木のみかた

第26回 街の中に森がある

2016.03.25更新

 「 森 」と聞いて、どんな場所を想像しますか?

 僕は自分の肩書きを「 森の案内人 」と名乗っています。 でも70%くらいの確率で、お客さんに「 山の案内人 」と言い間違えられます。 この活動を始めてから5年間、ずっと間違えられています。


 もちろん僕の力不足もありますが、自分の肩書きを延々と間違えられると、そこには個人の言 い間違いを越えた「 なにか 」が、社会に蔓延しているような気がしてきました。
  3年くらい前から、このことについて考えています。みんなの間で、なぜ森が山に変換してしま うのか。

 そこには2つの理由があるような気がしています。

 

1つめの理由は、事実、日本の森はほとんど山にあるからです。
  平地は市街地や田畑になっている所が多いので、森と山が同義語になるのも無理はありません。 でも、これは声を大にして言いたいのですが、森と山はイコールではありません。



 森は、木がたくさん生えている場所のことを指しているのに対して、
 山は、大きく隆起している地形のことを指します。



 もう1つの理由は、みんなにとって、森は「 こっち側 」にあるのではなく「 あっち側 」にあ ることです。山は、あっち側の象徴なのです。
 つまり大多数の日本人にとって、森は日常を過ごすこっち側の空間ではなく、あっち側にある 非日常の空間なのです。



 しかし森は、あっち側で安住しているほど、ぬるい存在ではありません。 前回紹介した森の語源「 盛り 」の力で、あっち側はもちろん、こっち側でも生い茂り、日本列 島を再び森で覆おうとしています。
 
盛りパワーの体現者は草木たちです。
  日本国内に自生している5500種を超える草木が持っている盛りの力によって、再び森になろう としているのです。


 僕と森との出会いは東京でした。
 東京の街中にはビル群がひしめくように建っていて、おびただしい数の人々が住んでいます。
 コンクリートジャングルと一昔前はよく呼ばれましたが、それは今でも変わっていません。 で
 もそんな街中にあっても、静かで清らかな場所はあるのです。明治神宮や砧公園、等々力渓 谷など、たくさんの木々が生えている森は、これほど都市化が進んだ市街地の中でも、ひっそり と佇みつづけています。
 慌ただしい毎日の中、僕はそんな森たちと出会いました。

 ......みたいな出会いではありません。

 誰もが認める「 森 」に心が癒されて、そのことを、森と出会ったと表現しているわけではない のです。
 たしかに東京の市街地でも、たくさんの木々が生えている場所は以外に多いです。もちろん、それはそれで素晴らしいことだと思います。
 でも僕がとくに胸を打たれたのは、そんな誰もが認めるような森ではなく、街中での草木の営 み、そのものでした。

 たとえそこが、アスファルトに敷き詰められた、たくさんの人が行き交う街中であっても、そこには必ず「 隙間 」が生まれます。
 その隙間から、やがて草木が芽生えます。大きくても親指の爪くらいの大きさでしょうか。

 不思議です。人は誰も種を蒔いていないのに、草木は自然に芽生えます。

 芽生えたときの彼らは、ほとんどの人に気づかれません。気づかれないまま彼らは徐々に大きく なっていき、やがて手のひらサイズの大きさになります。
 それくらいの大きさになると人に見つかって、もれなく根元から伐られてしまいます。


 でも、もしもその草木を伐ることなく、ただ見守っていると、彼らはどのような姿になるでしょうか?

 すこし想像をしてみてください。

 草木は営みを止めることなく、着実に大きくなっていきます。

 彼らが大きくなってきて、人目につくようになると、いよいよ本格的な「 木 」の登場です。
 木は草みたいな大きさでは済まされません。空に向かってぐんぐん伸びて行き、枝葉を横へ広 げます。そんな木々が、街中で、溢れるように茂りはじめます。


 そして街はいつしか森になります。

 これは僕の空想ではありません。未来の立派な可能性の1つです。

 森になる可能性を秘めている草木は、人々が伐っても抜いても、絶えることなく、小さく芽生えつづけます。

 

森はあっち側だけではなく、こっち側にも来ます。 芽生える草木たちに手を出さなければ、街はやがて森になるのです。

 目線を下げて街を歩いてみましょう。
 きっとそこには、いつか森になる可能性を秘めた草木が、人知れず生えています。

 街の中に、森は宿り続けています。

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三浦豊(みうら・ゆたか)

1977年京都市生まれ。森の案内人、庭師。
日本大学で建築を学んで、庭師になるために京都へ帰郷する。
修行を2年間してから、日本中を巡る長い旅に出た。
2009年の春に京都に帰り、現在は京都府城陽市に住んでいる。

今、ホームページの「日本列島の点」を徐々に増やしている。
点は僕にとって「かけがえのない場所で、いつか日本列島が真っ白になったらいい」と願っている。
よかったら見てやってください。

旅が終わったと言っても、方々へ行きつづけている。それはずっと続けたい。
仕事の傍ら、自宅の庭のお手入れを一人で、人工林のお手入れを仲間とやっている。
古今東西の音楽と落語を聴くのが好き。温泉とラーメンも好き。

三浦豊

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