石井光太&寺子屋ミシマ社

第1回 石井光太&寺子屋ミシマ社プロジェクト、スタート

2010.01.12更新

『物乞う仏陀』(文藝春秋)で鮮烈なデビューを飾った若きノンフィクション作家・石井光太氏。

アジアの路上で物乞う人々を体当たりで取材し、世界の貧困の最深部に分け入った同作は、その地を這うような目線と卓越した表現によって、瞠目すべき新しい書き手がノンフィクション界に現れたことを世に知らしめた。

その後も石井氏は、『神の棄てた裸体-イスラームの夜を歩く』(新潮社)、『絶対貧困-世界最貧民の目線』(光文社)などの作品で、世界の底でたくましく生きる人々の姿をいきいきと描き、ノンフィクションの世界に誰も見たことがない地平を切り開いている。

2009年12月12日土曜日。
自由が丘のミシマ社の古びた社屋で、一つの出版企画がスタートした。
その名も、「石井光太&寺子屋ミシマ社 プロジェクト」。

ミシマ社ではこれまで、定期的に「出版の仕事を一日で体験できるワークショップ」として、寺子屋ミシマ社というイベントを開催してきた。

今回のプロジェクトは、その超・実践編として、実際に石井光太氏とともに、一冊のノンフィクションを作り上げようという試みだ。もちろんできあがった本は、ミシマ社から全国の書店で発売される。遊びでも、編集の勉強のための本作りでもなく、「面白く、10年経っても残り、そして売れる本」を作ることを目指す。

今回のプロジェクトについて、石井氏は自らのブログに事前にこう記している。

<ノンフィクションに必要な情報というのは、あればあるほどいい。ここまであればOKということはない。100あるより1000。1000あるより10000の情報が必要なのだ。
一年の取材期間の中で作者一人が調べられる情報なんてたがか知れている。たとえば、100としよう。もし編集者が手分けしてやってくれれば、これが200になる。こうなれば、書き手の側からすれば、単純計算して一人でやるより二倍面白い材料が見つかることになる。
となれば、当然、そっちの方がいいに決まっているのである。>

<ミシマ社では、数カ月おきに「寺小屋」というものを開催している。
編集希望者などを20~30人ほど集めて、一日でテーマ作りから営業まで出版のイロハを教えるというイベントを行っているのだ。
編集者になりたい学生や、編プロの社員や、書店員の方や、デザイナーなどが参加して、それをするのである。本作りの一日バーチャル体験みたいなものだ。

僕は、これに目をつけた。
この寺小屋に本作りを体験したいやる気のある人が集まっているなら、彼らと一緒に本をつくればいいじゃないか。バーチャル体験ではなく、実際に僕がミシマ社でつくる本に企画から営業まですべて携わってもらえばいいのではないか。
そうすれば、ミシマ社はノンフィクションを出せるし、僕は手伝ってもらえる人ができるし、参会者は実際の本作りの1~10をすべて実体験できる上に実績まで得られる。
バーチャル体験の企画を、リアル体験の企画に変えてしまうということである。

今年の夏、最初に渋谷でお会いした時に、軽くその話をした。なかなかの好印象。
そして、翌月、新宿のマルイだったかルミネだったかにあるカフェで三島さんと二回目の打ち合わせをした時、具体的に提案してみた。
幸いなことに、三島さんはノリノリになった。こうなれば、やるしかない。というわけで、二人で詳細をつめていき、今回それが実現することとなった。

実際にどうなるかはやってみなければわからないが、誰もやっていないことをやることでしか、新しい道は開けない。
これが僕のモットーである。とにかく、やってみてダメならダメでいいし、うまくいけばうまくいくでOK。成功するかどうかはイスラーム教徒のように「インシュアッラー(神の思し召しのままに)」というわけである。>


第一回目の会合の参加者募集は、ミシマ社のウェブサイト上にある三島のブログと、石井氏のブログ上で行われた。

いつもの寺子屋ミシマ社は「どなたでも大歓迎」だが、今回は本当に本を出版するところまで持って行くため、より「本気度」の高い人々に集まってもらいたい。
そこで参加者へは事前に、次の告知が行われた。

■企画についてのお願い
参加者は、あらかじめ企画を3つ以上考えてください。
その際、以下を守るようお願いいたします。
・「石井氏の著作として読者が読みたがるテーマ」であること。
・あなたが執筆にあたって、取材者として取材可能なテーマであること。
 (実際に、「本参加」の場合は、参加者に取材してもらいます)
・取材期間は2カ月~5カ月ほどを予定しています。
・単行本として、ベストセラーになると思われるテーマであること。
・重い内容でも、軽い内容でも可。
※テーマを10個以上考えてきていただいても大丈夫です。
ただし、今回の企画の中で通るのは1つだけです。


告知後、数日で予定人数をうわまわる25人以上から参加の希望があった。
その中には、石井氏の熱心なファンであることをメールに記し、今回のプロジェクトへの意気込みを語ってくれる人も何人もいた。

こうして、2009年12月12日、「石井光太&寺子屋ミシマ社 プロジェクト」の第一回が幕を開けた。
ワークショップの域を超えた実践的ワークショップ。
次回は、その模様をお伝えします。 (まとめ 大越裕)

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石井光太(いしい・こうた)

プロジェクト主催者

1977年生まれ。東京都出身。日本大学芸術学部文藝学科卒業。
海外ルポを初めとして、国内外の文化、歴史、医療についての文章を多数執筆。
また、本や映画などについてのコラムや批評も手掛ける。執筆以外では、TVドキュメンタリの製作、写真活動、漫画やラジオ番組のシナリオなども手掛けている。

主な作品に、
『神の棄てた裸体−イスラームの夜を歩く』(新潮社)
『物乞う仏陀』(文藝春秋)
『絶対貧困−世界最貧民の目線』(光文社)
その他、共著に『ベストエッセー2007 老いたるいたち』(光村図書)などがある。
ペンネームでの著書は多数。

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