石井光太&寺子屋ミシマ社

新しいノンフィクションをこれまでにない作り方によって生み出そう。
その掛け声のもと、石井光太さんと寺子屋ミシマ社がタッグを組んで進めている「戦争文化プロジェクト」。これまで15名ほどのメンバーから、「下調べ」をしてもらい、「とりあえず」のレポートをここに掲載してきました。
本プロジェクトでは、実際に一冊のノンフィクションができる過程を「丸裸」にして、それすらもお見せしようと考えています。通常、「完成形」でしか知ることのない、一冊の側面を楽しんでくださいませ。
これからは、その下調べレポートの第2弾です。
各メンバー、そして新メンバーのレポートの充実ぶり、成長ぶりもあわせてご覧いただければ幸いです。

第11回 メンバーからのレポート第2弾(2)―性の巻

2010.06.15更新

さすがに2回目のレポートとなると、充実度がぐっとまします。
今回は、第6回にも登場したS.A.さん(お二人いるので、主婦のS.A.さんと呼ばせていただきます)の渾身レポートをどうぞ。
テーマは「性」。
石井光太さんの得意ゾーンでもあるので(なんてことを言ったら怒られそうですが)、ここは充実させたいジャンルです。
主婦S.A.さんの攻めっぷりと、その上をいく石井さんのコメントとあわせてお楽しみください。

≪S.A.さん(女性、主婦)のレポート≫

「戦争文化」レポート(性)

戦争に性の問題はつきものです。戦場は、肉食系の長ともいえる兵士たちが集まり、かつ毎日生命の危機に晒されている状態ですから、生き物として子孫を残す欲求(=性的欲求)が高まるのは自然のこととも考えられます。また、純粋な性的欲求の発散以外にも、「民族浄化」や敵への陵辱を目的としたレイプも多く発生しています。

戦時下に行われるレイプや性的行為は、それぞれを単独で捉えれば「非常時の行為」として、現代の私たちには遠い世界の出来事のように感じます。しかし、現在私たちが当たり前のように話題にしている物事の中にも、その傷跡が残っているとしたら。
今回は、私たちの身近な性の話題の中から戦争と関係のあるものをご紹介したいと思います。

●アジアのセックスビジネスは戦争文化だ

タイ、フィリピン、韓国。日本人男性が春を求めていく3大国ともいえるこれらの国の性産業(売春)の影には、米軍の存在がある。
タイにおいては、米の流通が商業化した19世紀、中国からの移民が多数やってきたのが売春増加のはじまりと言われている。次いで、1962年に米軍の常駐が始まり、彼らはミア・チャング(賃貸妻)と呼ばれる現地妻を持った。さらに、ヴェトナム戦争が始まると、米兵が休暇のためにタイへ入ってくるようになった。

12年間の米軍駐留により、バンコクの周辺には売春宿、マッサージ屋などが増加した。同様に、フィリピンでは1901年に米軍基地が置かれ、韓国では朝鮮戦争の間米兵が出入りしたこと(+日本からの観光客の増加)によって、周辺で性産業が栄えることとなった。そして現在、米兵が去った後も、これらの性産業は観光と結びつくことによって、国際的に売り出されている。

「世界最古の職業は売春婦」と言われるように、売春婦や売春街は世界中ほとんどの国に存在するだろう。そのすべてが戦争とかかわりがあるとは言えない。しかし、欧米からもアジアからも「売春ツアー」の看板を引っさげて旅行客が集まるのはこの3カ国が代表的であり、それらの国々の性産業が一様に戦争に関連して発展してきたことは興味深い。
<参考資料>
『ジェンダーと女性労働ーその国際ケーススタディ』(セア・シンクレア/ナニカ・レッドクリフト著、山本光子訳、柘植書房)

●ジェノサイドの恐怖が生んだ噂・・・「メンソールはインポになる」
 
メンソールのタバコを吸っていると「インポになるよ」といった冗談が交わされるのを耳にしたことがある人は多いと思う。科学的には、メンソールと勃起障害にはなんら関係性がないそうだが、都市伝説としていまだ根強く残っている噂話のひとつだ。この噂の根源は諸説あるようだが、戦争にまつわる2つのエピソードが主力とされている。

エピソード①
第2次世界大戦後、敗戦国の日本国民の間には「アメリカは日本人を根絶やしにしようとしている」という噂が流れた。そこでアメリカから入ってきた品物が怪しいということになり、メンソールのタバコが槍玉に挙げられた。当時、アメリカではメンソールは女性や黒人が好んで吸っていたことも、噂を後押しした。

エピソード②
ヴェトナム戦争において、アメリカは兵士の性的暴行を防止するため、配給品のタバコに性欲を減退させる鎮静剤を混ぜ、その匂いを消すためにメンソールを混ぜたと言われている。そのため、「メンソール=勃たなくなる」というイメージが生まれた。

※いずれも正式な文献は見つかっておらず、ネットでの噂ベースですが、60年以上も同じ噂を言い続けている日本人って・・・意外と田舎者ですよね。
<参考資料>
精力剤販売のHP

ここからは余談です。

前述のように、いつの時代も戦争と性は切っても切れない関係の一方で、旧ユーゴスラビアの内戦(1992年)で「民族浄化」を名目とした組織的レイプや強制妊娠、慰安所の設置が国際法廷による裁判にかけられているように、非人道的な行いは国際的に厳しく処罰される時代となっています。

では、現代の兵士たちはどのように戦場での性的欲求を解消しているのでしょうか。アメリカ大統領の諮問機関である「女性の軍務委員会」の調査によると、湾岸戦争(1990-1991)に参戦した男女混成部隊の兵士4442人にアンケートを行ったところ、64%が「前線で異性兵士となんらかの性関係があった」と回答したといいます。さらに、その頃中絶が事実上禁止されていた米軍関係の病院でも、中絶が実施できるようになったとのこと。アメリカは宗教上の観点からも中絶に対して反対思想が強い国ですが、非常事態での性行為はその範疇を超えるということなのでしょうか。
<参考資料>
『慰安婦と戦場の性』(秦郁彦、新潮社)

余談その2。
インポの噂ついでにもうひとつ、イラク戦争とバイアグラの親密な関係について。

米CIAは、タリバンの情報を提供してくれたアフガニスタンの部族長らに、対価として日用品や医療サービスの他に、バイアグラを与えたこともあったそうです。一夫多妻制の彼らにとってバイアグラは「彼らが権威ある立場を回復する」のに効果的だということですが・・・。

また、イラク戦争後、イラク国内ではバイアグラの売上げが倍増したそうです。バグダッドの薬剤師の話によると、戦争で悲惨な体験をしたためにEDになった人が多いとのこと。加えて、フセイン体制が崩れたことにより、それまで政府によって厳しく統制されていたED治療薬の輸入が自由になったことも理由に挙げられています。

ちなみに、古い話ですが、バイアグラを開発したファイザー製薬は、アメリカの南北戦争時代に創業した会社で、南北戦争中の薬品はほとんど同社が生産していたとのこと。
<参考資料>
Asahi.comニュース
AFP BBニュース

今回のレポートは以上です。
まとまりのない話になってしまいました・・・。引き続きネタ探しをさせていただきます。


メンソールでインポ、という噂が、「ジェノサイドの恐怖が生んだ」ものとは知りませんでした。
主婦のS.A.さん、攻めてきますねー。勢いそのままに余談までつけてくれました。

今回も2回目のレポートということで、石井さんに今後の課題をふくめてコメントをいただきましょう。

石井さんコメント
「視点は面白いのですが、少々数的に物足りないですね。
これは、おそらく「調べ方」の問題があると思います。今回は、調べ方についてコメントをしましょう。

物事を調べるためには、「文献をあたる」だけでは十分ではありません。
文献はあくまでヒントを手に入れるためのもの。そこから得たヒントをどうやって広げるかということが重要なのです。

たとえば、東南アジアに戦争によって生まれた歓楽街があります。
タイの歓楽街がベトナム戦争時に生まれたことは有名ですね。古い歓楽街の中には、「ソイ・カーボーイ」なんていう通りもあります。「カーボーイ(米兵)通り」という意味です。
ここらへんは文献を調べればでてきますよね。おそらく、S.A.さんも文献で調べたのだと思います。
ただ、これをそのまま書いても、なかなか面白みがないし、広がりがない。
そこで、これはあくまでも「ヒント」として考えるのです。

「ベトナム戦争で、隣国タイに歓楽街ができた。だとしたら、他の国でも同じことはないか」

そうしてみると、たとえばアフガニスタンの周辺国、ボスニアの周辺国、ルワンダの周辺国にも同じような歓楽街があるのではないか。
しかし、へき地であるため、なかなかそれに関連した文献がない。でも、絶対に歓楽街はあるはず。
そこで「取材」をするのです。
たとえば、アフガニスタンやパキスタンに入っているNGOがあるでしょう。ルワンダの周辺国にはケニアやタンザニアなど様々な観光立国がある。ボスニアしかり。
それであれば、現地にいるNGOや日本人旅行代理店に質問してみてはどうでしょうか?

おそらく、メールや電話で片っ端から聞いていけば、詳しい人は親切に教えてくれるでしょう。
どこそこに、戦争で生まれた歓楽街があるよ、と。
しかも、人に尋ねると現地のナマの面白い情報も教えてもらえます。また、こっちからこぼれ話を訊くという手もあるでしょう。
たとえば、「アフガン人娼婦とパキスタン人娼婦の違いは何か。どっちが人気あるのか」などと聞いてみたらどうでしょうか。

一例を挙げれば、昔、私がタイで知り合った傷痍軍人に尋ねてみたところ、「タイの娼婦はやさしくて色が白く、カンボジアの娼婦は激しいセックスを好むが色が黒い」なんて言ってました。
で、その軍人たちは時々の気分にまかせて、タイ人娼婦を抱くか、カンボジア人娼婦を抱くかを決めていたのだとか。
これだけでもプラスαの面白い情報になりますよね。

以上のように、何かを調べるときは、あくまで「文献はヒント」ということを覚えておいてください。
文献で見つかったことをヒントにして、それをどれだけ横に広げていきながら、かつ面白いプラスαの情報を見つけるか。
それこそが、「本のための情報集め」ということなのです。
そうしたことをヒントに、もう一度テーマを横に広げてみてくださいね」


石井さんコメント、毎回とても勉強になりますね。
前回同様「プラスα」の情報をいかに調べるか。そして、今回は、数を調べるためにどうすればいいか、という視点からもアドバイスもらいました。
このわずかなプラスαこそが、「面白い」と「ふつう」を大きく分ける、分岐点なのでしょう。
プラスαの積み重ね。プロジェクト・メンバーは、そこをより意識して、どんどんどんどん盛り上げていきましょう!
7月に、「これから」に向け、ミーティングを開きたく思っています。新しく参加ご希望の方は、こちらまでご連絡くださいませ。詳しくはこちらを!

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石井光太(いしい・こうた)

プロジェクト主催者

1977年生まれ。東京都出身。日本大学芸術学部文藝学科卒業。
海外ルポを初めとして、国内外の文化、歴史、医療についての文章を多数執筆。
また、本や映画などについてのコラムや批評も手掛ける。執筆以外では、TVドキュメンタリの製作、写真活動、漫画やラジオ番組のシナリオなども手掛けている。

主な作品に、
『神の棄てた裸体−イスラームの夜を歩く』(新潮社)
『物乞う仏陀』(文藝春秋)
『絶対貧困−世界最貧民の目線』(光文社)
その他、共著に『ベストエッセー2007 老いたるいたち』(光村図書)などがある。
ペンネームでの著書は多数。

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