石井光太&寺子屋ミシマ社

路上生活者の剃毛文化。あそこを剃らずに大爆笑。仕事のためなら浮気もする派、しない派。日本産のエロ本がもつ驚異的な力。虎の金玉とグローバリズム。国によって違う売春の形態。国境地帯、ボーダーフリーの売春婦・・・。

「いろいろな意味で、人間の活動は最終的に性に行き着くだろうなと思います。ただ、性の問題は一番根源的でありながら、なかなか触れられない気持ちがあります。本を書くうえで一番悩むところです」(近藤)
「エロも全部仕事に結びついています。食い込んでいくとやっぱり仕事のネタになるわけです。そこまでやらないとおもしろくない。どんどん掘っていって、こんなものが出てきた、という楽しみがありますね」(石井)

第2ラウンド[観客参加型バトルロワイヤル]では、会場からの質問をおりまぜて話を展開していただきました。前回に引き続き「地を這う3時間!」の模様をお楽しみください!

2010年10月31日@東京・阿佐ヶ谷ロフト

第13回 地を這う3時間[ヒール・石井光太vs善人旅人・近藤雄生]後編

2010.11.24更新

第2ラウンド[観客参加型バトルロワイヤル]

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当日は、石井さん・近藤さんと同郷、同級生で、同じく旅の本を書かれている松岡絵里さん〔著書『世界の市場』(国書刊行会)、『してみたい!世界一周』(情報センター出版局)ほか〕にも一部ご出演いただきました。

Q 石井さんはいつから強面キャラになったのですか?

石井なってませんよ(笑)。ただ、いつから頭を剃っているかよく聞かれます。はじめて剃ったのは大学生のときです。海外で路上生活者の取材をして、彼らと一緒に生活をして知ったのですが、実は、路上で生活していると頭にも下の毛にもとにかくシラミがすごいつくんです。かゆくてどうしようもなくなる。路上生活者は、池や川で体を洗いますが、ある日、僕が川で体を洗っていたら股間を指差されて大爆笑された。ちん毛を見て大爆笑している。路上というのは、基本的に毛を剃る文化なんですね。そのときから基本的にずっと剃りっ放しです。

三島彼女びっくりしたでしょうね。

石井旅から帰ってきて、股間の毛も剃ってたらびっくりでしょうね(笑)。

Q 近藤さんは、旅行中に浮気や別れようと思ったことはありますか?

近藤よく聞かれますが、正直ないです。
本のなかにも書きましたが、もともと僕はストーカー上がりなんですね。キャリア的にいうと昔ストーカーでした(笑)。13年前、それくらい僕は彼女に入れこんだときがありました。それが原点だったからなのか、浮気は一度もなかったです。

石井近藤さんと先日、はじめてお会いして一緒に飲んだとき、かなり意見が決裂したんです。僕が「一度くらい浮気したことはあるだろう」というと、彼は「絶対無理です。絶対割り切れません。仕事より家庭を大切にします」と言い張る。僕はまったく反対で、仕事のためだったらなんでもやります。浮気なんて些細なものです。それで彼は善人キャラで俺はヒールと言われるわけです。

近藤でも、そのとき、ミシマ社の星野さんもいて、彼女にどう思うか聞いたんですよ。僕は自信満々に「星野さん、男はそうあったほうがいいでしょ」と聞いたんですが、彼女は少し沈黙して「ん〜・・・」と言った。

石井「仕事のためなら浮気もする男のほうが魅力的」という感じでしたね。

近藤確かに僕もそのプレッシャーを感じた。でもそこは、浮気うんぬんの問題以上に、仕事観の違いですよね。石井さんは、朝起きてから寝るまで、一秒たりとも仕事以外に時間をつかわない人。

石井基本的にストイックです。女性と付き合っても、基本的に図書券以外いりません。デートするのも時間のムダだと思う。とにかく書き続けることが最優先。そのためなら何でもするし、何の犠牲もいといません。だからむしろ趣味がない。人と会うにも、仕事と絡んでいたり、自分にとってプラスになると思えなければ基本的に会いません。

近藤逆に僕は、書くことが最優先ではない。書くことが自分にとって一番の仕事ですが、それよりも、楽しく生きることのほうがまったく上をいっている。3年後にどこで何をしているかわからない人生でいきたい。それが理想だと思っています。それに、僕はいま京都に住んでいるのですが、東京に来たら片っ端から友達に会って飲みたいと思う。

Q 石井さんは結婚をどう考えていらっしゃいますか? 
近藤さんは結婚されて幸せそうですが、石井さんはあまり女性に興味がないように見えます。

石井女性? めちゃくちゃ興味ありますよ。結婚することで書くことにプラスがあるならします。

近藤ストイックですね。そんな男とは絶対結婚したくないですよね(笑)。

石井結局、結婚することによって、いままでとは違うものが見られるかどうか。結婚して家族団らんをイメージするより、もう少し何か欲しいです。例えば、彼女と結婚しました。そこで、彼女と何ができるか考えます。奥さんの得意なものが手芸なら、それで店をつくってみる。彼女がいなければ自分ではできないことですから、それが自分にプラスになる。そういうふうに考えます。その人と一緒にいることで何があるか。何を一緒にできるか。そこを求めます。

Q 海外での性処理はどうしていましたか?

石井昔はエロ本を持っていきました。でも、海外で取材するとき、エロ本は一種の賄賂になる。日本のエロ本は非常にクオリティが高いので、金をもらうより喜ばれるんです。ページを切りとって、きちんと折り畳んでそっと渡す。中東の人たちにとって日本のエロ写真は、あり得ないくらい強烈なんです。それで「ウェルカム」です。

ほんとにアフガニスタンでの取材はそれが一番効きました。それこそ、戦場で空腹に苦しんでいるときに、チョコレートを渡されるようなものでしょ。エロ本一枚にそういう力がある。その一枚で「黙って俺についてこい」ですよ。そういった、一石二鳥な部分がありますね。最近はパソコンにDVDを入れています。

近藤現地のエロビデオは入手しないんですか?

石井趣味が高じて現地のエロビデオも買ってみました。これが非常におもしろい。パキスタンやアフガニスタン、バングラデシュ、イラクにもエロビデオはあります。でも、基本的にエロビデオは闇で取引される。だから、アフガニスタンでは、エロビデオと、首切り画像(テロリストたちがプロパガンダにしている生首を切るスナッフフィルム)、アルカイダが自分たちで撮った戦争映像などが一緒に並べられている。アッラーの旗や、ビンラディンの声明、首切り画像などがあって、その横にエロビデオ、さらにその横に本当に人殺しのための道具がある。そういうおもしろさがあります。

食い込んでいくと何でも仕事のネタになりますよ。バイアグラなども、アフリカにはたくさんあります。例えば、虎の金玉。そういう珍しいものは精力強壮剤になるわけです。それらはだいたいゲリラがつくっている。例えば、ソマリアのゲリラが銃を持って国立公園に行き、虎や象を殺しまくる。その一部を象牙や虎の金玉として、アフリカにいる華僑たちに売る。そのお金がゲリラの軍資金になるのですが、さらにその華僑が虎の金玉を東南アジアや中国に漢方の薬として運ぶ。最終的に我々の手元に渡ることになる。

エロと言っても、突き詰めていくとその背景にグローバリズムが見えてくる。世界の戦争や政治情勢の裏話に結びついていく。そういうおもしろさは非常にあります。

三島虎の金玉からグローバリズムですか。

石井タイトルにするとおもしろいですね。

Q どの国の女性が印象的でしたか? 独特の感覚だなぁとか。

石井売春の形態が国によって違うのはおもしろかったです。例えば、イランの売春婦はブルカを裏返しにかぶる。そうすると、縫い目が外に出る。それを見て娼婦かどうか判断するそうです。地元の人にしかわからない判断方法ですよね。
アフガニスタンの場合は、写真アルバムを持っている女性が売春婦だそうです。彼女たちはブルカをかぶって顔を出せないわけです。アルバムには、自分の写真を入れておき「私はこういう顔をしているからどう? 一緒にやらない?」という話になる。

パキスタンでは、洋服屋が売春を斡旋していた。なぜかというと、ペシャワールでも女性はひとりでふらふらできない。唯一、夫とはなれて入れる店は、女性の下着専門店。そこで女性が「私、売春したいんだけど」というと、その主人が取り持ってくれるわけです。そうやって法の目をくぐるように行われている。売春も、国によって形態が違うのはおもしろいです。

戦争をしている国だと、売春婦だけは国境を自由に行き来できるそうです。例えばタイとカンボジアの場合、それぞれの国に軍隊がいますが、売春婦はどっちの国に行ってもいい。そして、そのなかでスパイ行為があったり、暗殺ももちろんあるかもしれないし、情報が行き交ったりする。あるいは、売春婦を通じてお互いの軍隊が仲良くなってしまうこともあるそうです。そういうことも戦争の現実としてある。

近藤売春婦の話は、石井さんの実体験ですか?

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『神の棄てた裸体―イスラームの夜を歩く』(新潮社)

石井正直な話、学生の頃はありましたがいまはないです(笑)。それよりも、やらないで話を聞いた方が実はおもしろい。僕は昔『神の棄てた裸体―イスラームの夜を歩く』(新潮社)で、イスラムの性をテーマに書きました。
売春宿で仕事をして、彼女たちの下で働きながら、そこで仲良くなって話を聞かせてもらった。女社会のなか、男ひとり、外国人なわけです。そのなかで恋愛感情が絡んで起きる出来事がある。そこが非常におもしろい。彼女たちの本音が見えてくる。

近藤石井さんに恋愛感情はない? 

石井なんとも言えないですね。取材をしているときは取材と割り切ってやるときもありますが、割り切れない部分もあります。事後的に情はわいてきます。そういう葛藤は常にあります。その辺りの矛盾は、やっていておもしろい部分でもありますね。


三島いろいろと話は尽きませんが、この辺りでまとめにうつらせていただきたいと思います。石井さんには3時間ずっと性の話をしていただきましたが(笑)、下ネタにならないところがすごいです。では、近藤さんから今後の予定とこれからの活動についてご報告いただければと思います。

近藤「今後の予定がわからないのが今後の予定」みたいなところがありますがいまのところ、あるミュージシャンについての人物ノンフィクションを書くという話が進んでいて動き出しています。あと、『遊牧夫婦』の続編、東南アジアから中国、アジアを全部まとめた第2巻を来年のはじめに。そして、第3巻、中国からヨーロッパ横断、最後アフリカまで行く話を再来年に出したいと思っています。そういうことをやりながら、京都でカフェをやりたい。

石井どういうカフェなの?

近藤京都はカフェの文化が有名ですが、特に小規模で成り立つのが魅力的です。東京・渋谷でカフェを開くとしたら、いちげんさんを相手に、商業的に展開しなくてはいけない。でも、京都だとそのへんのハードルが低い。例えば、自分の家の1階をカフェにして、地元の人とつながって、常連さんが定期的に来てくれたらそれで成り立つ。そういう意味ですごく個性的なことができる。とはいえ、そんなことを言って、自分にカフェを経営する技術はまったくなく、妻のモトコも「何言ってんの?」という感じで、どうなるかわかりません。でも、言うことによって自分をそっちにもっていこうと思っています。

石井僕は、11月末に『感染宣告』(講談社)という、日本人のHIV患者の性生活を追ったルポルタージュを出します。日本にはいま、わかっているだけで18000人くらいのHIV患者がいますが、実はもうエイズは死なない病気になっている。薬さえ飲めばHIVに感染しない状況になっています。それを知らない人が圧倒的に多い。一方で、どんどんHIV感染者は増えている。ゲイの10人にひとりもしくは数人にひとりはHIVという側面もあります。

彼らがどういった思いで、どうやってセックスをし、恋愛をして、家族は何を思うのか。どうやってHIV患者たちは子どもを産んでいくのか。その子どもたちに感染したときはどうなっていくのか。あるいは子どもを産めなかった家族はどういう家族なのか。そういうことを追ってきました。

その翌月は、海外の貧困をメインにした絵本を東京書籍から出す予定です。その次は、以前、河出書房のウェブマガジンで連載していた「飢餓浄土」をまとめて本にします。先ほどすこし話をしましたが、東南アジアに住んでいる残留日本兵や海外の都市伝説、幽霊話など、奇妙な民族史を掘り下げたルポです。いまの予定だと2月の末発売です
他にも、新書その他めじろ押しなので、ぜひぜひよろしくお願いします。

三島これからのお二方の活躍を楽しみにしています。3時間を超える時間、皆様どうもありがとうございました。

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石井光太(いしい・こうた)

プロジェクト主催者

1977年生まれ。東京都出身。日本大学芸術学部文藝学科卒業。
海外ルポを初めとして、国内外の文化、歴史、医療についての文章を多数執筆。
また、本や映画などについてのコラムや批評も手掛ける。執筆以外では、TVドキュメンタリの製作、写真活動、漫画やラジオ番組のシナリオなども手掛けている。

主な作品に、
『神の棄てた裸体−イスラームの夜を歩く』(新潮社)
『物乞う仏陀』(文藝春秋)
『絶対貧困−世界最貧民の目線』(光文社)
その他、共著に『ベストエッセー2007 老いたるいたち』(光村図書)などがある。
ペンネームでの著書は多数。

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