木のみかた

第32回 日本人が誰でも知っている木

2016.06.23更新

 日本人が誰でも知っている木は何だろう?
 僕はやっぱり桜(さくら)かなと思いました。
 桜と聞いたら、99%の人が、あの絢爛豪華な花を咲かせる姿を思い浮かべると思います。でも桜のそばで1年中過ごしていると、花を咲かせるだけではない、彼らのいろんな顔が見えてきます。

 桜は大胆かつデリケートな木です。 直射日光を浴びるのが大好きで、それでいて水をたくさん含んだ肥沃な土を好みます。気に入った所ではどの木よりも大きく育って、春になったら圧倒的に華やかな花を一気に咲かせます。
 でも「十分な光、肥沃な土、十分な水分」の3つのうちどれかが欠けると、ヘニャヘニャと消 え入るように枯れてしまいます。

 街中では直射日光が当たる所はたくさんありますが、水をたっぷりと含んだ肥沃な土がある所はそれほど多くありません。もしもあるとしたら、それは公園か河川敷か、広めの庭くらいでしょうか。
 そして、そんな場所はたいてい人々が定期的に手入れをしているので、桜みたいな木が草にまぎれて生えてきたとしても、雑草としてまとめて刈られてしまいます。








 それでも街を歩いていると、ピョンピョンと力強く芽生えている高さ30センチくらいの桜の若木を見かけることがあります。その姿からは、実から芽生えたばかりの初々しさはありません。 まるでずっと前からそこに居座り続けているかのような、堂々とした姿をしています。 それもそうです。その堂々たる桜の若木は、ずっとそこで生きつづけてきたのです。


 桜の根は、この木の生命力を象徴している器官で、他の木にはあまりない特徴を持っています。 地中深くに根を伸ばすと同時に、地表からすぐ下の所へ、浅い根を横に伸ばします。


 地表からすぐ下の所に伸びた根は、木から離れた場所でも日差しがたくさん当たることを察知すると、そこからピョンと芽を出します。この連載の一番上に描いているイラストのような芽吹き方です。
 桜の根は強力です。自分の根っこからまた新しい体を地上へ芽吹かせると同時に、他の桜が生えてくることを、物質を出して全力で妨害します。 直射日光を好むこの木にとって、自分が根っこを広げているエリアに同じ桜が生えてくることは、 すなわち食うか食われるかの過酷な競争を意味するので、それを未然に防ぐのです。


 これほど根っこで自己主張をする木も珍しいです。


 たとえ地表部分が枯れてしまったり、人に根元から伐られたとしても、地中の根は生きていることが多いです。 ピョンと力強く芽生えている桜の若木を見かけたら、かつてそこには立派な桜が生えていた可能性がとても高いです。


 桜は街中でもよく見かける木です。
 2007年に国土交通省が行った調査で、街路樹として植えられている木の本数が樹木別にまとめられました。

 その結果、日本全国で街路樹として最もたくさん植えられている木は銀杏(いちょう)で57万本。桜は49万本で、堂々の2位でした。
 街路樹以外にも、桜は公園や学校の校庭などでたくさん植えられているので、日本全国に植えられている桜の本数は、200万本以上は優にあると思います。


 うららかな春の明るい日差しを浴びながら咲く花と、土中の水分と養分を求めて地中に広がる強力な根っこ。桜はまるで、1本で陰陽を体現しているような木です。
 もしかすると、日本人は昔から無意識の内に、花だけではない、桜のそんな力強さに魅了されてきたのかもしれませんね。










お便りはこちら

みんなのミシマガジンはサポーターの皆さんと運営しております。

三浦豊(みうら・ゆたか)

1977年京都市生まれ。森の案内人、庭師。
日本大学で建築を学んで、庭師になるために京都へ帰郷する。
修行を2年間してから、日本中を巡る長い旅に出た。
2009年の春に京都に帰り、現在は京都府城陽市に住んでいる。

今、ホームページの「日本列島の点」を徐々に増やしている。
点は僕にとって「かけがえのない場所で、いつか日本列島が真っ白になったらいい」と願っている。
よかったら見てやってください。

旅が終わったと言っても、方々へ行きつづけている。それはずっと続けたい。
仕事の傍ら、自宅の庭のお手入れを一人で、人工林のお手入れを仲間とやっている。
古今東西の音楽と落語を聴くのが好き。温泉とラーメンも好き。

三浦豊

バックナンバー