木のみかた

第36回 世界を覆う勢いで

2016.08.26更新

 草木は、どこかかよわい存在で、大切に守っていかなければならないと思っている人も多いようです。とくに彼らと直接ふれ合うことが少なくなった現代の日本では。
 街で生まれ育った僕も、なんとなくそんなノリで生きてきました。植物をどこか上から目線で見ていたのかもしれません。
 日本中を約5年間巡っていたときも、植物たちのことを、どこか繊細で優しくて、大きな父親と母親を足して2で割った存在のように感じていました。

 ところが、そんな考えをひっくり返すような出来事が、2年前の夏に起こりました。

 それは、2年半前の真冬にさせてもらった庭作りがきっかけでした。
 以前お庭のリニューアルをさせてもらった方の紹介で、瀬戸内海にうかぶ小豆島の別荘のお庭を作らせてもらったときのことです。

 広くて穏やかな海原と、オリーブの群落が風に揺れている半島と、遠くに四国の山々が見渡せる200坪くらいの広さの庭に、ススキやハギ、ハーブやイネ科の草などの苗をたくさん植えて、種もたくさん蒔きました。

 作りたての庭は、まるで、ちょっとしたパラダイスの始まりのようでした。

 それから5カ月が経った夏、僕は期待に胸をふくらませながら小豆島へ渡りました。
 植えたり蒔いたりした草木が芽を出して、健気に生えはじめている姿を思い浮かべながら庭の入口に立ったとき、真夏だったのに僕は凍りつきました。
 目の前に広がっていたのは、クズがすべてを覆っていた庭でした。
 あの草や木も、あのハーブも、ぜんぶクズが覆っていました。
 その圧倒的な生命力に、呆然としたことを昨日のように覚えています。

 クズは、日本全国に生えている蔓(つる)植物です。
 蔓は、じつにしたたかな生き方をしています。

 多くの樹木は大地に根を張って、重力に抗いながら空へ向かって枝葉を伸ばし、自立して生えています。ところが蔓は、それらとは、かけ離れた生き方をしています。
 自分の茎を伸ばすだけ伸ばして、どこかに生えている木や草をよじ上っていきます。自分の幹や枝を太く強くすることはしないで、とにかく茎を伸ばして他の何かを支えにして、光を獲得していきます。
 伸ばした茎が地面に着いたら、そこから新たに根を地中へ伸ばすこともできるので、自分の体 が、あちこちに増殖していきます。

 クズは、そんな蔓植物の中でも最強の呼び声が高く、爆発的な成長力を持っています。
 夏には1日に1メートル伸びると噂され、駆除方法は薬剤散布かヤギを飼うしかないとか、まるで怪獣のように扱われています。

「 日本に自生している植物は、みんな繊細で協調性を持っている草木ばかりだ。そんな中、クズはただひたすら周囲を覆ってしまう。秋になっても紅葉しないで、冬になったらパタンと葉を落とす。このデリカシーのない姿は外来種に違いない 」と言う人もいます。







 今となっては厄介者ですが、クズは長年、日本人から愛されてきました。
 秋口に咲く紫とピンク色の花は、秋の七草の一つに選ばれていますし、地中深くへ伸ばす大きな根からは、風邪薬の葛根湯(かっこんとう)の主成分になる葛根(かっこん)や、和菓子の原料になる葛粉(くずこ)が採れ、引っぱりに強い茎は紐や籠の材料に使われて、葉っぱは家畜の好物だったので餌としても重宝されました。 何度伐っても生えてくるのも大いに喜ばれました。

 クズが自生しているのは日本や東南アジア一帯ですが、家畜の餌として19世紀末にアメリカへ渡り、積極的に植えられました。
 根を深くまで伸ばすために乾燥にも強いことがもてはやされて、乾燥地の緑化植物としても植えられました。クズを植えていた時代もあったのですね。今から振り返ってみると、まるでゴジラに餌をあげていたように思えてきます。

 最初の頃はアメリカ人も喜んでいたようですが、次第に繁茂していくクズを見て青ざめていき、 1970年に農務省がクズの雑草宣言をして、いよいよ国をあげて煙たがられるようになりました。
 それでもクズは増え続けて、今やアメリカ南東部の原風景のようになっています。
 日本には、クズのライバル、イネ科の草やササが自生しているので、クズの勢いが削がれて力の均衡が保たれているようですが、アメリカにはクズの勢いを止められるような強靭な草木が自生 していないのも、クズが爆発的に増える原因だったようです。

 日本の市街地でも、まるでアメリカ南東部のように、クズがすべてを覆っている所があります。 それを見ると、なんとも荘厳な気分になります。

 ただクズも生き物なので、もちろん弱点があります。それは日陰では生きていけないことです。 直射日光を何よりも好むので、日陰になると嘘のようにいなくなります。

 覆われる草木にとってクズは非常に迷惑な存在ですが、森にとっては大切な存在です。
 クズが森の外側の明るい部分を覆うことで、森の中の湿度が保たれ、強すぎる太陽光が森の中に入らないようにします。こうして、森の中でしか生きられない植物や動物などを守っています。
 また、森のまわりで生い茂っているクズは、外敵が多い小鳥たちにとって絶好の住まいになります。

 その存在は正義なのか悪なのか、どちらなのでしょうね。


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三浦豊(みうら・ゆたか)

1977年京都市生まれ。森の案内人、庭師。
日本大学で建築を学んで、庭師になるために京都へ帰郷する。
修行を2年間してから、日本中を巡る長い旅に出た。
2009年の春に京都に帰り、現在は京都府城陽市に住んでいる。

今、ホームページの「日本列島の点」を徐々に増やしている。
点は僕にとって「かけがえのない場所で、いつか日本列島が真っ白になったらいい」と願っている。
よかったら見てやってください。

旅が終わったと言っても、方々へ行きつづけている。それはずっと続けたい。
仕事の傍ら、自宅の庭のお手入れを一人で、人工林のお手入れを仲間とやっている。
古今東西の音楽と落語を聴くのが好き。温泉とラーメンも好き。

三浦豊

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