じゃり道本屋さん日記

第7回 本屋さんからのぞいた景色

2015.04.03更新

 それは「ガケ書房が移転する」というニュースから始まりました。
 本屋がなくなるというニュースはもう珍しいことではないのかもしれません。東京で大型チェーン店の本店が閉店するとか、神戸の99年続いた老舗書店がなくなるとか、近所のおじいちゃんが居眠りしながら店番していたお店に閉店の張り紙が貼られていたとか。そんな話があまりに多すぎて、話を聞くたびにショックを受けながらも「ええ!」というよりも「あそこもか...」という声の方が先に出てしまうようになってしまいました。

 でも、ガケ書房がなくなる、という話はちょっと種類の違った話でした。
 同じ左京区にある名物書店がなくなる。店主の山下さんは一体何を考えているのだろうか。きっとまたなにか面白いことを考えているにちがいない。そう思った僕たちは山下さんにインタビューをお願いしたり、最終営業日に込み合うガケ書房にチャリンコでかけつけたり、ガケ書房が起こそうとしている面白いことに近づこうとしていました。そして、気づいた時にはすっかり巻き込まれ、飲み込まれていました。

 その結果、僕たちはカメを飼うことになったのです。

「カメ飼うてくれへん?」という山下さんの目線は信じられないほど鋭いものでした。いつものやさしい目ではありません。その時ぼくは、山下さんはカメに似ている、とぼんやり考えていました。

 ガケ書房には4匹のカメがいました。窓際のちょっとしたスペースに池を与えられ、のびのびと暮らしていたのです。それがこのたびの移転で居場所がなくなってしまいました。カメたちをどうするか。そのことばかり考えていた山下さんは、ある日打ち合わせのために訪れたミシマ社で、「ここだ!」とひらめいたのだそうです。

 たしかにミシマ社京都オフィスの庭はとてもひろいです。なにも植わっていない花壇と、巨大なレンガの壁の存在が余計に広く感じさせます。なにか生き物を飼えるのではないか、という話は以前からメンバーの中からもでていました。芝生にしたいとか、壁を全面キャンバスにして絵を描いてもらおうとか。殺伐とした庭でしたが夢はいろいろあったのです。「カメかあ...」とミシマが乗り気ではなさそうな反応をするのも無理はありませんでした。

 しかし、数日後には山下さんの知り合いであるという庭師さんが登場し、あっというまに庭にカメが来る段取りが進んでいったのでした。

 庭にやってくるのはカメだけではありませんでした。ガケ書房に生えていた草や木、岩、なんだかよくわからない板なんかもいっしょにやってきました。近所の猫たちが不安げに見守る中、まずは庭木と石が搬入されます。庭が見違えるほど良くなっていきます。木が植わることで、風が通るのが目に見えるようになりました。いままでの殺風景な景色が一変しました。工事が進むにつれて、「これは、いい」と誰もがつぶやいていました。



 池が完成し、カメたちがやってくるのはもうしばらく先になります。
 なぜそんなことになってしまったのか、理由はもうよくわかりません。ただ、カメがいる庭はすごくいいんじゃないか、カメがいないとこの庭は完成しないんじゃないか、本屋さんに足りないものはカメだったんじゃないか、ミシマ社の将来はカメにかかってるんじゃないか、出版の未来はカメ次第なんじゃないか。今となってはそう思いはじめています。

ミシマ社の本屋さん
京都市左京区川端通丸太町下る下堤町90-1
営業:毎週金曜日の11:00〜17:00
電話:075-746-3438
京阪電車・神宮丸太町駅2番出口から南へ徒歩1分
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4月の開店日(毎週金曜日)
3日、10日、17日、24日、29日
※ 今月は29日(祝日)オープンです!ワークショップも開催予定
※ 4月25日(土)は「川西空想書店」に出店予定

川西空想書店
日時:2015年4月25日(土)11:00〜16:00
会場:絹延橋うどん研究所 カフェ・ライブハウス「うどん屋の2階」
  兵庫県川西市小戸3丁目23-6
  能勢電鉄絹延橋駅徒歩1分30秒


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ミシマ社の本屋さん

出版社・ミシマ社が運営する小さな本屋「ミシマ社の本屋さん」。2014年3月まで京都府城陽市で営業しておりましたが、京都市内にて2014年10月3日(金)より営業再開。毎週金曜日、最終土曜日の13:00~19:00の開店です。

京都市左京区川端丸太町下る90-1
京阪神宮丸太町駅から徒歩1分

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