木のみかた

第35回 ネーミングは慎重に

2016.08.11更新

 暑い毎日がつづいていますね。
 そんな中、真夏になると花を咲かせる木がいます。
 臭木(くさぎ)です。

 花弁は真っ白で、萼(がく)がピンク色の、ジャスミンとよく似た花です。
 香りもすばらしくて、こちらもジャスミンの花とよく似ています。







 花の奥にある蜜は、クロアゲハという黒いチョウチョの好物です。
 真っ白な花のまわりには、よく真っ黒なクロアゲハが飛び交っていて、まるでオセロのような光景になります。

 ところで、虫が見ている色世界は、僕たちが見ている色世界とは異なります。
 僕たちが白と感じている色は、彼らから見ると、まるで蛍光塗料のように光り輝いて見えています。

 臭木は真っ白な花を咲かせて、魅惑的な香りを放ち、クロアゲハをはじめとした虫たちをおびき寄せ、蜜をあげる変わりに、花粉を彼らの体にくっつけて受粉を手伝ってもらいます。まさに持ちつ持たれつ、ウィンウィンの関係です。

 白い花のまわりに、真っ黒なチョウチョが飛び交っている光景は、僕にとって真夏の風物詩です。

 臭木は明るい日差しが大好きで、森の中でも明るい所に生えています。
 明るい日差しさえあれば、どんな所でも元気いっぱいに生えるので、街中で芽生えているのもよく見かけます。
 しかし臭木のチャームポイントは、真夏だけではありません。
 夏が終わっても、白い花の下にあったピンク色の萼はそのまま残り、秋になったら、その中からコバルトブルー色の実を実らせます。
 そのコントラストは、とってもカラフルです。









 実とそのまわりを派手にしているのは、鳥たちに気づいてもらうためです。
 鳥が見ている色世界は、他の動物たちと比べれば、僕たち人間が見ている色世界とよく似ています。僕たちが派手だなあ思う色は、鳥にも派手に見えています。

 臭木の思惑は、彼らに気づいてもらって、実を食べてもらって、種を排泄物と一緒にどこか遠くへ運んでもらうことです。

 臭木は、虫と鳥とうまく共存共栄の関係を結んでいます。
 この生き方は、今のところ大成功をおさめていて、日本全国、なんと南は沖縄から北は北海道まで、森から街中まで、たくさん生えています。

 花も実も美しくて、大きくなっても5メートルくらいなので、庭に植える木としてもうってつけだと思うのですが、庭木としては、ほとんど流通していません。

 とっても魅力的な木だと思うのですが、なぜか知名度が上がらないのです。
 それはなぜか。うっすらと気づいている人もいると思います。

 そうです。「 臭木(くさぎ) 」という、残念すぎる名前のためです。

 なぜこんな不名誉な名前を付けられているのかというと、葉が放っている香りのためです。葉を さすった手を自分の鼻に近づけてみると、なかなか独特な香りがします。
 やや風味の弱い焦がし油のような匂いです。ビタミンの匂いと言う人もいます。
 昔の日本人にはこの香りを臭いと感じる人が多かったので、こんな名前がつけられました。
 でも臭木の名誉のために言っておきたいのですが、僕はそれほど臭いとはどうしても思えません。
 臭木の葉っぱは臭いのか? 僕なりに調べています。
 森の案内をしていて臭木が生えているのを見つけると、一緒に歩いている人たちに葉の香りを嗅いでもらうようにしています。そして感想をみなさんから聞くのです。
 良い匂い! と感じる人はそれほど多くはないものの、まあ悪くない香りだね。と言う人が圧倒 的に多くて80%くらい。どちらかというと不快と感じる人は20%くらいで、臭い! 嫌だ! と顔をゆがめる人は、まだいません。
 また、臭木の葉っぱの香りには虫除けの役割があるため、そのおかげで、この木の葉っぱが虫たちにかじられているのを見かけません。

 名前というのは、僕たちが思っている以上に大きな力を持っているようです。
 もしも、この木のことを好意的に受け止めた名前が過去に付けられていたら、彼らの運命も変わっていたことでしょう。
 たとえば、夏の白花(なつのしろばな)とか...オセロの木とか、赤青木(あかあおぼく )とか......

 でもこの木は、人間界では知名度ほぼゼロですが、北海道から沖縄まで、そして森から街まで、 伸び伸びと大繁栄しています。

 そして、たくさんのクロアゲハや鳥たちに、食べものを提供しつづけています。








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三浦豊(みうら・ゆたか)

1977年京都市生まれ。森の案内人、庭師。
日本大学で建築を学んで、庭師になるために京都へ帰郷する。
修行を2年間してから、日本中を巡る長い旅に出た。
2009年の春に京都に帰り、現在は京都府城陽市に住んでいる。

今、ホームページの「日本列島の点」を徐々に増やしている。
点は僕にとって「かけがえのない場所で、いつか日本列島が真っ白になったらいい」と願っている。
よかったら見てやってください。

旅が終わったと言っても、方々へ行きつづけている。それはずっと続けたい。
仕事の傍ら、自宅の庭のお手入れを一人で、人工林のお手入れを仲間とやっている。
古今東西の音楽と落語を聴くのが好き。温泉とラーメンも好き。

三浦豊

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