じゃり道本屋さん日記

第20回 本屋さんのバランス

2016.05.01更新

 「ここの本はどういった基準でえらんでいるのですか?」と、ここ数日立て続けに聞かれました。「基準は」と言われると答えるのがむづかしいのですが、はっきり一言で言うとすれば「売れる本を置く」ということかもしれません。

 何年も売れない本をセレクトして棚に並べてもなにもおもしろくない。どんなに思い入れのある本でも売れなければ意味がない。売れる工夫をして、本が売れて棚が空いて、またそこに新しい本を仕入れて。その繰り返しです。あれは売れたか、じゃあこれはどうだ、売れるかな?あ、見てる見てる、どうですか?買いますか?おもしろいですよソレ、ダメですか、そうですか、また来てくださいね。と、店番をしながらお客さんの手元を観察しています。

 「店の品揃えはお客さんとの綱引きだ」ととあるお店の店主が書いていました。お店に来る人の欲しいものと、店主の売りたい本のちょうどいいところを引いたり引かれたりしながらバランスをとっていくのだ、と。たしかにその通りかもしれません。綱の先にそれを引いてくれるお客さんいるお店はしあわせだとおもいます。

 ヨットの用語に「Velocity Made Good」という言葉があります。読み方は「べろしてぃ めいど ぐっど」。直訳すると「有効速度」というそうです。この言葉、「ここの本はどういった基準でえらんでいるのですか?」という質問の答えにぴったりだと思うのです。

 「Velocity Made Good」とは。たとえば、まっすぐ風下に向かいたいとき、追い風に乗って押されていけばなんとなくヨットは目的地にたどり着きます。ただ、それではスピードは遅い。ただ風に押されているだけでそれ以上のスピードは出ません。ヨットのスピードが最も早くなるのは風向きに対して垂直かそれに近い角度。帆で受けた風を流しながら推進力に変え、ぐんぐんスピードがつきます。でもそれでは横にすすむばっかりで風下にはいつまでたってもたどり着きません。この間のちょうどいいところを探りながらじわじわ目的地に近づけていくのがヨットマンの腕の見せ所です。もうすこし角度を落とせるか、あ、やりすぎた船がとまっちゃう...、もう少しスピード出そう、おお、これでは全然目的地に近づいていない...、とひたすらぶつぶついいながら舵とセールを操ります。孤独な作業です。気持ち良くスピードを出してしぶきをあげながら大海原を疾走し、「どや」と周りをみまわしても目的地にはほとんど近づいておらず、後からやってきたのんびりしたヨットの方がはるかに先を走っていたときなど、爽快さは一瞬で吹っ飛び「なにやってんだ」と呆然とした気持ちになり数秒前までの自分を呪うのです。

 スピードと角度をうまくとりつつ、きもちいいスピードで船を走らせつつ目的地にじわりじわりと向かうバランス。このバランスが本棚のバランスでもあります。本棚を前にして、あるいは出版社の注文書をながめながら、独りぶつぶつ言い続ける。そうすれば本棚が海の上をすいすい走りだすのではないかと思っています。
 ミシマ社の本屋さんの棚はどうでしょう。今日は......凪でした。そういう日もあります。





5月の開店日(毎週金曜日)
6日、13日、20日、27日、28日
※今月の土曜営業日は28日です。
OPEN 13:00 - CLOSE 19:00



ミシマ社の本屋さん
京都市左京区川端通丸太町下る下堤町90-1
営業:毎週金曜日、月に一回どこかの土曜日
   13:00〜19:00
電話:075-746-3438
京阪・神宮丸太町駅2番出口から南へ徒歩1分
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ミシマ社の本屋さん

出版社・ミシマ社が運営する小さな本屋「ミシマ社の本屋さん」。2014年3月まで京都府城陽市で営業しておりましたが、京都市内にて2014年10月3日(金)より営業再開。毎週金曜日、最終土曜日の13:00~19:00の開店です。

京都市左京区川端丸太町下る90-1
京阪神宮丸太町駅から徒歩1分

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