からだのなかの微生物

第6回 人とトキソプラズマ

2015.09.24更新

 からだのなかの微生物、今回は単細胞の寄生虫「トキソプラズマ」について紹介します。

 トキソプラズマは、大きさ約5 µm(0.005 mm)ととても小さく、三日月型の姿が特徴的な単細胞生物です。私たちヒトや、多くの鳥類・哺乳類に感染する寄生虫として知られています。 


 寄生虫の仲間について知るときは、「医学的に人間にどのような影響をもたらすか」と「生物学的にどのような生き物なのか」という2つの視点が必要です。

 前者(医学的に人間にどのような影響をもたらすか)の視点の主役は「人間」です。人間に対してその寄生虫はどのような病気をもたらすのか。人間はどのように感染や病気を防げばよいのか。人間の生活や社会、健康や病気に、直接、役に立つものとして、私たちが知っておくべき重要な知識です。

 一方、後者(生物学的にどのような生き物なのか)の視点の主役は「寄生虫」。その寄生虫はどんな姿で、どのような生き様をしているのかということを視ていきます。
 これは必ずしも、人間に直接役立つ知識だとは限りません。例えばトキソプラズマが三日月型であるということは、私たちが健康や病気について考える上では、直接、役立つものではないかもしれません。
 ですが、時に、役に立たないと思っていた知識が役立つ知識へと変わることが、研究の現場でもよくあるのです。

 ではトキソプラズマについて、「人間にどのような影響をもたらすか」、「生物学的にどのような生き物なのか」という2つの側面から紹介していきましょう。


トキソプラズマは人間にどのような影響をもたらすか

 トキソプラズマは、知名度はまだまだ低いですが、日本を含む世界人口の1/3以上が感染していると言われている寄生虫です。
 そして、一回感染したその後はずっと、その人の身体の中で住み続ける事になります。つまり、読者の皆さんの中にも、自分では気づいていないだけで、トキソプラズマに感染している方も少なくないはずです。とはいえ、トキソプラズマが身体の中に侵入しても、基本的には免疫系の働きによって具体的な症状は起こらないか、軽度の症状ですむことがほとんどです。

 ですが、まったく気にしなくても良いというわけではありません。トキソプラズマは、HIV感染患者などの免疫不全者に感染すると重篤な症状を引き起こしたり、妊娠中の女性が初めて感染すると胎児に重篤な障害が発生する可能性があるので、注意が必要です。


妊娠中のトキソプラズマの感染を防ぐには(※1)

 トキソプラズマは、人間だけでなく、多くの食肉用の動物(牛、豚、鶏、羊、馬、...)に感染しています。なので、生肉や、よく加熱されていない肉(生ハムやサラミ、ローストビーフなども含む)を食べるとトキソプラズマに感染する恐れがあるので、特に妊娠中の女性は、よく加熱した肉以外は食べてはいけません。


 また、「猫の糞」にはトキソプラズマが含まれることがあります(ただし、すべての猫の糞にトキソプラズマが含まれるわけではありません(※2))。なので、妊娠中の女性は、猫のトイレの掃除には注意が必要です。加えて、土や生水は、猫の糞で汚染されている可能性があるので、土いじりや、野菜や果物についた土、生水などへの注意が必要となってきます。


 妊娠中のトキソプラズマの感染については、詳しくは「トーチの会」のホームページに掲載されていますので、ぜひご覧ください。

 今回は、「トキソプラズマは人間にどのような影響をもたらすか」紹介しました。トキソプラズマは、マラリア原虫などと同じ「アピコンプレクサ」と呼ばれる単細胞生物の仲間に属します。しかしマラリア原虫とは異なり、普段は人間に対して重篤な影響を与えないため、知名度はまだまだ低い存在です。けれども妊娠時に初めて感染すると、胎児に重篤な障害を引き起こすことがある。だからこそ、「トキソプラズマは人間にどのような影響をもたらすか」、そして、「どのような対策を取っていくべきか」というのが大切な知識となります。

 次回は、「トキソプラズマはどのような生き物なのか」紹介していきましょう。



※1)トキソプラズマの感染については、トーチの会のHPの「トキソプラズマ」に詳しく掲載されていますのでご覧ください。トーチの会のHPでは、トキソプラズマやサイトメガロウイルスなどの母子感染症に関する詳細や予防法が掲載されています。
※2)全ての猫がトキソプラズマを含む糞をするわけではありません。詳しくはトーチの会HPの「猫とトキソプラズマ」に掲載されていますのでご覧ください)

参考Website
「トキソプラズマ症とは」(国立感染症研究所)
http://www.nih.go.jp/niid/ja/kansennohanashi/3009-toxoplasma-intro.html#r1
「先天性トキソプラズマ&サイトメガロウイルス感染症 患者会」(トーチの会)
http://toxo-cmv.org/index.html

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早川昌志(はやかわ・まさし)

1987年生まれ。微生物の研究をしながら、微生物に関する教材を作ったり、イベントの企画をしたりしています。

現在は、神戸大学大学院理学研究科生物学専攻博士課程在籍、日本学術振興会特別研究員(DC1)。

Twitterアカウント → @Markchloro

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