いささか私的すぎる取材後記

第61回 彼の詩を紹介させてください

2017.06.09更新

 7日の夜、たいそう驚くとともにたいそう喜ばしいメールが届いた。気が付いたのは8日の朝だった。
 心優しい編集者が「もうご存じかと思いましたが、お知らせまで」とわざわざ連絡してくれたことがまずもって嬉しかったが、連絡してくれた内容も心の底から嬉しかった。というより、たまげた。8日発売の週刊文春の「私の読書日記」で歌人の穂村弘さんが拙書『透明の棋士』を紹介して下さったらしいのだ。
 驚き、嬉しかったのは5つの理由がある。まず、身に余る評をいただいたこと。次に、もう2年も前に発刊された本をわざわざ紹介していただいたこと。続いて、週刊文春は10年以上毎週購入する媒体で「私の読書日記」もおおむね読んでいたこと。さらに、もともと歌人としてエッセイストとしての穂村さんの持つ世界観に惹かれていたこと。最後に、これが最も驚くべきことなのだが、たった4、5日前に妻に「これ読んでみてくれ。サイコーにケッサクだから」と穂村さんの詩を読んでもらったばかりだったからだ。
 詩を勝手に引用して掲載するのも何かと思ったが、感謝の思いを伝える趣旨ということで、穂村さんなら許していただけるのではないかと信じ、紹介させていただこうと思う。久しぶりに発見した穂村さんの文庫本「求愛瞳孔反射」(河出文庫)に収録されている一編で、まさに傑作、ではなくケッサクだと長らく思っている。
 当然だが、私は穂村さんの連絡先を知らない。SNSも行っていないため、すぐに感謝と驚きと喜びの思いを伝える手段がないのだが、もし本稿を読んだ方の中で穂村さん、あるいは穂村さんに関係する方に連絡できるような方、よろしければ「北野なる記者が穂村さんに感謝してましたよ。しかも詩を紹介してました」とお伝えいただけないでしょうか...。


デニーズ・ラヴ/穂村弘

メニューの方はお下げしてもよろしいですか。
うん、いいよ。
失礼します。
待って。あんたはいかないで。
でも、メニューの方をお下げしないと。
ここから、投げ返せばいいよ。
届くかしら。
だいじょうぶ、ほら。
まあ。
どう?
でも、あたしが戻らないとあなたのオーダーが通らないわ。
いいんだ。あんたがここにいてくれれば、舞茸とごぼうのピリ辛サラダなんて。
でも、ケイジャンジャンバラヤとさくさく蜂蜜パルフェが。
いいんだ。あんたがいてくれれば、何もいらない。
ほんとう? 宇治冷緑茶も?
うん。
信じるわよ。
信じて。ここに座って。
ええ。
僕の目を見て。笑わないで。
見てるわ。笑わない。
愛してるよ。
あたしも。
ああ、ウエイトレスさん。
お客さん。
ほら、指を出して。
まあ、素敵なキュービック・ジルコニア。
ごめん、ダイヤなんだ。
ダイヤも好きよ。綺麗ね。
似合うよ。
ありがとう。
僕の目を見て。笑わないで。
見てるわ。笑わない。
愛してるよ。
あたしも。
ウエイトレスさん、可愛いウエイトレスさん。
お客さん、禁煙席のお客さん。
幸せになろうね。
ええ。珈琲のお替わりはいかが?

『求愛瞳孔反射』(河出文庫)より

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北野新太(きたの・あらた)

1980年、石川県生まれ。学習院大学在学時に雑誌「SWITCH」で編集を学び、2002年に報知新聞社入社。以来、記者として編集局勤務。運動第一部読売巨人軍担当などを経て、文化社会部に在籍。2010年より主催棋戦の女流名人戦を担当。2014年、NHK将棋講座テキスト「第63回NHK杯テレビ将棋トーナメント準々決勝 丸山忠久九段 対 三浦弘行九段『疾駆する馬』」で第26回将棋ペンクラブ大賞観戦記部門大賞受賞。シリーズ「コーヒーと一冊」にて初となる単著『透明の棋士』を著す。

透明の棋士

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