木のみかた

第29回 高貴でも、あくまで軽く

2016.05.12更新


 人が何もしなくても、街には一体どんな木が生えてくるのか?

 これから、その候補になる木を、1本ずつ紹介していきたいと思います。
 まずは、栄えあるトップバッターです。

 これから明らかにしていきますが、街中だとしても、じつに個性豊かな木々が、 次々と生えてくることが想定されます。
 次々といろんなのが生えてくるんだから、紹介するのは「 あいうえお順 」でも 良いかもしれないと最初は思いました。
 でもせっかくだから、よりドラマチックに紹介をしたい。そしてそんな中でもトップバッターは、やっぱり「 華のある 」木が良いと思いました。

 僕が選んだトップバッターの木は、桐( きり )です。







 日本広しといえども、桐くらいに大きな葉を付ける木は少ないです。
 いやよく考えてみると、桐は、日本に生えている木の中で最も大きな葉をつけて いるように思います。
 僕が今まで遭遇した中で最も大きかった桐の葉っぱは、驚くなかれ、なんとタタミ半畳くらいの大きさがありました。もはや傘にできるサイズを遥かに凌駕していました。
 その巨大すぎる葉を目の当たりにした瞬間、自分の中の「 葉っぱ概念 」がくつ がえって、「 なんだこれ 」と戸惑いながら、何ともいえない畏怖の念を感じたこ とを覚えています。

 桐は、街中で生えているのをよく見かけます。
 とくに手入れがされていないお庭や空き地、ちょっとした街のすきまで見かける ことが多いです。
 大きくなるのは葉っぱだけではありません。体もとっても大きくなります。
 大きくなると、樹高は10メートル以上になります。
 成長も早くて、ゴマの粒くらいの小さな種から芽生えて、3年で3メートルくらいになります。 でも、木の中では寿命が短命なほうで、人間と同じくらいです。100才も生きられ たら立派だと思います。







 この木は昔、よく庭に植えられてきました。
 庭に植える1番の理由は、成長した桐を材として利用するためです。
 昔は女の子が生まれると、庭に桐を植えて、その女の子が成長してお嫁へ行く時に、庭で立派に育った桐を伐って、その材でタンスを作り、嫁入り道具として持たせたらしいです。
 美しいエピソードだと思いませんか。
 こんな風習が、また復活したらいいですね。
 桐の材は、日本国内に生えている木の中では最も軽量で、狂いが少なく(湿度の 変化などで材の形が変化することを狂いといいます)、色も白っぽくて綺麗です。
 そのために、先ほどお伝えしたタンスや、下駄やお琴として使われてきました。

 5月くらいになると、白っぽい紫色の花を一房にまとめて咲かせます。
 そのように、たくさんの花を一房にまとめて咲かせることを、花房( はなぶさ )といいます。花房の大きさは人の頭くらいあって見応えがあるのですが、地上から はるか上で咲くので、ほとんど鑑賞対象としては見られません。

 でも桐の花と葉は図案化されて、現在の日本国政府の紋章に使われています。
 今までも、皇室や足利家、豊臣家が紋章として使用してきた歴史があります。桐 が図案化された姿は時代とともに箔( はく )が付きつづけて、まさにエスタブリッ シュメントの象徴になっているようです。
 そこには、人の目線よりもはるか頭上で咲き誇る「 高嶺の花 」という意味が込 められているようにも思います。

 ただ、桐は元々どこに生えていた木なのか、今でもよくわかりません。森へ行っ て、その森の自然度が高ければ高い場所であればあるほど、桐と出会う確率は格段 に低くなります。広大な原生林の中で、桐が生えているのを僕は見たことがありません。
 桐の故郷を求めて、中国の奥地とか彷徨ったら楽しいでしょうね。

 故郷はよくわかっていませんが、日本の街中で、彼らはたくましく生き続けてい ます。
 でもほとんどが、数年で巨大に成長する不気味な雑草として、人に伐られてしまいます。
 たしかに、とつぜん家の庭に巨大な葉っぱの植物が芽吹いてきたら、不気味になって伐ってしまう気持ちもわかります。
「その木は桐で、すごい木ですよ」と家主さんにお伝えすれば、もしかすると伐ら れることも少しは減るかもしれませんね。

 たくさんの桐が、まるで森のように生い茂っている町があったら、ぜひそこに住んでみたいです。







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三浦豊(みうら・ゆたか)

1977年京都市生まれ。森の案内人、庭師。
日本大学で建築を学んで、庭師になるために京都へ帰郷する。
修行を2年間してから、日本中を巡る長い旅に出た。
2009年の春に京都に帰り、現在は京都府城陽市に住んでいる。

今、ホームページの「日本列島の点」を徐々に増やしている。
点は僕にとって「かけがえのない場所で、いつか日本列島が真っ白になったらいい」と願っている。
よかったら見てやってください。

旅が終わったと言っても、方々へ行きつづけている。それはずっと続けたい。
仕事の傍ら、自宅の庭のお手入れを一人で、人工林のお手入れを仲間とやっている。
古今東西の音楽と落語を聴くのが好き。温泉とラーメンも好き。

三浦豊

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