いささか私的すぎる取材後記

第38回 私的会社案内

2015.03.13更新


 嘲笑されることは分かっていました。
 もちろん分かっていましたけど...突っ走りました。スポーツ新聞の記者を10年以上もやっておりますと、もう恥も外聞もないやい、という気高き鈍感さが自然と身に付くものです。まあ、実は繊細さや鋭敏さといった大切な何かを失っただけなのかも知れませんが...。

 もう2カ月ほど前になりますでしょうか。第152回直木賞受賞決定会見でのことです。
 「サラバ!」での受賞が決まった西加奈子さんへの質疑応答が20分ほど続いた後、司会者の男性が「じゃ、どなたか最後の質問を」と言った時、私、待ってましたとばかりに...いや「とばかりに」じゃなくて、完全に待ちに待った状態でハイハイハ~イ!と手を高々と挙げたのです。
 もちろん、司会者の目の前の席を陣取り、スタンバイしていたことは言うまでもありません。私は最初から最後の質問に...変な日本語になりましたが...全てを賭けていたのです。
 会見なりインタビューのそれぞれの質問には、投げ掛けるのに適したタイミングというものが存在します。私がしようとしていた質問は「どなたか最後の質問を」以外の時間帯には全く適さないタイプのものでした。
 垂直に伸ばした右手と目力で訴え、質問の権利をもぎとった私は、マイクを受け取り「報知新聞の北野と申します」と名乗ると、0・5秒ほどフゥと息を吸い込んだ後、壇上の西さんに尋ねました。「柔らかい質問で恐縮なのですが...大変なプロレス好きと伺いました。あらためてプロレスの魅力や、影響というほどではないにしても、プロレスが与えたものについて伺えますでしょうか」と。
 案の定、200人ほどの記者たちで埋め尽くされた会場はゲラゲラ、ブヒャヒャといった笑い声に包まれました。エンターテイメント界の最高峰に立ったばかりの人に「プロレスが与えてくれたもの」を尋ねたのですからね。無理もありません。嘲笑に冷笑、侮蔑の視線すら感じましたが、少なくとも明るい雰囲気になったのは間違いないのだからヨシとしてくれよと。楽しい気分でした。

 ただ、私は何もふざけていたわけではありません。西さんの受賞が決定してからの30分ほどの間、あちこちの知人に聴き取り調査を行ったり、過去の新聞や雑誌に掲載された記事を検索したりして「西さんにひとつだけ質問するならプロレスだ」という結論に達したのです。実のある答えを引き出すための最良の問いなのだと。
 なので、ある程度は予想と期待をしておりましたが、西さんは非常に真摯に、私の想定を20倍は上回るような回答をしてくれました。あまりに素晴らしい言葉だったので、以下にまとめてみました。
 
 ずっと好きで見ていたんですけど、特に最近になってからは勝手にプロレスと自分たち作家の状況を照らし合わせるようになりました。
 新日本プロレスが大好きなんですけど、新日はアントニオ猪木さん、蝶野正洋さんとかのスターがいた時代の後、ずっと低迷していたんです。そんな時期に出ていたのが棚橋弘至さんで...この話、大丈夫ですか?(会場笑)
 毎年1月4日のある東京ドーム大会にはだいたい行くんですけど、私が作家になった頃は全然人が少なくて、棚橋選手もチャラいとかって言われたり、ベビーフェイスやのにブーイングを浴びる選手だったんですね。
 でも、いつの間にか新日本プロレスってムチャクチャ盛り上がるようになったんです。棚橋選手、真壁選手、中邑選手が全力でプロレスを愛して来られて、全力で素晴らしい試合を見せてきて、いつの間にか。
 で、今があるんですね。去年、1月4日のドームに行った時、人でギチギチになっていて、棚橋さんは「プロレスを信じてやってきて良かったです!」って仰ったんです。
 そんなようなことを私は文学界に勝手に当てはめているんです。たとえば飲み屋で会ったおじさんに「太宰で終わった」「最近の作家なんて読めへん」って言われたり「作家なんて、やってるだけでダサい」なんて言われたこともありますけど、でも今、すごい選手...選手って言いたいんですけど、すごい選手がそろっているんです。だから絶対にもっと盛り上がると思っていて...いつか小説を信じて良かったって言いたくて...うん。
 だからプロレスからはムチャクチャ勇気をいただいてます。ハイ。私、何の話をしているんでしょう(笑)。

 私は思わず「素晴らしい答えをありがとうございました」とお礼をしていました。その時、もう笑う人はいませんでした。

 さっき(3月13日朝)終わったNHKの「あさイチ」に西さんと棚橋選手が出演されたみたいですね。すごく傲慢な言い方をすると、あの時、私が質問をしていなかったら「あさイチ」で2人が共演することはなかったような気がしたりもするのです。

 今年、弊社は定期採用をするようです。我こそはと思われる方、どしどしご応募下さい。斜陽産業だし、時々は嘲笑されたりもするけれど、楽しい仕事です。

お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

北野新太(きたの・あらた)

1980年、石川県生まれ。学習院大学在学時に雑誌「SWITCH」で編集を学び、2002年に報知新聞社入社。以来、記者として編集局勤務。運動第一部読売巨人軍担当などを経て、文化社会部に在籍。2010年より主催棋戦の女流名人戦を担当。2014年、NHK将棋講座テキスト「第63回NHK杯テレビ将棋トーナメント準々決勝 丸山忠久九段 対 三浦弘行九段『疾駆する馬』」で第26回将棋ペンクラブ大賞観戦記部門大賞受賞。シリーズ「コーヒーと一冊」にて初となる単著『透明の棋士』を著す。

透明の棋士

バックナンバー