木のみかた

第38回 TREE OF HEAVEN

2016.10.06更新

 街に生えている木を愛でるには、まず知っていただきたい最初のステップがあります。
 それは、まずは「 その木の背景を知ること 」です。
 その木は「 人が植えたのか 」、もしくは「 自然に芽吹いたのか 」、どちらかを探ってみるのです。
 これは、とっても大切なポイントです。第1回目に紹介させてもらった方がよかったくらいです。

 この連載で紹介をしている木は、圧倒的に、後者の「 自然に芽吹いた木 」ばかりです。でもまあ、桜や楠などは人が植えることもよくあります。

 人が植えたのか自然に芽吹いたのかを、どのようにして見分けるのか。それは、その木の姿と、 生えている場所で見分けます。
 「 人が植える木 」は、造園屋さんが庭木畑から連れてきて植えるので、ある程度の大きさ以上の木(低くても2メートルくらい)ばかりです。そしてそれらの木の幹は、すっとまっすぐに伸びていて、いかにも育ちが良さそうです。土がある所の真ん中、つまり「 植えるんだったらここだよな 」と誰もが納得できるような場所に生えています。
 それに対して「 自然に芽吹いた木 」は、小指の爪くらいの大きさから10センチくらいまで、 草のように、あるいは草々にまぎれて生えています。そして30センチくらいの大きさになると、 人が植えた木にはない貫禄を備えはじめます。まるで野武士と背広を着た就活中の学生くらいの差があります。
 生えている場所がトリッキーなのも、自然に芽吹いた木の特徴です。アスファルトとコンクリートブロックの間とか、植えられている木の根元とか。その生えている場所を観察していると、人智を超えた自由さに見とれます。
 まるで、作為を感じさせない現代アートのインスタレーションを鑑賞しているような気分になります。







 今回紹介をする木は、神樹(しんじゅ)です。

 街を歩いていると、この木を非常によく見かけます。
 とくに大きな街の車道沿いで、まるで当たり前の風景の一部みたいに、人が植えた木々にまぎれて生えています。

 この木は別名、庭漆(にわうるし)とも呼ばれていて、その名前の通り、前回紹介をした山漆(やまうるし)とよく似た姿をしています。
 まるでチーム・ヤマウルシの親玉のような、とびきり大きな羽状複葉((第37回の「 駆け抜けるチーム・ヤマウルシ 」を参照)を茂らせています。















 その姿と名前から察せられるように、ドラマチックなまでに速く、大きな木になります。

 神樹という名前は、この木の英語名、TREE OF HEAVEN から来ています。
 なんとなく景気の良さそうな名前です。ROCKの曲名にしたら売れそうです。
 この木はその名にふさわしく、まさしく天にも届かんばかりに、空へ向かって、まっすぐに伸びます。
 英語の名前から和名が生まれたように、明治時代に海外から渡ってきました。中国に自生している木のようです。

 葉っぱを好んで食べる、シンジュサンという蛾(カイコに近い種類)を育てて褐色の繭を作らせるために植栽したり、まっすぐに伸びてすぐに大きくなるので、庭木や並木として植えられたようです。
 今はそのような用途もほとんど無くなり、神樹(しんじゅ)は、環境省が侵略的外来種として 駆除を薦めるくらいに、ものすごい勢いで増えつづけています。
 また、根から出すアレロパシーという物質が、まわりに生えている草木の成長も妨害します。
 あまり良い評判は聞きませんが、その必死な感じ、僕は嫌いではありません。

 大気汚染にも強いので、車の排気ガスが充満している車道でも、平然と育っています。
 車道でも自然に芽生える神樹は、造園屋さんに毎年根元から伐られるので、見かけるのは3メートルくらいまでの高さのものばかりです。
 ということは、彼らは人に根元から伐られても、1年で3メートルくらいまで成長をするということになります。

 神樹には、すごいエピソードがあります。
 遡ること71年前の1945年8月6日、広島市の中心部に原子爆弾が投下され、たくさんの人が亡くなり、街も灰燼(かいじん)に帰しました。
 そのあまりの荒廃ぶりに、半世紀以上は植物も芽吹かないだろうと云われていたのですが、爆心地からたった410mしか離れていない場所に生えていた神樹が、被爆をした翌年に芽を出しました。その姿に人々は驚いて、ずいぶんと勇気づけられたそうです。
 誰もこの木の種類が何なのかわからなかったのですが、いつしか誰かが、この木のことをテンシラズと名づけて、人々はこの木の成長を見守りつづけました。

 その神樹自体は2014年に伐り倒されてしまいましたが、孫にあたる神樹が、今も元気に育っているそうです。

 このようなエピソードを聞くと、木は人よりも強いのかもしれないと思えてきます。







 ある日、車道沿いの一角で、自然に芽生えた数本の神樹が、伐られることなく、伸び伸びと茂っているのを見かけました。 今まで見たことのない光景だったので、僕は車を路肩に停めて、彼らの勇姿を撮りました。







 その時、僕は確信しました。
 ああ、彼らはほんとうに、街も森にするのだと。

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三浦豊(みうら・ゆたか)

1977年京都市生まれ。森の案内人、庭師。
日本大学で建築を学んで、庭師になるために京都へ帰郷する。
修行を2年間してから、日本中を巡る長い旅に出た。
2009年の春に京都に帰り、現在は京都府城陽市に住んでいる。

今、ホームページの「日本列島の点」を徐々に増やしている。
点は僕にとって「かけがえのない場所で、いつか日本列島が真っ白になったらいい」と願っている。
よかったら見てやってください。

旅が終わったと言っても、方々へ行きつづけている。それはずっと続けたい。
仕事の傍ら、自宅の庭のお手入れを一人で、人工林のお手入れを仲間とやっている。
古今東西の音楽と落語を聴くのが好き。温泉とラーメンも好き。

三浦豊

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