喫茶店入門

第4回 なぜこのお店は持っているのか?

2009.09.17更新

今の時代、カフェを経営していると、メディアに取り上げられる機会に恵まれます。雑誌・フリーペーパー・ウェブサイトなどでは新店紹介、エリア特集、斬新ウリのお店などの特集が組まれ、カフェが紹介されています。

ただメディアに露出し、有名になっていたお店が一年後にはなくなっていたということも、しょっちゅう起こっています。注目され、華やかに見えているということと、商売として回っているということとは、必ずしもイコールではありません。

一方で、街なかにはそんなに目立たず、メディアで紹介されることもないものの、何十年と続いている喫茶店がいっぱいあります。
また、カフェブーム以降にできたお店の中にも、そんなに流行っているわけでもないのに、ずっと続いているところも結構あります。

お店が長続きする理由は、表に見えていることだけでは分かりません。「つぶれないお店」には、つぶれないだけの理由があります。そうしたお店の水面下の事情を、いくつか見てみましょう。


◆持ち物件での営業

数年前から「おうちカフェ」「自宅カフェ」という言葉をよく耳にするようになりました。
ですが、30年以上続いている喫茶店の話を聞いていると、たいていの場合、店舗物件を所有し、住居を併設させていることが分かります。つまり「おうちカフェ」なのです。
こうしたお店では月々の家賃がかからず、また食材を家庭消費分とシェアすることでランニングコストを抑え、経営を安定させています。


◆余裕がある人がやっているお店

「道楽商売」という言葉は、通常いい意味では使われません。「商売には本気で取り組むべきで、道楽でするなどもってのほか」一般的にはそう考えられていますが、儲けを度外視してやっているお店というものも、現実には結構な割合で存在します。

裕福な人が趣味と税金対策を兼ねてやっているお店、定年してから退職金を使ってはじめたお店、パトロンがいる人のお店、ダンナさんにしっかりとした稼ぎがあり、生活の心配はない奥さんが経営するお店、あたりが一般的なパターンです。

また、何十年と喫茶店を続けてきて、今は高齢になった店主の中には、年金収入で生計を立てつつお店を続けているという方も結構おられます。赤字経営で、自分の年金を旅行やゴルフに使う代わりに商売につぎ込んでいる、という話も聞きます。


◆開業費用をかけていないお店

お店を構えるには数百万円からの開業資金が必要ですが、これを何らかの方法で減らすことができれば、お店の経営はずいぶん楽になります。

最近ではセルフビルドといって、お店の内装工事を自ら手がける人も多くなりました。電気・ガス・空調工事など、プロの手を必要とする部分以外は自分でやることで、工事代金をおさえているのです。中には端材をもらってきて家具を作ったり、テーブル・椅子なども貰い物や拾ってきた物でまかなっていたり、建築家や空間デザイナーの出世作ということで、無償で内装工事を依頼しているというツワモノたちもいます。

また、居抜きでの開業も、開業費用を抑えるための方法です。
居抜きとは、もともと店舗だった物件の厨房設備、什器備品などをそのままの状態で譲り受けて商売を始めることをいいます。商売がうまくいかなかったお店、と敬遠されがちですが、物件の持っているポテンシャルを活かせる人、知り合いが多くお客さんが呼べる人、すでにお客さんがついている人にとってはメリットの大きい方法です。

最近では内装業者がお店を経営するパターンも増えています。自前で改装を行うので、外注するよりも費用がかからない、というわけです。また素人がお金をかけて作ったお店が閉店した後に、それを二束三文で譲り受けて商売を成功させる、といった玄人っぽい方法論もあるようです。


◆副業として経営しているお店

仕事の時間を自由に決められるフリーランスの人や、クリエイティブ系の事務所が、副業としてカフェを経営しているケースが最近よく見られます。

彼らにとっては、打ち合わせをお店で済ませることができる、お客さんから情報を得られる、それがクリエイティブな発想を生み出すきっかけになる、お店をやっていることで知名度が上がり、本業の仕事にもつながる、など数多くのメリットがあります。

特にオーナーがインテリアデザイナー・建築家の場合は、自分が設計した空間を多くの人に見てもらうためのショールームとしてお店を活用できます。こうしたお店のオーナーは、本業が回っていれば、お店で大きく儲ける必要はないのです。


◆お店の外で売れるもの

お店の外で売れる商品、またはテイクアウトで提供できる商品を持つことは、飲食店の経営にとって大きな支えになります。

昔の喫茶店の経営を支えていたものに、コーヒーの出前がありました。特にオフィス街や官庁街の近くのお店では、会議などで一日に100杯、150杯のコーヒーの注文があり、それがお店の〝ドル箱〟になっていたという話をしばしば聞きます。

また昔からの喫茶店では、ドーナツや自家焙煎のコーヒー豆を売っているところがあります。今のカフェでも、コーヒー豆、自家製のパン、ケーキ、焼き菓子などのテイクアウトとインターネット通販に力を入れているところがあります。特にパンやケーキなど日々消費される商品の場合は、顧客がつけば経営を安定させることができます。贈り物やお取り寄せをきっかけにお店の存在を知ってもらい、それが来店につながるというメリットもあります。

その他、パーティー、イベント、壁面貸し、空間貸し、広告料収入などが、お店の経営を支える重要な収入源になっているケースがあります。

しかし、今からお店を出す人に特に知っていただきたいのは、「誰にでも売らなくてもいい」というお店のあり方です。

長く続いている喫茶店の中には、一見(いちげん)のお客さんがほとんど来ていないお店があります。

桃谷の住宅街にある、30年近く続いている喫茶店。
ここには、一見のお客さんがもう10年ほど来ていないそうです。このお店は町内会、子供会、婦人会とのつながりが深く、地域の方々が日々訪れています。また近所の自営業の方が商談のために日に何回もお店を利用しています。

南田辺にある古くからの喫茶店では、お店に入るやいなや、店主のおばあさんが僕にお金を渡そうとしたことがあります。集金の人と間違われたのですが、このお店では、知らない人が入ってくること自体が、想定外なのでしょう。

大阪には、馴染みの立ち呑み屋に行くことを「出勤簿を押しに行く」という言い回しがありますが、お店の立場からすると、出勤簿を押すほどに足を運んでくれるお客さんは貴重です。毎日お店に寄って、アテを1、2品、お酒を1、2杯頼んで、1000円ほどをお店に落として帰っていくこのお客さんが、もし出勤簿よろしく、月に20回来てくれたとすると、月2万円の売上をお店にもたらしてくれます。

では、仮に家賃が数万円程度で、1人でやっているお店の場合、「出勤簿を押すお客さん」が何人いれば、店主は暮らしていけるでしょうか?・・・おそらく20人から30人程度いれば、ほかのお客さんを当てにしなくてもやっていけるでしょう。

喫茶店のコーヒーチケットやスナックのボトルキープが狙っているのも、こうしたお客さんの囲い込みです。

特定少数の常連客に支えられるビジネスモデルは、メディアで紹介されて不特定多数の一見客が訪れるお店よりも足腰が強い。これは街場のお店の経験則であり、かつメディアを通じて情報を得ている人が見落としてしまうポイントでもあるのです。

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山納洋(やまのう・ひろし)

1971年西宮市生まれ。93年に大阪ガスに入社。神戸アートビレッジセンター、扇町ミュージアムスクエア、扇町インキュベーションプラザでの勤務を経て、現在は大阪21世紀協会において文化プロデュースの仕事につく。一方で、トークサロン企画「扇町Talkin’About」(2000~)、日替わりマスターによるバー空間維持活動「Common Bar SINGLES」(2001~)、表現空間としてのカフェの共同維持活動「common cafe」(2004~)などをプロデュースしている。

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