63回NHK杯テレビ将棋トーナメント準々決勝 丸山忠久九段 対 三浦弘行九段『疾駆する馬』」で第26回将棋ペンクラブ大賞観戦記部門大賞受賞。シリーズ「コーヒーと一冊」にて初となる単著『透明の棋士』を著す。

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