自由が丘の贈り物

 自由が丘の駅からオフィスに向かう途中、毎日前を通るたびに気になっていた、岩立フォークテキスタイルミュージアムさん。
 ビルの一室にあるその小さな美術館には、色鮮やかな布や、美しい民族衣装、カラフルな小物たちがたくさん展示されています。これらのコレクションはすべて、館長である岩立広子さんが、インドやその周辺を旅してご自分で集めてきたものです。
 大学で染色や織物を勉強したものの、女性が就職することがまだ珍しかった時代に、工芸作家としての将来に悩んだ岩立さんは、卒業後、ペルーへ向かいます。そこから始まった岩立さんの長いフォークテキスタイルの旅と、ミュージアムについて、今日はお話を伺いました。

(構成:、写真:)

第20回 自由が丘発! 岩立フォークテキスタイルミュージアムさん 

2014.12.21更新


「永遠に新しい」デザイン

―― 初めてペルーへ行かれたときはどうでしたか?

岩立インカの人たちの築いたお城や城塞、インディオの人たちが実際その時作っていたものや昔の発掘品など、本当にたくさんのものを見ました。それがすごく新しいデザインで。自分が求めているデザインってこういうものなのかな、って思いました。

―― 「新しい」っていうのはどういう意味ですか?

岩立今見ても古臭い感じがしない。何が描かれているのかよくわからない抽象的なモチーフも、動物などが描かれている具象的なものにしても、どちらもすごく簡略化されていて、デザイン化されている。私、日本に帰ってから、向こうで集めたものを再現してみたんです、全部。自分で織り直して。

―― えー!

岩立もちろん完全にはできないですよ。手作業で時間さえかければできないことはないけれど、やっぱり膨大な時間がかかる。現代なら、もうちょっと道具を上手く使えば、同じものが短時間でできますけどね。そういう違いはあるけれど、デザインそのものに関しては古いも新しいもないんだな、って思いました。
 不滅のデザインというか、「永遠に新しい」って私は言うんですけれど。それはいうなれば人間が、それを見た時に心地よく思う形、誰が見てもいいなと思えるものですね。人間はそういうものを自分の内に持って生まれてきている。だから、自分をもっと探っていけば、すごいものっていうのはいっぱい出てくるんじゃないのかな、ってふと思ったんです。
 そうすると、ものを作るのに才能のあるなしは関係ないな、って。それで私、すごく勇気が出たんです。


過去から受け継がれてきたもの

―― インドに行くようになったのはどういう経緯ですか?

岩立やっぱり自分はアジアに住んでいるから、なにか繋がりがあるような気がして。でもインドを選んだのは、たまたまです(笑)。インドは国が広すぎて、工業化が隅々まで行き渡っていなかったので、まだ昔のやり方で布を作っていました。それがすごくおもしろくて。
 もう忘れられないですよ! ボロきれをね、バケツに突っ込んで、とても粗雑なやり方だけど、それで立派に染まっちゃうんです。私が今まで学校で習ったことって一体何だったんだろう! って。そんな荒々しい仕事なのに、できあがったものはじつに穏やかで。

―― ミュージアムで見せていただいた布の中にも、一見すると同じ柄の連続だけど、よく見ると、刺繍糸の向きを変えて2色のようにしているものがありましたね。とても細かいところまで手が入っていて、すごいなと思いました。

岩立そういうのは「慣れ」なんですね。体で体得してきたようなところがある。そうやって、ものっていうのは手で作るんだけど、私たちの頭の中、気持ちの中に、ずっと数千年受け継がれてきたんじゃないかな、って。



「ギャラリー」ではなく「ミュージアム」

――  ミュージアムを作ろうと思ったのはなぜですか?

岩立インドはずっと、他国からの輸入は一切せず、何から何まですべて自分たちで作っていたんです。でも90年代になって、外貨の自由化が始まると共に、工業化もどんどん進んでいきました。今インドに行っても、私がかつて見たような手仕事の世界はもう見られないんです。
 だから、私が見てきたそのプロセスと集めたもの、これは彼らの財産だけど、世界中の私たちも含めた世の中の財産だから、こういう現場に居合わせた人間が多少でも説明できるあいだは、恩返しとしてでも全部見せて行かなければいけないと思ったんです。
 インターネットが普及して、今では検索すればどこの国の文化のこともすぐわかる。情報だけは入るような世の中になってきたけど、触れたり、感じたり、やっぱり実物を見ないと。


―― 最後に。「フォークテキスタイル」っていう言葉を聞いてもピンとこない人も中にはいると思うのですが、岩立さんが思うフォークテキスタイル、ってどういうものですか?

岩立そういう定義を説明するのは難しいのですが...。今まで、染色品でも陽の当らなかった部分、たとえば普通に庶民が着ていたものとか、いわゆる美術館に入らなかった「きれ」ですね。それを見てもらいたい、っていうことなんです。
 名前が「フォークテキスタイル」なんていうといかにもで、そういう興味のある人だけが行くとこかな、なんて思われてしまうかもしれない。だけど、そういう普通のものも「ミュージアム」の中に入るものだ、って言いたいんです。ただの「ギャラリー」にはしたくなかった。こちらもいい加減な気持ちでなく、人間が過去から永遠にずっと築いてきたものを発信するんですよ、っていう決意のようなものですね。少し背伸びしてつけた名前です。こんなに小さいのにそれでミュージアム? と思われるかもしれないけれど、あえてそのグレードにしたいんだ、という自分の望みというか、希望が入っています。






岩立フォークテキスタイルミュージアム

〒152-0035 東京都目黒区自由が丘1-25-13 岩立ビル3F
(東急東横線・大井町線 自由ヶ丘駅下車 徒歩2分)
TEL:03-3718-2461
開館時間:展示期間中 木・金・土曜日 
10:00~17:00(入館は16:30まで)
入館料:300円
HP:http://iwatate-hiroko.com/index.html

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ミシマ社 編(みしましゃ)

ミシマ社は、「原点回帰の出版社」として2006年10月に創業。現在メンバーは約10名。全員全チーム(編集・営業・仕掛け屋)の仕事をするというスタイルで、東京・自由が丘、京都府京都市の二拠点で、「一冊入魂」の出版活動を展開中。取次店などを介さない「直取引」という営業スタイルで「一冊」を全国の書店に卸している。

本企画は「大好きな地元自由が丘のことをもっともっと知りたいなぁ。そして、この空気感を多くの方々と共有したいなぁ」という三島の思いから発し、ミシマ社編として2013年8月に書籍化。その後も、本に入りきらなかったお店やお話を本コーナーで連載中です!

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