からだのなかの微生物

第2回 アメーバはどこに暮らしてる?

2015.04.09更新

 第2回「からだのなかの微生物」の主人公は、単細胞生物の代名詞とも言えるアメーバさんの登場です。




 身体の形は変化自在のモンスター、そんなイメージの強いアメーバさんですが、実際のアメーバがどんな生き物かご存じでしょうか。生き物について知るには、その生き物の実際の姿を見るのが一番近道です。まずはムービーをご覧下さい。




 ムービーを見ていただけたでしょうか?(見ることが難しい場合は、とりあえず先へお進み下さい。この後にもアメーバの写真が出てきます)
 アメーバは、身体の形を変えながら動き回る単細胞生物で、多くの種類が知られています。

 このアメーバさんたち。どんなところで暮らしているかご存じでしょうか?
 中学校や高校の理科の教科書では、身近な池や湖に暮らしていると書かれていることが多いです。実際にその通りで、たとえば、オオアメーバ(Amoeba proteus)は、池や湖の中で、細菌や藻類を食べながら暮らしています。

オオアメーバ(神戸大学・洲崎研究室にて撮影)



 他にもいろいろなところにアメーバさんたちは住んでいて、海に住んでいるものや、人体の中に住んでいるアメーバもいます。人体に住んでいるアメーバだと、アメーバ赤痢を引き起こすことで知られる「赤痢アメーバ(Entamoeba)」が有名です。
 さて、アメーバの住む場所として、池や湖、海、人体の中・・・ここまでは想像しやすいと思いますが、他にも、アメーバさんの住んでいる場所があります。「土の中」です。

 土の中。微生物というと、水の中に住んでいるイメージを持たれがちですが、土の中にも、水の中に匹敵するほど、多くの微生物の仲間たちが住んでいます。
 たとえば、花壇や雑木林の土を想像してみてください。結構、湿っています。この湿り、"大きな生き物"である私たち人間にとっては「湿っている」とい感覚ですが、1 mm以下の"小さな生き物"である微生物にとっては、極めて「水的な」環境になります。
 身体の大きさが桁違いに異なる人間と微生物の間では、環境への感じ方が変わってくるという例の1つです。
 そんな湿った土の中には、細菌、真菌、繊毛虫、アメーバなど、さまざまな微生物が暮らして、ミクロ世界の「土壌生態系」を構築しています。

 土の中で暮らすアメーバさんたちにも、多くの種類が知られています(※1)。今回は、その中のひとり、アカントアメーバ(Acanthamoeba)さんを紹介します。

アカントアメーバ(神戸大学・洲崎研究室にて撮影)



 アカントアメーバは、0.05 mm程度の小さなアメーバで、土の中で細菌などを食べながら暮らしています。
 このアカントアメーバさん、最初のムービーにも登場しましたが、身体から多数のトゲトゲした突起を伸ばすのが特徴で、"アカント"は、"トゲ"という意味を持ちます。

 ところで、微生物にとって湿った土の中は「水的」で暮らしやすいという話をしましたが、もし、その土が乾燥してしまったりしたら、微生物たちは大丈夫なのでしょうか。
 ミクロの世界では、水分への感じ方が変わってくるとはいえ、炎天下などで激しく乾燥してしまったら、さすがの微生物も困るのではないか? そんな疑問が湧いてきます。

 そんな「乾燥の変化」から身を守る為、微生物たちは、さまざまな能力を持っています。
 たとえば、アカントアメーバは、乾燥すると、「シスト」と呼ばれる状態に変身することができます。

アカントアメーバのアメーバ状態とシスト状態(神戸大学・洲崎研究室にて撮影)



 写真を見ていただいたらわかるように、シスト状態は、アメーバ状態とは大きく異なる姿をしています。このシストは、堅い殻で覆われていて、その中に休眠状態となったアカントアメーバがいます。イメージとしては、植物の種子に近いかもしれません(※2)

 シストは乾燥に極めて強く、たとえばこのシストを、シリカゲルなどの乾燥剤を用いて保管したとしても、そう簡単には死にません。
 アカントアメーバのシストは、湿ったり、栄養条件の良い環境に周囲が変わると、中から再びアメーバが出てきます。このような戦略によって、アカントアメーバは、乾燥という危機を乗り越えているのです。

 さて、このように戦略的に暮らしているアカントアメーバが、私たち人間の生活に関わってくることがあります。

 シストになったアカントアメーバは、乾燥した土の中でただ耐えているというだけでなく、移動能力にも優れており、時に、風などに乗って、空気中にも漂っているとも言われています。たとえば、エアコンからも、アカントアメーバが発見されたという報告があります(※3)
 目には見えないのでわかりませんが、もしかしたら、今まさに、あなたの目の前を、アカントアメーバのシストが漂っているかもしれません。

 このようにアカントアメーバは空気中を漂うことができるため、目にこそ見えませんが、私たち人間と"出会う"機会の多い微生物の1つです。
 基本的に、アカントアメーバは、私たち人間の体内に侵入しても病気などを引き起こすことは滅多にありませんが、稀に病気を引き起こすともあるということが知られています。

 そして近年、ソフトコンタクトレンズの使用者において、目の角膜にアカントアメーバが感染し、アカントアメーバが原因の「アカントアメーバ角膜炎」の発症者が増えています(※4)
 ソフトコンタクトレンズを介したアカントアメーバの感染の仕組みは、まだ完全に明らかになっていませんが、ソフトコンタクトレンズは性質上、洗浄が不十分であったり、付けっ放しにしたりして、使用の際に不潔になりやすく、移動能力に長けるアカントアメーバの侵入の機会が格段に高まっているのかもしれません(なので、ソフトコンタクトレンズの使用にあたっては、同じレンズの長期使用は避ける、丁寧な洗浄を心がける、付けっぱなしには絶対にしない、というのが重要です)。

 本連載のテーマ「からだのなかの微生物」として、今回はアカントアメーバさんに登場していただきました。
 普段暮らしている中では、私たちの身体へやってきて、そして、病気を引き起こすまで、存在に気づくことのほとんどない微生物たち。
 そんな「からだのなかの微生物」たちですが、私たちの身体までにやってくる前に、私たちの知らない奥深くユニークな生き方をしているものが沢山いるのです(※5)


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(※1)土の中に住んでいるアメーバの仲間では、粘菌が有名です。粘「菌」とありますが、いわゆるカビやキノコの仲間(真菌類)とは違う仲間で、アメーバの仲間です。粘菌については、以下の細胞性粘菌研究室のホームページに詳しく書かれています。
「京都大学 細胞性粘菌グループHomepage」
(※2)ただし、植物の種子は、雌雄の受粉と受精を伴う有性生殖の結果作られるものですが、アメーバのシストの場合は、アメーバ細胞が有性生殖を経ずに、そのまま変化するものなので、生物学的に性質の異なるものです
(※3)Chan et al. (2011) Acta Tropica. 117: 23-30. Isolation and characterization of Acanthamoeba spp. from air-conditioners in Kuala Lumpur, Malaysia.
(※4)独立行政法人 国民生活センター「ソフトコンタクトレンズ用消毒剤のアカントアメーバに対する消毒性能-使用実態調査も踏まえて-」(2009年12月16日 報告書本文)
(※5)人や動物に感染・寄生しないで、外の環境で暮らしている状態のことを、「自由生活(free-living)」と呼びます。 

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早川昌志(はやかわ・まさし)

1987年生まれ。微生物の研究をしながら、微生物に関する教材を作ったり、イベントの企画をしたりしています。

現在は、神戸大学大学院理学研究科生物学専攻博士課程在籍、日本学術振興会特別研究員(DC1)。

Twitterアカウント → @Markchloro

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